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福島原発からの数週間以内の放水、事業や生計の妨げになるとの懸念生む

2011年3月11日の地震と津波により、福島第一原発の冷却システムが損壊し、3基の原子炉がメルトダウンして汚染された内部の冷却水は、その後、漏れ続けていた。(AFP)
2011年3月11日の地震と津波により、福島第一原発の冷却システムが損壊し、3基の原子炉がメルトダウンして汚染された内部の冷却水は、その後、漏れ続けていた。(AFP)
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25 Jul 2023 05:07:45 GMT9
25 Jul 2023 05:07:45 GMT9

いわき:日本の各地で海開きが始まった。休日の行楽客にとってはシーフード、事業主にとっては良い時期だ。しかし福島では、それもすぐに終わってしまうかもしれない。

津波に襲われた福島第一原子力発電所では、数週間以内に処理済み放射性廃水の海洋放出が始まると見込まれており、激しい論争を巻き起こした計画は、依然として国内・国外から猛烈な抗議を受けている。

住人たちは、原発事故から12年が経った放水によって、福島のイメージが改めて毀損され、事業や生計に損害を受けるのではないかと心配している。

「健全な海がなければ生活が送れません」と、原発の約50km(30マイル)南にあるいわき市薄磯海岸で民宿を営む70歳の鈴木幸長氏は言う。政府はいまだに放水開始時期を発表していない。

放出による損害があるのかどうかとその規模は、いまだに明らかになっていない。しかし住人たちは「仕方がない」と感じていると言う。どうにもできないという意味だ。

鈴木氏は、少なくとも海開きが終了する8月中旬まで、計画を保留することを当局へ求めている。

「放水について意見を尋ねられたら、私は反対と答えます。でも、私に止めるすべはありません。政府は一方的に計画を作り上げて、とにかく放出するからです」と鈴木氏。「海水浴中に放水されることは、たとえ害がないとしても、完全に一線を超えています」

鈴木氏によると、薄磯海岸は、処理水が福島第一原発沖から親潮に乗って南下してくる通り道にあるという。

政府と運営会社の東京電力ホールディングス(TEPCO)は、2011年の原発事故以来、大量に溜まり続ける汚染水管理に苦闘しており、海洋放出計画を夏に発表した。

この計画では水を処理し、100倍以上の海水で希釈してから、地下トンネルを通じて太平洋へ放出するという。こうすることで、国内・国際基準よりも安全になるとのことだ。

鈴木氏は、政府の啓蒙活動では完全には納得していない人たちの中の一人だ。その啓蒙活動は安全面のみを強調していると批評家は言う。「安全かはまだわかりません」と鈴木氏。「もっと後にならないとわかりません」

震災前の薄磯地区には家族経営の民宿が12軒以上あった。鈴木氏が50年経営している「鈴亀(すずかめ)」は、両親から30年前に引き継いだもので、津波の後も存続している唯一の民宿だ。鈴木氏は地区の安全委員会会長を務め、地区で唯一の海の家を運営している。

鈴木氏によると、宿泊客が予約をキャンセルしても、放水について言及することはないだろうから、推測しかできないだろうとのことだ。「宿泊客には新鮮な地元の魚を出しています。海の家はゆっくり休みたい訪問客向けです。海は私の生計の源です」

2011年3月11日の地震と津波により、福島第一原発の冷却システムが損壊し、3基の原子炉がメルトダウン。内部の冷却水は汚染され、その後、漏洩は続いた。その水は回収、ろ過されて1,000基ほどのタンクに貯蔵されているが、2024年初めには満杯になる見通しだ。

政府とTEPCOによると、水を移動させなければならないとのことで、原発の解体に向けた場所を用意して、タンクからの意図しない漏水を予防するのだという。タンクの水の多くはいまだに汚染されていて再処理が必要なためだ。

いわき市で鮮魚店を営む大川勝正氏は、処理水の放出よりも汚染水が入ったタンクの方に困っていると言う。大川氏は一刻も早いタンクの移動を望んでいる。数年前の訪問時に、原発施設の多くを「巨大な」タンクが占めている様子を見た後ではなおさらのことだ。

意図しない漏水があったなら「一発でアウトです…風評ではなく、実害がもたらされるでしょう」と大川氏は言う。「処理水の放出は避けられないと思います」大川氏はさらに、損壊した原発の近くに数十年も住んでいなければならないのは不気味なことだと言う。

福島の大きな被害を受けた漁業組合や旅行、経済は今も復興中だ。政府はいまだ衰弱した漁業や水産加工業へ800億円(5億7300万ドル)を割り当て、放水による風評被害に備えている。

大川氏の妻は実家がある東京の近くの横浜へ、4人の子どもと一緒に避難したが、大川氏はいわきに残り、店の再開に向けて働いた。2011年7月、大川氏は鮮魚販売を再開したが、福島産のものはなかった。

地元漁業は、政府が放水計画を発表した2021年に通常営業に戻った。

漁業就業者数と漁獲量の減少により、福島の漁獲量は現在もまだ、震災前の5分の1程度だ。

日本の漁業組織は、回復に苦労している福島の海産物へのさらなる風評被害を懸念して、放水に強く反対している。また、韓国や中国の団体も懸念を表明しており、政治的・外交的問題になっている。香港は、もし日本政府が処理済みの放射性廃水の海洋放出をする場合、福島や他の都道府県からの水産物輸入を禁止すると宣言した。

中国は輸入規制を強めていく計画で、香港のレストランは日本の海産物を排除したメニューへの切り替えを始めている。野村哲郎農相は中国の税関で日本からの水産物輸出が一部停止させられたことを認識しており、日本は中国政府に対し、科学への尊重を強く求めた。

「計画は科学的で安全なものです。大切なのはそれをしっかりと伝えて理解を得ることです」と、TEPCO職員の黛知彦氏は原発訪問時のAP通信に語った。それでも心配の声はあり、放出時期の最終決定は「政府による政治的決定」になるだろうと黛氏は言う。

日本は、透明性と信頼性を得ようと、国際原子力機関からの支援を求めた。今月公表され、岸田文雄首相へ直接手渡しされたIAEAの最終報告書では、排出方法が国際基準を満たすもので、環境や健康に及ぼす影響は無視できるものだろうと結論された。IAEAのラファエル・グロッシ事務局長によると、処理水中の放射能はほぼ検出不可能になり、国境を超えた影響はないという。

科学者は、処理水の環境への影響は無視できるものだろうということに概ね同意している。しかし一部の科学者は、水中に残る数十ある低線量の放射性核種へのさらなる注意を求めており、環境や海洋生物への長期的影響についてのデータは不十分であると述べている。

処理水の放射能はとても低く、海に達すると素早く分散してほとんど検出できなくなるため、放出前の水のサンプリングはデータ分析にとって重要だと、東京大学で環境化学助教授を務める小豆川勝見氏は言う。

放出が安全に実施されて信頼できるのは「TEPCOが計画した手順に厳格に従った場合のみです」。水の入念なサンプリング、透明性、広範なクロスチェック—IAEAだけに限らず、TEPCOおよび政府から委託された2つの研究所—が信頼を得る鍵だと小豆川氏は言った。

日本の当局は処理水をトリチウムの問題だと述べているが、他にも、損傷した燃料から漏れ出た数十の放射性核種が含まれている。それらは法律上放出できるレベルまでろ過されて、環境への影響は最小限だと見なされているものの、依然として綿密な調査が必要であると専門家は言う。

TEPCOと政府関係者によると、トリチウムだけが水から分離できず、国の放出基準のほんの一部だけ含まれるよう水は希釈される。その一方、専門家によると、他の放射性核種についても同様に十分濃度を下げるには、高度な希釈が必要だという。

「環境への影響について聞かれたとしても、正直に言って、わからないとしか答えられません」と、通常の原子炉では予測されていない数十の放射性核種の漏出について言及しながら、小豆川氏は述べた。「しかし、濃度が下がれば環境への影響が小さくなることは真実です」。そして計画はおそらく安全だと言った。

原子炉内に残って致死的な放射線を放つ溶けたデブリや、外部への継続的でわずかな放射能漏れと比較すると、処理水の課題はより易しい。

震災以来、福島第一原発近くの地下水サンプル、魚、植物の放射能を定期的に測定している小豆川氏によると、福島第一から原発の地下や港に少量の放射能が継続的に漏れ出していることが、12年間のサンプリングによってわかったという。また、生態系への影響の見込みは、処理水の管理放出よりも細心の注意を必要とするとのことだ。

TEPCOは原子炉からの新たな漏洩を否定し、港で時々捕獲される魚の中の高セシウムを、最初の漏洩による堆積物汚染と雨水排水によるものだとしている。

地元漁業組合の理事長である柳内孝之氏は、最近あったオンラインイベントで、民衆の支持を得ないまま放水を強行することは風評被害を巻き起こすきっかけになるだけで、福島の漁業に損害を与えると伝えた。「復興にさらなる負担は必要としていません」

「政府とTEPCOへの不信感によって民衆の理解が不足しています」と柳内氏は言う。「安全だという認識は信頼からのみ生まれるのです」

AP

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