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イランのイスラム革命防衛隊の工作員サイエド・レザ・ムサビをシリアで殺害したのは誰か?その動機は?

サイエド・レザ・ムサビ氏はダマスカスの南に位置する町サイーダ・ゼイナブでイスラエル軍のミサイル攻撃により死亡した。(AFP / 資料写真)
サイエド・レザ・ムサビ氏はダマスカスの南に位置する町サイーダ・ゼイナブでイスラエル軍のミサイル攻撃により死亡した。(AFP / 資料写真)
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27 Dec 2023 11:12:12 GMT9
27 Dec 2023 11:12:12 GMT9
  • 殺害されたイスラム革命防衛隊の指揮官はイランがシリアやより広域のレバント地方で展開している大規模な民兵ネットワークの監督をしていた
  • イスラエルは、イラン関連の標的への攻撃が行われた場合のこれまでの通例通り、自国の関与については肯定も否定も拒否している

ポール・イドンラワン・ラドワン

イラク、クルド人自治区、エルビル / ジェッダ:イランの軍事組織であるイスラム革命防衛隊(IRGC)の幹部が12月25日にシリアで死亡した。2020年1月にバクダッドで「影の司令官」と渾名されたガーセム・ソレイマニ司令官が米軍の無人機攻撃で殺害されて以来、中東地域で実行されたおそらく最重要の標的殺害となった。

イランの国営メディアは、サイエド・レザ・ムサビ氏を「シリアにおけるIRGCの最古参の顧問の1人」で、IRGCのコッズ部隊を率いていたソレイマニ氏に近い人物だったと解説した。コッズ部隊はイラン政権による中東全域を対象としたイラン領土外での作戦を立案し、イランに敵対する勢力に対してイランからの命令を実行する多数の傀儡民兵組織に武器と資金を提供している。

「私はムサビ氏は第2のガーセム・ソレイマニと呼び得る人物だったと思います。ムサビ氏は広い人脈を持ち、現場の人々や民兵組織、様々なグループの指導者と良好な関係を保っていました」と、リヤドを拠点とする国際イラン研究所(ラサナ)の創設者で所長のモハメッド・アルスラミ博士はアラブニュースに語った。

アルスラミ博士は、ムサビ氏はシリアの「現地の現実について誰よりも詳しい情報を持っていました」と語った。アルスラミ博士によると、ムサビ氏の上司で現在のコッズ部隊の司令官であるエスマイル・カーニ氏がアフガニスタンや中央アジアなど他の国々や地域の状況を知悉しているのに対して、シリアの状勢についてはムサビ氏が第一人者だったという。

2020年1月に米国によってバクダッドで暗殺されたガーセム・ソレイマニ氏とサイエド・レザ・ムサビ氏(左)(タスニムニュース / AFP資料画像)

「中東地域となると、ガーセム・ソレイマニ氏と第2のソレイマニ氏であるレザ・ムサビ氏の活躍の場でした」と、アルスラミ博士は語った。「つまり、ムサビ氏の死はイランにとっては非常に大きな痛手です。そして、シリアにおける民兵の勢威を最小限にまで抑制しようとしている人々にとっては大きな成功です」

イランの駐シリア大使は、ムサビ氏は外交官として公的な立場でイラン大使館に勤務していたが、ダマスカスの南に位置する町サイーダ・ゼイナブでイスラエル軍のミサイル攻撃により死亡したと発表した。

イランのIRGCの広報は、ムサビ氏の階級は准将だったと発表した。ムサビ氏はシリアで30年間生活し、シリア国防省内に事務所を持っていたと伝えられている。

イスラエルは、イラン関連の標的への攻撃がシリア国内で行われた場合のこれまでの通例通り、ムサビ氏の殺害におけるイスラエルの関与については肯定も否定も拒否している。

ムサビ氏殺害に必要な情報をその最有力容疑者が入手出来たことは、アルスラミ博士にとって意外ではない。

「英国や米国、そしてさらに重要なことにイスラエルのような国々の諜報機関は、シリアにおけるムサビ氏のような人々の重要性を知悉しています。たとえ、そうした人々がひっそりと目立たないように努めていたとしてもです」と、アルスラミ博士は語った。

「世界各国のほとんどの諜報機関は、独自の情報源を現地で確保しています。シリアには秘密というものが存在していません。ムサビ氏は少なくとも30年間シリアにいました。ムサビ氏は、シリアで、リワ・ファテミユンやリワ・ザイネビヨンといったアフガニスタンやイラク、パキスタンからやって来た民兵組織、そして他の国々出身の多様なグループとIRGCとの連携を活発に行っていました」

イスラエルは、2013年以来、シリア全土の標的に対して数千回もの空爆を断続的に行っている。(AFP / 資料画像)

ムサビ氏は、レバノンのヒズボラと共謀して、シリアのイラン系傀儡民兵組織に武器と資金の組織的な供与を開始していたとも伝えられており、イスラエルにとって同氏が重要な標的だったことに疑いの余地はない。ヒズボラは、イスラエルが2006年に大規模な戦闘を行って以来、長期にわたって大量のミサイル兵器を備蓄している。

「イスラエルがIRGCの国際的スパイ・テロ組織に深く侵入していることは以前から明らかです。実際のところ、イラン国内に非常に良い情報源をイスラエルは有しています」と、独立した立場の中東地域専門家であるカイル・オートン氏はアラブニュースに語った。

「イスラエルの政策の間違いは、こうした戦術的勝利を積み重ねたことから発生しています」

イスラエルが、中東地域で、そして世界規模で、IRGC の策略を阻むことに注力していた一方で、IRGC は「中東地域北部を切れ目なく横断する地域帝国を築き上げるという戦略的前進」を継続した。

イスラエルは、2013年以来、イランとの「戦間期の戦争」キャンペーンの一部として、シリア全土の標的に対して数千回もの空爆を断続的に行っている。これは、イスラエルとイランの二国間のより大きな影の戦争の一部なのだ。

その航空作戦は、非常に高度な防空システムや地対地ミサイルのイランとその傀儡民兵組織によるシリア経由でのヒズボラへの移転を阻むことを目的としている。この移転の取り組みにおいて、ムサビ氏が重要な役割を担っていたことは広く報じられている。

「レザ・ムサビ氏の殺害がイスラエルによって実行されたのだとしたら、それは基本的にはシリア国内のIRGCの物理的なインフラを標的とし、人物を標的とすることは避けてきたイスラエルにとって重要な方向転換だということです」と、オートン氏は述べた。

オートン氏は、これまでのイスラエルの戦略の「欠陥」は、イスラエルの攻撃後IRGC がその拠点を再建する早さに起因しており、まったく同一の標的に対する繰り返しの攻撃が必要となることだったと語った。

イスラエルは、2013年以来、イランとの「戦間期の戦争」キャンペーンの一部として、シリアに対して空爆を行ってきた。(AFP / 資料画像)

他方、IRGC は「軍事訓練イデオロギー的洗脳」の組み合わせによる人的ネットワークの整備と拡大を通して、中東地域に「イランの影響力を組み込む」という「重要な作業」を継続した。

ラサナのアルスラミ博士は、ソレイマニ司令官の死の余波と同様、ムサビ氏を失ったことで、近い将来、イランの支援を受けたシリア国内の組織間の分裂や分断が生じることになると確信している。しかし、アルスラミ博士は、イランとイスラエルの間ですぐに緊張が高まる可能性は低いと考えている。

「イランもイスラエルも間接的な対峙という同一の戦略を採っていると私は考えています」と、アルスラミ博士は述べた。

「イスラエルは、シリアや他の場所でイランを攻撃しています。しかし、拡大を避けるためにイラン国内での直接的な軍事作戦の実行は避けています。イラン側においてもそれは同様なのです。イランは、イスラエルをキプロスやギリシャ、その他の国で攻撃しようとしています。こうした状勢はおそらく今後数年間にわたって継続することでしょう」

ムサビ氏はダマスカスの南に位置する町サイーダ・ゼイナブでイスラエル軍のミサイル攻撃により死亡した。(AFP / 資料写真)

オートン氏は、ムサビ氏の殺害がそれだけでイランのシリアへの影響力を「強く抑制する」とは考えていない。

「イラン人たちは10年以上にわたってイスラム革命のモデルを非常に集中的にシリアに適用してきました。ムサビ氏の個人的な経歴が裏付けているように、この計画自体はそれよりもずっと息長く仕込み続けられてきたものです」と、オートン氏は語った。

「とはいえ、ムサビ氏の殺害が一度限りの人物の殺害ではなく、イスラエルがシリア国内のIRGC 幹部たちを標的化する方針に切り替えたのだとしたら、時間の経過と共に、シリアにおけるイランの計画を不安定化させるような累積的な効果を発揮する可能性があります」

イスラエル側でのそのような方針変更は、イエメンや場合によってはレバノンからのミサイル発射をIRGC が決断する結果へと繋がるかもしれない。

イランの支援を受けているフーシ派は、既に紅海での商船に対する攻撃を拡大・激化させ現地の米軍艦艇に対して攻撃を行うまでに至っている。米国は、また、紅海から遠く離れた、インド海岸200海里沖のインド洋において、12月23日、自爆型攻撃ドローンで化学タンカーを攻撃したことについてイランの責任を直接的に非難した。

その航空作戦は、高度な防空システムや地対地ミサイルのシリア経由でのヒズボラへの移転を阻むことを目的としている。(AFP / 資料画像)

オートン氏も、また、こうした報復合戦を超えた大規模な拡大・激化が発生する可能性については懐疑的であり、イスラエルの諜報機関がIRGC のネットワークに「深く侵入」しているため、IRGC がいかに強力であったとしても「『華々しい対応』を遂行」し得る可能性は低いと指摘した。

イランがこうした方法で2020年のソレイマニ司令官殺害への報復に「非常に公然と」尽力していたことをオートン氏は、記憶している。当初、イランは、ソレイマニ司令官の死への返報として米軍が駐留するイラク空軍基地に弾道ミサイルを発射し、数人の米兵に外傷性脳損傷を負わせたのだった。

付言すれば、イラクのクルディスタンの米軍は、12月25日、ムサビ氏死亡の直後に、爆発物を積載した、民兵組織が制御していると考えられるドローンによる攻撃を受けた。この攻撃により兵士3名が負傷し、内1名は重体であると伝えられている。

米国はイラクの民兵組織に対する報復目的の空爆を開始した。こうした展開は、イラクの脆弱な状勢を再び悪化させ、不安定な状況を他国へと連鎖・拡大させて行くリスクを有している。

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