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サウジアラビアのミツバチの話題が飛び交っているのは何故か

サウジアラビアの主要観光地の一つでサラワト山脈に位置するアル・バハは、養蜂・蜂蜜生産の中心地としても有名だ。この地方には12万5000個の巣箱があり、蜂蜜生産量年間約800トンを誇っている。(SPA)
サウジアラビアの主要観光地の一つでサラワト山脈に位置するアル・バハは、養蜂・蜂蜜生産の中心地としても有名だ。この地方には12万5000個の巣箱があり、蜂蜜生産量年間約800トンを誇っている。(SPA)
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12 Apr 2023 01:04:39 GMT9
12 Apr 2023 01:04:39 GMT9
  • サウジでは1万6000人以上の養蜂家が登録されており、年間5000トン以上の蜂蜜を生産している
  • サウジ南東部で生産される蜂蜜の品種の中には1キログラム300ドル以上で売れるものもある

ラワン・ラドワン

ジェッダ:気候変動、壊滅的な干ばつ、紛争が続く中での食料システムの現状に対する懸念の高まり、そういった話を前にすれば、自然界で最も単純な生き物の一つを取り巻く話題や、食物連鎖におけるその重大な役割のことなどは忘れてしまいがちだ。その生き物とはミツバチである。

ミツバチと聞けば、ほとんどの人は蜂蜜を連想する。蜂蜜は、甘い料理や風味豊かな料理のおいしい材料になるだけでなく、伝統医学においては喘息や目の感染症などの様々な症状を治療するために使用されている。現代医学においては、蜂蜜の抗酸化・抗菌・抗炎症作用が研究者から注目されている。

しかし蜂蜜は、ミツバチを保護すべき最も重要な理由では決してない。ミツバチは受粉において極めて重要な役割を果たしているからだ。世界の主要作物の75%近くが動物媒受粉に依存しているのだ。ミツバチは、野生植物と栽培植物の最も主要な受粉媒介者であり続けている。

国連食糧農業機関(FAO)は2019年、ミツバチをはじめとする受粉媒介者の個体数減少が世界の食料安全保障と栄養に与えている脅威を強調する声明を発表した。

全世界のミツバチ個体数を計算するのは困難だ。世界中に少なくとも2兆匹のミツバチがおり、7科、約2万種に分けられると見る専門家もいる。世界には8000万~1億個のミツバチコロニーがあり、各コロニーには1万~6万匹のミツバチが含まれるという見方もある。

ミツバチは多くの植物にとって替えがきかない受粉媒介者であり、ミツバチがいなければそれらの植物は生存できない。ミツバチの飼育は主に蜂蜜のために行われているが、全てのミツバチが蜂蜜を生産するわけではない。ミツバチの個体数減少は地球上の生物多様性に大きな影響を与える可能性がある。FAOは、ミツバチの個体数減少が果物、ナッツ、野菜などの栄養価の高い作物に影響を与え、それらがコメ、トウモロコシ、ジャガイモなどの主食作物によって代替されることで食事の栄養が偏る可能性も指摘している。

研究者が見るところでは、ミツバチのコロニーが減少しているといった見出しは、世界的にミツバチ個体数の大規模な減少が起こっており養蜂産業が危険に晒されているという印象を与える。しかし、そういった報道は大抵、欧米などの数ヶ国のみを対象に、コロニー減少が特に顕著だった何度かの厳冬期を含む比較的短期間に観察を行った調査報告に基づいている。

個体数の変動を経験しながらも数億年にわたる時の試練に耐えてきたミツバチだが、過去数十年間の変動的な減少は劣悪な飼育、地球温暖化、病気によるものである可能性がある。

ミツバチの個体数減少が作物収量に深刻な影響を与える可能性が認識されるとともに、養蜂産業は世界中で着実に成長しており、サウジアラビアも例外ではない。同国の乾燥した国土は養蜂や蜂蜜生産に適さないように思えるかもしれないが、養蜂が数世紀にわたって代々受け継がれている。

サウジアラビアで最も多いミツバチの種は在来のセイヨウミツバチ(Apis mellifera jemenitica)で、主に国内の南部・南西部で見られる。これらの地域は自然栽培者にとって理想の環境となっている。

アシールの養蜂家たちは季節に合わせて蜂蜜を生産している。(SPA)

特に南西部のアシール地方は最高品質の蜂蜜を生産していることで有名だ。この地方の気候と多様な植物相のおかげでミツバチは蜜を吸って栄養価の高い蜂蜜を作り出すことができるため、養蜂家は大きな恩恵を受けている。アスィールは国内でも有数の肥沃な土壌を持っていることでも知られている。ミツバチの存在とその保全は地域の農業市場の繁栄にとって必要不可欠であり、農家、ミツバチ、養蜂家のいずれにも利益をもたらすものだ。

サウジ環境水資源農業省(MEWA)は、国内のミツバチ種の保全・保護、女王蜂・蜂蜜生産・その他の蜂産品の生産効率の向上、養蜂場の開発・保護、経済的・社会的リターンの実現に向けた利用規制・品質向上などを目指すイニシアティブを通して、養蜂・蜂蜜生産分野を発展させる計画をいくつか持っている。

サウジのセイヨウミツバチ(Apis mellifera jemenitica)の伝統的な巣箱が同じ家系によって500年以上維持されている歴史ある養蜂場。ターイフ。(写真クレジット:Abdulaziz S. Alqarni, Mohammed A. Hannan, Ayman A. Owayss, Michael S. Engel)

養蜂産業は、人的能力開発を目指すサウジアラビアのプログラムから支援を受けている。このプログラムは、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子殿下が2016年に発表した経済多角化・社会改革プラン「サウジビジョン2030」の目標に沿ったものだ。養蜂は、地方の中小企業に対する地域的支援があることからも大きな注目を集めている。

サウジアラビアでは約1万6000人以上の養蜂家が登録されており、2030年までに3万人に達すると予想されている。巣箱の数は100万個を超えている。

MEWAによると、サウジアラビアは年間5000トン以上の蜂蜜を生産しており、年間2万4000トンを輸入している。国内各地に点在する数百の養蜂場で生産された20品種以上の蜂蜜が各地方で販売されている。南部地方では最高級の蜂蜜が生産されており、最も希少な品種の一つであるアル・マジュラは1キログラム266~320ドルで売られている。

しかし、養蜂家はいくつかの課題に直面している。

キング・サウード大学の蜂研究講座の代表で、アラブ養蜂協会とアルバハ養蜂家協会の両方で会長を務めるアフマド・アル・ハジム・アル・ガムディ教授はアラブニュースに対し、気候変動やそれに起因するミツバチの自然生息地の消失によって保全のためのプロジェクトやイニシアティブの重要性がかつてなく高まっていると話す。

「気候変動に関する国際的な報告書によると、サウジアラビアの気温は空気の乾燥により今後20年で劇的に上昇すると予想されています。そうなれば、国内のミツバチはその環境に耐えられないでしょう。ミツバチの減少は経済的・環境的損失につながります」

「ミツバチを大量に輸入すれば国内のミツバチに置き換わってしまいます。国内のミツバチが輸入ミツバチと交配すれば、遺伝的混合により地域への適応が失われるでしょう」

アル・ガムディ博士は、輸入ミツバチは害虫や病気を持ち込む可能性もあると説明する。「特にミツバチヘギイタダニやウイルス感染症です。ウイルスはこれまでに9種が記録されています。真菌感染症で最も危険なのはノゼマ病です」

アル・バハ地方には12万5000個の巣箱があり、蜂蜜生産量年間約800トンを誇っている。(SPA)

アル・ガムディ博士によると、アルバハ養蜂家協会を通してこれまでに3000人が養蜂のベストプラクティスに関するトレーニングを受けた。厳しい環境条件に持ちこたえてサウジアラビア在来のミツバチを保全するための方法などだ。

ミツバチの保護・保全をさらに支援するうえで、ミツバチに適した木を植えることは個体数を大きく増やすことに寄与するだけでなく地域の農業や経済の繁栄にもつながるとアル・ガムディ博士は言う。

「私たちはMEWAに対し、サウジ・グリーン・イニシアティブで計画されている100億本の植樹のうち10%を、ミツバチにとって良い蜜と花粉の供給源となる花樹に割り当てるよう提言を出しました。地球温暖化に起因するストレスに対処するうえで、これは必要不可欠です」

各地域のミツバチは時とともに、気候、植生、流行する病気、降雨不足、害虫・捕食者などの地域の環境要因に適応しており、長年かけてそれらと共存している。しかし、サウジアラビアのミツバチを保全するためにはさらなる取り組みが必要だとアル・ガムディ博士は言う。

今年のアジア養蜂研究協会大会は、8月3日から6日までアルバハで「地球気候変動に対処するための持続可能な養蜂に向けた在来種ミツバチの繁殖」というテーマのもとで開催され、養蜂家にとって最も差し迫った懸念事項に正面から取り組む予定だ。40ヶ国以上からの参加者が研究発表を行う。

サウジアラビアの高地のミツバチは大勢の人を呼び寄せており、自生するジュニパーで覆われたソウダの山々は中東における持続可能な観光の最も興味深いモデルの一つとなっている。(提供写真)

アル・ガムディ博士は語る。「私たちはMEWAと共に、サウジアラビアの在来ミツバチを保全するためのプロジェクトを3年前に始めました。国内のさまざまな地域からミツバチのサンプルを採取・分析し、それらの遺伝子配列を記録しました(…)サウジアラビアには3つの遺伝子型が広く見られることが分かりました。それらは全て米国立生物工学情報センターのデータベースに登録されました」

「選択された女王蜂5000匹の生産をジーザーン、アシール、アルバハ、ターイフの女王蜂繁殖・野生復帰ステーションにおいて支援し、AIや自然交配を利用して在来ミツバチの選択・繁殖プログラムを作り、将来の養蜂家や研究者の役に立つようにアラビア語と英語の電子データベースを構築しています」

このイニシアティブの一部は、地域のミツバチの保全や、ミツバチのコロニーと養蜂産業が平行して繁栄・成長できるように養蜂場に土地を割り当てている地域の養蜂家やMEWAとの協力を目指しているという。

「これは、サウジアラビアの養蜂家の能力構築を助け、技術的サポートやデータを提供し、生産性を向上させるものです」とアル・ガムディ博士は言う。

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