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ガザの停戦が終わり、米国は市民の保護を優先するようイスラエルを説得できるのか

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04 Dec 2023 02:12:10 GMT9
04 Dec 2023 02:12:10 GMT9
  • イスラエル政府は、民間人を保護し、強制避難や損害を避けるための「明確なプラン」を打ち出すよう米国政府から圧力を受けている
  • 戦争学者らは、ハマスの壊滅という目標は非現実的であり、民間人の多大な犠牲なしには不可能ではないかと述べている

アレックス・ホワイトマン

ロンドン:米国のアントニー・ブリンケン国務長官がイスラエルに対してパレスチナの組織ハマスに対する軍事作戦において民間人を優先させるよう求めた数時間後、イスラエル軍はガザ地区におけるわずかな停戦の終了と共に新たに空爆を開始した。

イスラエル軍はガザ地区南部ハーン・ユーニスに攻撃を行った。同軍は50カ所以上のハマスの拠点を狙ったと主張するなか、ハマスが運営する保健省発表によると、2日朝までに200人のパレスチナ人が殺害された。

イスラエル軍は、ガザ地区全体で延べ400カ所以上を攻撃したと発表している。これにはガザ地区北部への攻撃も含まれており、包囲を受ける同地区においてもはや安全な場所は存在しないことを示唆している。

イスラエルは軍事作戦を開始した際、パレスチナの民間人に対し別の場所へ移動するよう求めたため、ガザ地区のほぼ全人口にあたる約200万人が南部へ流入した。

2日に多くの人間が抱いた疑問は、イスラエルの戦時内閣が、民間人を保護し、これ以上の大量の強制退去や、病院、発電所、貯水施設といった重要インフラの破壊を避けるための「明確なプランを定める」よう求めた米国の外交トップの呼びかけをしっかり受け止めるつもりがあるのかということだった。

イスラエル軍は、停戦終了以来ガザ地区全体で延べ400カ所以上を攻撃したと発表した。(AP通信/File)

ブリンケン氏の発言にはバイデン政権を国内外からの新たな批判から守りたいという意図があったのかもしれないが、戦争研究や地政学の専門家の間では意見が割れている。

英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)中東安全保障部のシニアリサーチフェローを務めるトバイアス・ボルク氏はエルサレムとドバイで記者らに対し、世界の首脳らはこうした発言の後に何が起こるのか分かっていたのではないかと疑いの目を向ける。

「ブリンケン氏の発言は、停戦の終わりを予期したなかで出たものでした。これは米国政府だけでなく、エジプトやカタールといった仲介役の国にも分かっていたことです」ボルク氏はアラブニュースに対してそう述べた。

「永久停戦という選択肢は、まだ軍事的にやるべきことがたくさんあると感じているイスラエル政府にとって単純に実行可能なものではありませんでした。ですからブリンケン氏としては次に何が起こるのかの枠組みを作ることが目的であり、米国が立場を改めようとしていること、同国が求めていることを明確にする意図があったのでしょう」

当初4日間の予定だった人道的停戦は、カタールとエジプトの仲介による2度の延長により1週間に及んだ。この停戦により、ハマスの人質解放と引き換えに、裁判を経ずにイスラエルの刑務所に収監されている、多くの未成年者を含むパレスチナ人の解放が行われた。

AP通信の報道によると、停戦終了後、ガザ地区の武装勢力はイスラエルに向けてロケット弾の発射を再開し、レバノンとの北部国境付近で作戦を展開するイスラエルとヒズボラの武装勢力の間で戦闘が勃発した。

ハマスによる人質240人中110人が解放されるなか、イスラエル軍は停戦が破棄されたことを正式に発表し、1日午前6時を回った直後にガザ地区から発射されたロケット弾を迎撃したと述べた。

その後イスラエル軍は人口が密集するガザ地区南部の住民に対し、同地域から離れるよう求めるチラシを投下した。同軍はただちに攻撃を拡大することを示唆し、ハーン・ユーニスは「危険な戦闘地帯」だと述べた。

複数の報道によると、ブリンケン氏はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対し、戦闘が続くのであればイスラエルは民間人保護のためのより効果的な方策を見出す必要があると伝えたという。

これは「国際人道法に則った」行動を取り、「民間人の被害を避けるためにあらゆる方策を」打ち出すべきだという意味だ。さらにブリンケン氏は、「ガザ地区に対する人道支援供給を維持・強化」することの必要性を強調した。

先月30日には、ブリンケン氏は占領下にあるエルサレムで多くの死者を出した攻撃や、再開されたロケット攻撃に関してハマスを批判しつつ、上述のチラシや、民間人の安全な移動先を詳細に示したインタラクティブマップをイスラエルが公開したことも暗に示した。

イスラエルのガザ地区との国境付近で軍用装甲車の作業を行うイスラエル兵たち(AP通信)

イスラエル軍はアラビア語で行ったソーシャルメディアへの投稿で、このマップは「識別可能なエリアに従ってガザ地区を複数の区域に分割したものです。これによりガザ地区住民の皆さんは正しい判断を行い、必要な場合は安全のために特定の場所から避難することができます」と述べた。

しかしガザ地区支援に従事する関係者は、これを馬鹿げた話だと一蹴する。ある関係者はアラブニュースに対し、援助が妨害されているためおそらく燃料はわずかしか利用できず、大半の人はそのようなマップを見るために機器を充電することさえできないだろうと話す。

ボルク氏は、民間人保護に関する問題の核心のひとつは、政治目標「すなわち、ハマスの壊滅」と軍事目標の混合という懸念にあり、その先により広範な戦略があるのかどうかを確かめようとしていると話す。

「主張されているハマスの壊滅という目標は、政治的な意味でも軍事的な意味でも非常に過激主義的です」とボルク氏は言う。

「しかし、ハマスの壊滅とは何を意味するのか問わなければなりません。10月7日のハマスによる攻撃の首謀者とされているモハメド・デイフ氏とヤヒヤ・シンワール氏の殺害で、目標は達成されるのでしょうか。もしそうなら、潜在的な所要時間ということについては、アルカイダの指導者だったオサマ・ビンラディンの捜索だけを例に取っても分かることでしょう」

米国防衛省の元中東防衛顧問であるウバイ・シャバンダー氏は、イスラエル軍が公にしている目標の実現を目指すなら、単純にハマスのリーダーシップにおけるヒエラルキーの「首をはねる」だけでは満足のいく成果は得られないだろうと考えている。

むしろ意図されているのは、ハマスによる大規模な非対称の軍事的挑戦能力を「完全に解体」することである可能性が高いという。しかしシャバンダー氏は、このような行動方針はハマスの思うつぼだと話す。

「シンワール氏は、10月7日に起きたことに対してイスラエルがどのような反応を示すかについて、おそらく一切幻想を抱いていなかったはずです」シャバンダー氏はそう話す。

「ネタニヤフ氏がバイデン氏のホワイトハウスからの要請に応じてガザ地区南部への空爆、砲撃、歩兵隊による攻撃の規模を真剣に縮小させそうな兆候は一切見られません」

ガザ地区のほぼ全人口にあたる約200万人が南部へ流入した。(AP通信)

バイデン大統領自身も10月7日のハマスによる攻撃を受けて、9.11のテロ攻撃の犯人を捕らえようとして米国が犯した過ちを教訓として活かすのがイスラエルにとって賢いやり方だろうと警告している。

だがボルク氏としては、この警告には別の意味があるという。イスラエルの数多の同盟国のひとつである米国は、ネタニヤフ氏に「1日目の翌日」、とりわけ戦争が終わった際に同国がどのような立場にありたいのかを考えるよう求めており、さらに、これはガザ地区の民間人にとって極めて重要なことだという。

米国の元情報官で、ハドソン研究所のシニアフェローを務めるマイケル・プレジェント氏は、ブリンケン氏の要求は「シリアスなもの」ではなく、国際コミュニティの意見を反映したものだと言う。

プレジェント氏は、民間人の犠牲を最小限に抑えるのは確実に不可能であり、ハマスはアフガニスタン、イラク、ソマリアで見られたのと同じ戦略を採っていると論じる。その戦略とは、同様のイデオロギーを持つ各組織が、国際的なニュースメディアで有利な状況を得るなかで、「民間人の死を呼び込んだ」ことを指す。

さらにプレジェント氏は、米国もイラクのダーイシュが採った同様の戦術に反応する形で2016年10月から9カ月に渡って過激派一掃作戦を実行し、モスルの80%以上を壊滅させるに至ったことを指摘する。

10月7日に起きたような攻撃や、イスラエルとパレスチナ双方の民間人が同様に晒されているハマスやその同盟過激派らによる全般的な脅威に対する戦略形成を行う際に、より大局的な思考を取り入れるべきかという問いに対しプレジェント氏は、ガザ市民にハマスを拒絶するよう強く働きかけるというのは選択肢のひとつとしてあったと言う。だが歴史は、それがうまくいかないことを示しているとプレジェント氏は語る。

「タリバンが戻ってきたアフガニスタンに目を向けるだけでも分かることです。タリバンやハマスのような組織は、前例を心得ています。彼らは民間人に対し、『お前たちは反乱を支持しているが、敵はいずれ去り、我々は残る。奴らが去ったら我々は戻り、お前たちと家族を皆殺しにするぞ』と言うわけです」

重要なのは、ブリンケン氏がネタニヤフ氏との会談で、米国はイスラエルの自衛権支持を継続すると述べ、米国の支持については心配不要だと断言したことだ。

バイデン政権は長期停戦の呼びかけを拒否し、米国が罰則を課すような「越えてはならない一線」を設けずに、ガザ地区の権力の座からハマスを排除するためのイスラエルの戦いを支持している。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によると、米国は民間人保護を強調しているにもかかわらず、今回のガザ紛争においてイスラエルにどのような種類の武器をどのくらい供給したのかについて、ほとんど開示していないという。

イスラエルの攻撃を受けて自宅を逃れ所持品と共に座り込む、ガザ地区南部ハーン・ユーニスの集合住宅ハマド・タウンの住民ら。(AFP)

「米国がイラク、アフガニスタン、ソマリア、リビアで使用した砲撃、爆弾、その他の武器や軍事機器は、大抵の場合敵軍が集まっている大規模集団を標的にしていた。対照的にガザでは、イスラエルは人口が密集する都市部で、民間人に紛れている過激派と戦闘を行っている」と同紙は報じている。

こうした状況を背景に、イスラエルが軍事・政治組織としてのハマスを壊滅させるための現実的な唯一の手段は武力ではないことを歴史は繰り返し示してきたとシャバンダー氏は言う。

「イスラエルが目的を達成するための方法は、確かな正当性を持ってパレスチナの人々がハマスに代わるものを選び取れるよう力を与えることです」シャバンダー氏はそう話す。「しかしネタニヤフ政権には、そのような道を選ぶ気はほとんどなさそうです」

2日、ガザ地区で活動する支援団体の国際救済委員会(IRC)は、戦闘再開は停戦でもたらされた「最低限の救援物資さえも消し去り」、「パレスチナの民間人に破滅をもたらす」と述べた。

ガザ地区保健省の発表によると、11月24日の一時停戦実施までにイスラエルの攻撃でパレスチナ人1万3,300人以上が殺害され、そのうちの約3分の2は女性および未成年者だという。

戦争が再開されるなか、依然としてハマスおよびその他過激派組織の人質となっているイスラエル人および外国人ら136人に対する懸念が高まっている。

短期的にはガザ住民の行く末について楽観視できる要素はほとんどないものの、今後に関しては「ひとかけらの」希望は見えるとボルク氏は語る。

ハマスによる人質240人中110人が解放されるなか、イスラエル軍は停戦が破棄されたことを正式に発表した。(AP通信)

今回の中東紛争はせいぜい「やりくり」できるだろうというのが支配的なロジックだったが、この54日間で「そうした見解は消し飛び」、今や米国、フランス、英国、そしてイスラエル、パレスチナの各政府がこの紛争を終わらせる必要があるという意識を持っている。

「この認識により、2国家解決に向けた取り組みが再開されるという自信が若干高まりました」ボルク氏はそう話す。

「キア・スターマー(英国の野党労働党党首で、次の選挙では勝算が高いと見られている)氏は、欧州と英国は手に負えないからと中東の平和を模索することを諦めてしまったと述べています。

「彼が首相になれば変化が起きるかもしれないという雰囲気はありますが、当然ながら、彼は米国の大統領ほど重要な存在ではありません」

戦争終結時の米国のアジェンダについてどう考えるかという問いに対しボルク氏は、ドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲いた場合は「これまで積み上げたものはすべて崩れ去る」が、バイデン氏が再選された場合は、平和追求への注力を深め、追い詰められたガザ市民に最大の勝利をもたらすことを期待すると述べた。

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