• 銀行の預貯金出し入れが禁止され、いま金融業界は嫌われている
• 2019年に金融業界が崩壊して以来、レバノンは過去最悪の経済危機に襲われてきた

ベイルート：危機に見舞われたレバノンに暮らす多くの人々と同じように、エリアス・スカフ氏は銀行で現金を引き出すのに何時間も待ったものだが、貸金業者への信頼が失われた今、送金サービス会社を利用することが増えた。

資金の受け取りを従来の銀行に頼っている人は「現金を受け取るまでに100回は死ぬことになる」と語ったスカフ氏（50）は、３年前から続くレバノンの不況を、海外にいる親戚から送金されてくる米ドルで生き延びてきた。

かつて金融業界はレバノン経済の主力だったが、銀行は預金の出し入れを禁止し、融資を停止し、何百もの支店を閉鎖して何千人も解雇したので、今は広く一般に嫌われている。

先月、ある地元の男性がベイルートの銀行にライフルを持って押し入り、従業員と顧客を人質に、凍結された自分の預金20万ドルの一部を病気の父親の入院費として支払うよう、数時間にわたって要求したので、国民的英雄としてもてはやされた。

レバノンの根深い危機が緩和の兆しを見せないまま、送金サービス業者がますますその隙間を埋めるようになっており、外貨両替、クレジットや税金の支払いサービスも提供し、婚礼ギフト登録簿の作成まで行っている。

スカフ氏が資金の受け取りに現在使っているのはウエスタンユニオン銀行のレバノン代理店であるOMT社のベイルート支店で、OMT社はレバノン全土で1200以上の支店を営業し、レバノンの金融業界を経由しない送金サービスの80%を取り扱うという。

「お客様のご要望で銀行が提供するのと同様のサービスを作ります」とOMT広報担当のナジ・アブー・ザイード氏は語った。

2019年に金融業界が崩壊して以来、レバノンは過去最悪の経済危機に襲われてきた。ブラックマーケットで現地通貨の価値は90%以上下落し、同時に貧困と失業が激増した。

銀行は憤慨した抗議者の標的になることが多く、ATMは石で壊されスプレー缶で落書きされる。

銀行からは「ほんのわずかなお金も引き出すことができません」と語った45歳のアラア・シェイカニ氏は、あるOMT支店の列に並んでいた。

「銀行を信用してお金を預けることなどどうしてできるでしょうか？」

最近結婚したばかりのエリエ氏（36）は、レバノンの送金サービスのウィッシュ・マネー社を使って婚礼ギフト登録簿を作ったが、これで結婚式参列者の時間と手間を、手数料を節約できると語った。

フルネームを明かすことを辞退したこの男性は、「混雑していることの多い銀行で何時間も待つより、送金サービスの方がお金を送るのに便利です」と語った。「節約できる時間とコストの点で、これは比較になりません。」

ウィッシュ・マネー社のマーケティング部長ディナ・ダヘル氏は、同社はレバノン・ポンドの送金を「手数料ゼロ」にすることで顧客を獲得しつつあると語った。

現在、給与の支払いに銀行ではなく送金サービス会社を使う企業もある。

「危機が始まったとき、私たちは給与を現金で支払うしかありませんでしたが、それは時間の無駄」だったのは、会計担当が大量の札束を数える必要があったからだと、人事管理者のレイチェル・ボウ・ナデール氏は語った。

だが今、彼女が働くスポーツ用品会社マイク・スポーツ社は、従業員にウィッシュ・マネー社を通して給与を支払うので、「給料の引き出しは何度でも無料できます」とボウ・ナデール氏は語った。

レバント戦略研究所のサミ・ナデール所長は、レバノン海外移住者からの送金は家族が経済危機を乗り切るため不可欠になったと語った。

「現在、海外に住む若いレバノン人労働者なら、迷わず両親に100ドルを送るでしょう。今はこの金額が重要なのです」とナデール所長は語った。

レバノンの銀行は今も提供を続けている外貨送金などのサービスの手数料を激増させたが、これが銀行のほとんど唯一の収入源になっていると語ったナデール所長は、それがさらに送金サービス会社に逃げる動きを加速したと付け加えた。

およそ25万人のレバノン住民が2022年上半期に受け取った海外からの送金額は、OMT社によると昨年同期に比べて8%増加した。

世界銀行の報告では、レバノンが2021年に受け取った送金は66億ドルで、中東と北アフリカ諸国の中では最高の水準だった。

 AFP