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環境に配慮した社会に移行する千載一遇のチャンスを手にした世界

ほとんど人がいないマンハッタンのセントラルパークのジョギングコースを歩くアライグマ。2020年4月16日(AFP)
ほとんど人がいないマンハッタンのセントラルパークのジョギングコースを歩くアライグマ。2020年4月16日(AFP)
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02 May 2020 09:05:51 GMT9
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Ranvir Nayar

メディア報道はこの数週間、厳重なロックダウン規制が何週間も続いた後、世界各地の空気と水がいかにクリーンになったかにスポットライトを当てた。多くの川・湖・海がかつてないほどクリーンになり、汚染がひどかったインドのパンジャブの平地では空気がクリーンになった結果、過去30年以上にわたって見えなかった荘厳なヒマラヤ山脈が望めるようになったほどだ。

5か月前に中国でコロナウイルスのパンデミックが発生して以来、世界は確かにずっとクリーンになった。第一に、ウイルスの発生地と考えられている武漢を取り巻く非常に広い地域で、全産業の閉鎖を含む完全なロックダウンを昨年12月に直ちに発表したのは中国だった。その後、欧州やアジア、南北アメリカ大陸をはじめとするその他の多くの国でウイルスが蔓延した結果、運輸や工業など、環境を汚染していた人間の活動のほとんどすべてがその休止を余儀なくされた。

この期間に人間の行動が著しく変わり、世界中の空気や水、土地の質が向上しただけでなく、動物の世界との関わりを何10年も前に完全に失ったと考えられていた多くの都市で野生動物が目撃されている。

米国では、二酸化炭素の排出量が今年7.5%減少するとみられていて、30年近く前に始まった気候変動交渉以来で最高の減少幅となった。

同様に、欧州でも排出量が58%減少している。インドでは、その主要都市の全部で空気の質が著しく向上しており、何億もの人たちが直ちにその恩恵を受けた。ほとんどの航空機の運航が見送られているなか、3月だけで航空機による排出量が2,800万トン減少した。これは、600万台の自動車を1年間路上から排除した場合に匹敵する。

多くの人たちはこれを自然のための勝利であるとして、データを推定して、地球の気候変動をスローダウン、それどころか温暖化を止めて逆転させる方法として今回の出来事を位置付けようとしている。広範囲にわたって人間の活動が停止するなか今年上半期、世界の二酸化炭素排出量が初めて大幅に減少する公算が大きい。

しかし、これを気候変動に対する活動の勝利と呼ぶのは希望的観測に過ぎない。実際ほとんどの国では、ロックダウンが解除されたとたんに経済活動が一斉に再開されるはずだ。ロックダウンにより非常に大きな影響を受けた何10億もの人々を支援するために、緊急の経済再生措置を直ちに実行するよう、政治家に非常に大きな圧力がかかっている。

各国がパリ協定に基づく気候変動を止めるための公約を忘れるか、少なくとも無視して、かわりに経済再生に専念する公算が大きい。今年下半期がどうなるかを示す兆しはすでに中国に現れている。中国はロックダウンの緩和に伴って重工業を推し進めており、3月の最初の3週間に承認を受けた石炭火力発電所の数は、2019年を通して承認された数よりも多い。

ロックダウンを解除して経済活動を推進するようになったら、他の国も同様の道を辿る可能性が高い。数10兆ドル規模に上る史上最大の経済刺激措置がとられて、通常の製造・運輸活動が再開したとき、世界の汚染レベルは著しい増大に転じるはずだ。2008年の世界金融危機に続く経済刺激措置はエネルギーを大量に消費して、排出量の急増をもたらした。

したがって残念ながら、景気の刺激に本腰を入れて取り掛かったとき、世界の指導者にとっての気候変動の優先順位は低くなるだろう。確かに、当初年内の開催が計画されていた延期中のグラスゴーの国連気候変動サミットの行方は、会場になるはずだったコンベンションセンターがコロナウイルス感染症患者の治療のための病院に転用されている現状、その行方すらまったく不透明だ。

残念ながら、景気の刺激に本腰を入れて取り掛かったとき、世界の指導者にとっての気候変動の優先順位は低くなるだろう。

Ranvir Nayar

しかし気候変動をないがしろにすることは、世界の利益にならない。コロナウイルスのために落ちた穴から這い上がろうとしている世界は、千載一遇のチャンスを逃しつつあるのだ。指導者が少しだけ大胆なビジョンを持つことが、経済と気候変動対策へのコミットメントが世界にとって対立するものではなくなり、相補的なものに変わることの一助になるかもしれない。

世界の指導者には、環境政策やインセンティブを景気刺激策の中心に据える千載一遇のチャンスが与えられており、環境保全に関する合意に向けた下地を作って、これまでになかったクリーンエネルギーへの強い公約と共に、気候変動との闘いを強化することができる。疑いなくチャンスはそこにあり、利益もそこにある。唯一見守るべきは、現代の指導者が、新しい世界秩序を創るために必要な道徳的、政治的な勇気とビジョンを持っているかどうかだ。

Ranvir S. Nayarは、出版、コミュニケーション、コンサルティングサービスを網羅する、欧州とインドに本拠を置く世界的プラットフォームであるMedia India Groupの編集責任者

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