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ガザの「非武装化」は全面破壊の婉曲表現か

2023年12月10日、ガザ地区との国境付近で撮影された写真。イスラエルの装甲車両が国境フェンス沿いを走行しており、パレスチナのハマス武装集団との継続的な戦闘の中、パレスチナの飛び地に煙が立ち上っている。(AFP)
2023年12月10日、ガザ地区との国境付近で撮影された写真。イスラエルの装甲車両が国境フェンス沿いを走行しており、パレスチナのハマス武装集団との継続的な戦闘の中、パレスチナの飛び地に煙が立ち上っている。(AFP)
2023年12月9日、イスラエルとパレスチナの武装集団ハマスとの戦闘が続く中、ガザ地区からイスラエルに向けてロケット弾が発射された。(AFP)
2023年12月9日、イスラエルとパレスチナの武装集団ハマスとの戦闘が続く中、ガザ地区からイスラエルに向けてロケット弾が発射された。(AFP)
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11 Dec 2023 08:12:54 GMT9
11 Dec 2023 08:12:54 GMT9
  • イスラエルのネタニヤフ首相が使用した言葉は、戦後のガザの状況を明確にしていないと専門家らが批判
  • ヨルダン川西岸地区のような体制は、ハマス支配下でパレスチナ人が有していた移動の自由を奪う可能性がある

アレックス・ホワイトマン

ロンドン:ガザ地区に対するイスラエルの最終目標は、飛び地の非武装化に確定したようにも見えるが、この紛争における目標は「全面破壊」と何ら変わりないと一部の専門家は指摘している。

イスラエルとハマス武装勢力との戦闘が3か月目に突入した12月7日現在、パレスチナの武装勢力が解体された後に誰がガザ地区を統治するかはいまだ不透明のままである。

ヨルダン川西岸地区に拠点を置くパレスチナ自治政府が戦後のガザ統治を引き継ぐという話が広まっているが、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は「パレスチナ自治政府には解決できない」としてこの考えを否定した。

では、現在も国連に占領地と認識されているガザ地区を、イスラエル国防軍が非武装化してゆくというネタニヤフ首相の発言について専門家たちはどう考えているのか?

英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)の中東安全保障主席研究員であるトバイアス・ボーク氏は、最新の発言の中にイスラエルの政策変化の兆しは見られないと考えている。

「ネタニヤフ首相の発言は、イスラエル軍がガザ地区ですでに実行している活動を正当化させるためのものに過ぎません。単なる修辞的な言い換えであり、『ハマス殲滅』を別の言葉で表しただけです。その実態についてより明確で具体的なイメージを与えているわけではありません」と、ボーク氏はArab Newsに語った。

「つまり『非武装化』という言葉に目新しさは何もないのです。イスラエルの主張は政治的志向のほぼ全般にわたり、独立したパレスチナ国家があればそれを非武装化しなければならないということに尽きます」

2023年11月22日、ガザ地区における地上作戦中に目撃されたイスラエル人兵士たち。(AP)

12月6日、ネタニヤフ首相はIDF(イスラエル国防軍)だけがガザ地区の非武装化に関与すると主張し、多国籍軍には実現不可能だと述べた。

ネタニヤフ首相はヘブライ語で以下のように語った。「ガザは非武装化されなければならない。これを実現できるのはIDFだけだ。多国籍軍にはできない。他の場所で多国籍軍が同じことを試みたときにどうなったか、私たちは知っている。私は目を閉じるつもりはなく、どのような合意も受け入れない。」

ネタニヤフ首相が外部機関に距離を置くよう警告しているのではという見解を、ボーク氏は否定した。周辺のアラブ諸国はすでに、ガザをイスラエルが招いた混乱と見なし、イスラエルだけで解決すべきだと主張しているためだ。

現時点でその「混乱」とは、2か月にわたる攻撃で17,700人以上の市民が死亡し、7,800人が行方不明となり、46,000人以上が負傷したことを指している。また、ガザ地区のハマスが運営する保健当局は、「病院と飛地の医療施設で戦闘が発生し、今も続いている」と訴えている。

2023年11月8日、ガザ地区南部のラファにある食料配給センターに集まるパレスチナの人々。(AP)

このような破壊の最中、パレスチナ人作家兼ジャーナリストのラムジー・バルード氏は、イスラエルがガザの非武装化に成功する可能性はほとんどないと指摘している。バルード氏によると、非武装化のためにはまずネタニヤフがガザを制圧しなければならないという。

「それを実現するためには、レジスタンスを打倒する必要があります。ネタニヤフの軍がガザ北部、中部、南部のどこから侵攻してきたとしても、地球上で屈指の反骨精神溢れる地域でパレスチナ人を制圧することは非常に難しいばかりでなく、事実上不可能です」と、バルード氏はArab Newsに語った。

「これは単なる火力の問題ではなく、ガザの住民、そして実際には占領地域に住むすべてのパレスチナ人が共有する気持ちの問題です。」

同様に、ガザ地区の完全非武装化の実現に懐疑的なヨルダン人アナリスト兼政治コラムニストのオサマ・アル=シャリフ氏は、Arab Newsに対して以下のように語った。ガザの完全非武装化は、全面破壊によってしか実現しないだろうと。

「イスラエルがガザ地区を武装解除できるとしたら、それは365平方キロメートルの地区全体を跡形もなく破壊し、全住民を立ち退かせることを意味します。しかし軍事作戦を実行する機会はもうすぐ失われるでしょう」と、シャリフ氏は続ける。

「だからいずれにせよ、数百万人が砂漠に追いやられ何十万もの人々が死亡するような、聖書に出てくる災厄さながらの容赦ない未曽有の爆撃を米国が許可しない限り、それは不可能だということです。」

イスラエルと武装集団ハマスの戦闘が続く中、2023年12月8日ガザ地区北部で破壊された建物の間から煙が立ち上っている。(AFP)

ガザ地区では死者数が増加するとともに、報告によると11月末までに約98,000棟の建物が倒壊し、地区全体の40%が瓦礫と化したと推定されている。

ボーク氏はこのことを指摘し、アル=シャリフ氏が定義した「唯一可能な非武装化手段」はすでに実行されていると強調した。

「今回のことはすべて、イスラエルのハマスに対する認識、つまりハマスはテロリストの軍事組織であるという前提を中心に展開しています。ただのテロリスト組織ではなく、ハマスは連合部隊の作戦行動が可能だという点で一線を画しています」とボーク氏は述べた。

「10月7日にイスラエルに空爆と地上攻撃を仕掛けたことが、そのいい例です。したがってこの認識は不当ではありません。ただハマスはガザ地区における駐留軍という扱いになるため、IDFはハマスの軍事力を壊滅させようとしており、それを達成した時点でガザ地区は非武装化されることになるわけです。」

ガザ地区南部のハーン・ユーニスでアルカッサム旅団の戦闘員と共に立つ子どもたち。2023年11月29日、イスラエルとハマスの戦闘が一時休戦した6日目に撮影。(AFP/File)

だがボーク氏によると、仮にイスラエルが非武装化を進めて目標を達成した場合、ガザ地区に待ち受ける結末は1つしかないという。

「ネタニヤフを中心とするイスラエル人共同体の人々の多くが、ガザの未来にヨルダン川西岸の姿を見ています。つまりパレスチナ人の指導者を配備して、学校や病院の運営、ゴミの収集、理想的には自警も担当させることです」とボーク氏は言う。

ブルームバーグ・ニュースは今週、パレスチナ暫定自治区のムハンマド・シュタイエ首相の発言を引用し、米国政府当局が戦後のガザ地区統治に関する計画をパレスチナ自治政府と協力して進めていると報じている。

パレスチナのムハンマド・シュタイエ首相および内閣は、イスラエルとパレスチナのイスラム主義組織ハマスとの戦闘の渦中、直近のイスラエル・パレスチナ紛争で亡くなった犠牲者のために祈りをささげた。(AFP/ファイル写真)

ラマッラーに拠点を置くシュタイエ首相によると、紛争の望ましい結末は、ハマスがパレスチナ解放機構(PLO)の下位パートナーとなり、ヨルダン川西岸地区、ガザ地区、および東エルサレムを含む新たな独立国家の構築に協力することだという。

しかし、ガザで西岸地区の統治モデルを繰り返すことは、理想的な状況とはかけ離れているとボーク氏は語る。「西岸地区のあちこちにあるようなイスラエル人の検問所がたくさん作られ、ガザ住民の生活様式ががらりと変わることになるでしょう。そう、ガザ地区は今までずっと外側から包囲されていましたが、内部では西岸地区のパレスチナ人よりも自由に動くことができていたのです。」

「どのような形であれ良いアイディアとは考えていない」と強調しながら、イスラエルはガザ地区で最も人口の少ない地域を占拠することも意図していると、ボーク氏は見ている。「脅威を感じたときにいつでも出入りできるようにするためでしょう」と語った。

同様にアル=シャリフ氏は、イスラエルが北部に緩衝地帯を作りつつ、210万人のガザ住民の多くを南部とエジプト国境沿いに押しやっているようだと述べた。「それでも、この目標を維持し続けるのは簡単ではありません」と付け加えた。

イスラエルの軍事攻勢により、170万人以上のパレスチナ人が避難を余儀なくされた。そのほとんどが女性と子供たちだ。(AP)

このような動きは、バイデン政権と直接的な対立を引き起こす可能性がある。戦後、パレスチナ自治政府がガザ地区を統治することをバイデン政権が望んでいるのは明らかだ。

アル=シャリフ氏はこう付け加えた。「パレスチナ自治政府はこれを実現するための条件を提示していますが、ネタニヤフはどれも受け入れないでしょう。米国はガザ住民の強制移送や飛地の分割、あるいは戦争前の領地面積を縮小することに反対しています。」

停戦を求める国連の投票で、米国はあいかわらず拒否権を発動しているものの、紛争の進展に対する民主党内部からの反対が増え、その過程で確執が明らかになってきている。また10月7日の出来事に対するイスラエルの反応を全面的に支持してきたが、それを表面上は撤回する動きも見せている。

木曜日の夜、米国の国務長官は、ネタニヤフ政権の戦争のやり方に明らかな批判とも取れそうな苦言を呈し、市民の安全の最優先を改めて強調しようとした。

英国のデビッド・キャメロン外相と並んで立つ米国のアンソニー・ブリンケン国務長官は、「イスラエルが市民の保護を最優先とすることが重要だ。そして、民間人を保護する意図と、現地で目にする実状との間には依然として隔たりがある」と述べた。

イスラエル人は「イスラエル屈指の偉大な軍司令官である故アリエル・シャロン首相」から学ぶべきだと、バルード氏は語る。シャロン首相は、占領から38年後の2005年にガザ地区からの撤退を指揮した人物だ。

「1967年6月、ガザ地区を占領していたイスラエル軍に対抗するパレスチナ人レジスタンスの圧力の下、イスラエル軍はすべての地域、すべての街角から撤退しました」とバルード氏は述べ、非武装化は不可能だという彼の主張を繰り返した。

「当時のレジスタンスは、現在の軍事力に比べ非常に微々たる手段で戦っていました。それでも、一般人による容赦ない抵抗運動の圧力にさらされたシャロンはガザで勝利できないことを理解し、軍に撤退あるいは『再配置』を命じたのです。」

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