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砂丘から溶ける氷河の融解まで、サウジアラビアのアビール王女が南極遠征の教訓を語る

気候変動が南極に与える影響を研究していたアビール王女は、氷が融解する速さと、それが海面上昇という形でもたらす脅威に衝撃を受けた。(写真提供:マヤ・ビーノ)
気候変動が南極に与える影響を研究していたアビール王女は、氷が融解する速さと、それが海面上昇という形でもたらす脅威に衝撃を受けた。(写真提供:マヤ・ビーノ)
アビール王女(右)とヨルダン出身のマヤ・ビーノ氏は、凍りつく南極を視察中、それぞれの国の国旗を掲げた。提供
アビール王女(右)とヨルダン出身のマヤ・ビーノ氏は、凍りつく南極を視察中、それぞれの国の国旗を掲げた。提供
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24 Feb 2024 03:02:00 GMT9
24 Feb 2024 03:02:00 GMT9
  • 王女は昨年11月、オーストラリアのNGO「ホームワード・バウンド」が組織する、南極大陸最果ての地を目指す探検隊に加わった
  • 王女がこの探検隊に加わった理由は、気候変動対策、持続可能性、そして「自然との平和協定」の必要性について意識を高めるためだ。

スラファ・アルクナイジ

リヤド:アビール・ビント・サウード・ビン・ファルハン・アル・サウード王女は先日、サウジアラビアおよび湾岸諸国から南極大陸の最奥部への調査遠征に参加した初めての人物となった。

昨年11月、彼女は45ヶ国1800人の応募者の中から選ばれた80人のうち一人として、「ホームワード・バウンド」が組織する探検隊に参加した。ホームワード・バウンドはオーストラリアの団体で、STEMM(科学、技術、工学、数学、医学)における女性のリーダーシップを推進している。

アビール王女はアラブニュースの取材に対して次のように語る。「私がこの探検に参加した目的は、気候変動対策、環境の持続可能性、自然や生物多様性と平和協定を結ぶことについて意識を高めることでした」

プロジェクト「The Island Sky 2023」に参加する18ヶ国の女性たちは、2023年11月12日、19泊の航海に向けてアルゼンチンのプエルトマドリンから出航した。(写真提供:ホームワード・バウンド)

この遠征には、天文学者、海洋学者、氷河学者、数学者、海洋生物学者、再生可能エネルギー技術者も参加し、さまざまなプロジェクトに共同で取り組んだ。そうしたプロジェクトの中には、昨年11月~12月にドバイで開催された国連気候変動会議(COP28)に関わるものもあった。

彼女はこう語る。「グループとして、私たちのうち数人が複数のプロジェクトに共同で取り組みました。プロジェクトは科学、芸術、政策を組み合わせ、国連で講演を行うものです。講演に向けて、COP28に参加するために報告書を起草し、講演や調査結果を準備しました」

アビール王女は、文化、遺産、平和構築、多国間協調主義、NGOの専門知識を持つ国際開発の専門家であり、複数の国連機関で働いた経験がある。

現在彼女は持続可能な開発協会(Talga)の会長を務めている。Talgaは、国連の持続可能な開発目標をビジョン2030に沿ってサウジアラビアに適用することを目指している。

アビール王女は複数の国連機関で働いた経験があり、現在はTalgaとも呼ばれる持続可能な開発協会の会長を務める。提供

彼女が情熱を注いでいるのは、絶滅が危惧される生物や土地、地球を保護するプロジェクトに人生を捧げることだという。

彼女はアーティストでもあり、そのインスピレーションの源は周囲の環境や、彼女が呼ぶところのサウジアラビアでの「宇宙の砂漠」の冒険だ。サウジアラビアでは、自然の素材を利用してキャンバスに描いた作品を制作している。

アビール王女は南極大陸に出発する前に、先祖から伝わる遺産を活用するつもりだと明かした。

「砂漠からきた女性としての、そして船乗りとしてのルーツを生かし、私を導いてくれる天を仰ぐのです」

「北極星が何世代にもわたって砂漠をさまよう人々を導いてきたように、南十字星は多くの答えと、さらに多くの疑問へと私を導いてきたのです」と彼女は続けた。

何千年もの間アラブの広大な砂漠を越えてきたベドウィンたちが頼りにしたのが星であった。

11月の探検は順風満帆なわけではなかった。ドレーク海峡を航行中に予期せぬ嵐がチームの船を襲ったのだ。この海峡は、南米のホーン岬と南極のサウス・シェトランド諸島の間にある、世界で最も波が荒れる航路のひとつだ。

荒波の中で氷山をかき分けて航行するのは、本当に恐ろしい体験かもしれない。(写真提供:マヤ・ビーノ)

彼女は言う。「ドレーク海峡で過ごした48時間はとても厳しいものでした。探検隊の仲間はボンク(ベッド)に横になっていました。他の仲間はブラックユーモアで不安を和らげようとしていましたね。船内のオープンエリアのラウンジにある古いピアノで『タイタニック』のサウンドトラックを演奏したんです。

「他の数人は勇敢かつ冷静で、嵐は過ぎ去ると信じてこの時間を楽しんでいました」

この体験が恐ろしいものだったことは間違いないが、彼女は自然の力と船の乗組員の技術の両方に畏敬の念を感じたのだという。乗組員たちは、高くそびえる波を乗り越えて穏やかな海へと仲間たちを無事に運んでくれたのだ。

「厳かな自然の猛威を目の当たりにして実感するということは、慎み深い探検の術なのです。どんな嵐も荒波も、あるいは人生のどんな困難も、乗り越えるには頭の回転の速さ、優しさを兼ね備えた知性、ユーモアがたくさん必要なんだと思います」とも彼女は語った。

探検チームが南極大陸に到着したとき、アビール王女はまるで『不思議の国のアリス』のような別世界に飛ばされたような気分だったという。

彼女はこう言う。「手付かずの美しさを持つ、多感覚を取り入れた没入感のある自然博物館にいるような気分でした。静寂の音が聞こえるんです。南極の氷山と氷河が見つめてくるのを感じるんです」

遠征は南半球の夏季に行われたが、参加者は寒さをしのぐ適切な装備を身につけ、さらに太陽の厳しい紫外線から目を守るため偏光サングラスをかけることが必須だった。

しかし、こうした過酷な状況下で作業する際に参加者に求められるのは内面の強さだと彼女は指摘する。

夕暮れのゲルラッシュ海峡で優雅に浮上するザトウクジラ。(写真提供:マヤ・ビーノ)

「隔絶した南極域で、冬眠する動物が自らの脂肪を燃焼して生きながらえるように、極地探検家として私たちは、万国旗のような海の工芸品をつくって心に火をつけようとしたんです」と彼女は続けた。

アビール王女とチームの他のメンバーは、南極沿岸に停泊している船で寝泊まりしながら、毎日ゾディアックボート(頑丈なインフレータブルボート)を使って調査ステーションに通ってフィールド調査を実施した。

気候変動が南極の気象、野生生物、地形に与える影響を研究する中で、彼女は巨大な氷山が崩れて海に沈む光景や、記録的な数の外来生物が温暖化によって南極大陸に引き寄せられるのを見て衝撃を受けた。

とりわけ、大気中の水分が雪として降るはずの地域で雨が降るのを見てあぜんとしたという。

彼女は言う。「雪ではなく時折雨が降っていたんです。これはどう考えても自然の摂理に逆らっています。南極で雨が降ることはありえないし、降ってはいけないんです」

アビール王女は南極の氷の上にいて、アラビア半島の広大な砂砂漠からは遠く離れていた。しかし、アビール王女はこの対照的な環境に予期せぬ共通点を見出したのだ。

「あなたが砂の砂漠とは反対に氷の砂漠にいるとき、一緒に暮らす人々は、人間が耐えられる限界ぎりぎりの過酷な状況にあります。その結果として、そうした地域では計り知れない思いやりのこころを受け取れるんだと思うんです」と彼女は続けた。

晴れた日の南極大陸の眺め。(写真提供:マヤ・ビーノ)

南極域や亜熱帯雨林から広大な内陸砂漠や海岸近くの生息地に至るまで、世界で最も特異な生態系が、地球規模の気候システムによって相互につながっている。彼女は南極での体験を経てそう実感したという。

アビール王女は言う。「雪氷圏を守ることは極地だけの問題ではなく、すべての国の問題でもあります。氷河や氷山の融解が加速すれば、海面が上昇して世界中の海岸線に影響を及ぼすでしょう」

「極地とMENA地域(中東・北アフリカ)は、いや実際は地球全体がつながっているんです。片方を救いたければ、もう片方も救わなければならないのです」

「効果的に気候を管理し、地球規模の気候安定性を確保し、極地と砂漠地域両方の生態系を同様に保護し、これから地球規模の気候システムの保護に貢献するためには、こうした相互関係を理解することが重要なのです」とも彼女は言う。

極地の研究者にとって、気候の温暖化が海鳥の生息地に与える影響も大きな懸念事項だった。海氷が崩れることでコロニーが崩壊し、さらに北から侵入種がやってきたことで鳥インフルエンザが蔓延する事態となった。

海氷が崩れることで鳥のコロニーが崩壊した。(写真提供:アビール王女)

「南極は、野生動物にとって楽園のような安全な場所です。毎日のように、ザトウクジラが水面に尾を打ちつける場面に遭遇するのですが、そうした体験は、畏敬の念を抱かせるような驚きに満ちたものでした」

「南極の氷のない島でしか見られないと思うのですが、ウェッデルアザラシのコロニーもありました」と王女は語った。

南極大陸は、南極を象徴するある生物の生息地である。そう、ペンギンだ。世界に18種類いるペンギンのうち、7種類は南極大陸にしか生息していない。

「前回の遠征で、すべての種類のペンギンを自然生息地で見られたのは本当に幸運でした」

南極大陸の氷山にコロニーを作るアデリーペンギン。(Shutterstock)

「南極大陸と亜南極地域で見られる種は、コウテイペンギン、アデリーペンギン、ヒゲペンギン、ジェンツーペンギン、マカロニペンギン、イワトビペンギン、キングペンギンです」と彼女は続ける。

アビール王女にとって、南極で過ごした時間から得た最大の教訓は、世界と個人が分野横断的なアプローチをとって、気候変動を食い止めて地球の気温がこれ以上上昇しないよう努力する必要があるということだった。もしそれができなければ、さらに氷が融解し、世界中の海面が上昇する事態になると彼女は強調する。

「今こそ自然と平和協定を結ぶ時だと強く思います。未来ではこの地球は再生する。私たちはそう信じる心を溶かしてしまってはいけないのです。南極で起きていることは、南極だけにとどまるものではないのです」と彼女は語った。

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