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米英の制裁は、カプタゴン中毒の危機を助長しているシリア・レバノンの人物が担う役割を浮き彫りにする

サウジアラビアを含む、カプタゴンの大規模な押収。(AFP通信)
サウジアラビアを含む、カプタゴンの大規模な押収。(AFP通信)
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31 Mar 2023 10:03:22 GMT9
31 Mar 2023 10:03:22 GMT9
  • シリア関連の人物に課された制裁は、カプタゴンの違法取引に対して国際社会の危機感が高まっていることを示している
  • アラブニュース・ディープ・ダイブは、生活を破壊し、地域を不安定にしていると非難されている麻薬取引を阻止しようとするサウジアラビアの取り組みに注目した

ロバート・エドワーズ

ロンドン:バッシャール・アサド大統領の2人のいとこと、シリア・レバノンの複数の人物に対し米英当局が課した最近の制裁は、カプタゴンの生産・取引においてそれらの人物が果たす役割に対し、国際社会の危機感が高まっていることを示している。この麻薬産業は、シリア政権にとって最大570億ドルの価値があると推定される。

カプタゴンは、中東全域で使用されている非常に中毒性の高いアンフェタミン製剤で、世界供給量の80%がシリアで生産されている。ラタキア港のようなシリア政権の拠点から、数十億ドル規模の麻薬の出荷が日常的に行われている。

2月に掲載された最近のアラブニュース・ディープ・ダイブは、カプタゴン産業の深い闇を掘り下げ、元中毒患者、密売業者、医療専門家、違法取引の取り締まりに関与している国境当局者を取材した。

「シリアのバッシャール・アサド大統領の家族とその仲間は、シリア国民に対する政権の暴力的な抑圧と虐待行為の資金源として違法薬物取引に頼っている」と米国務省のヴェダント・パテル副報道官は28日に語った。

「今日指定された個人と団体は、違法薬物取引から得た資金をシリア政権に提供し、同政権がシリア国民に対する虐待行為を継続することを可能にした」

「アサド政権、ヒズボラ、およびその関連組織によるカプタゴン違法取引は、地域の安定、公衆衛生、法の支配に重大な脅威をもたらしている」

カプタゴンは、中東全域で使用されている非常に中毒性の高いアンフェタミン製剤。(AFP通信)

12年にわたる内戦、制裁、外交的孤立の中で、この麻薬取引はアサド政権の財政的ライフラインだ。英国当局によるとこのビジネスは、メキシコのコカイン・カルテルの取引をすべて合わせた額の約3倍の価値がある。

アサド政権、レバノンの民兵組織ヒズボラやこの地域でイランの支援を受けた他のグループはすべてカプタゴン産業を促進することで知られており、それにより増大する依存症の危機を増大しながら地域の不安定さを助長している。

米英当局は3月28日、アサド大統領の従兄弟であるサメル・カマル・アサド氏とワッセム・バディ・アサド氏が麻薬取引で果たした役割を理由に、2人を対象とした新たな制裁を発表した。

米財務省によると、サメル・カマル・アサド氏はラタキアの沿岸都市に工場を所有しており、2020年だけでカプタゴン8,400万錠を製造した。

「シリアは、非常に中毒性の高いカプタゴンの生産で世界的リーダーになっており、その多くはレバノン経由で取引されている」と制裁を扱う財務省高官のアンドレア・ガッキ氏は声明の中で述べた。

「我々は同盟国とともに、シリア国民に対するバッシャール・アサド政権の継続的な弾圧を可能にする、違法薬物収入やその他の財政的手段で政権を支援している人々に、責任を負わせる」

このリストには、麻薬製造業者との取引を促進している政権の上級官僚と、中東全域での麻薬取引を担当するヒズボラの主要関係者が含まれる。

他の制裁対象には、レバノンで最も有名な麻薬王で当局から逃亡中のヌーフ・ザイタル氏や、レバノンとシリア両国で高いレベルのつながりを持つ麻薬取引の大物ハサン・ダコウ氏などがいる。

米国財務省の措置の下、米国は麻薬密売容疑者が保有する国内の資産を封鎖し、彼らとの取引を犯罪とする。今回の制裁はまた、関係する個人を対象とした資産凍結と英国への渡航禁止を含む。

カプタゴンの押収はアサド政権に端を発し、マーヘル・アサド氏(左)が麻薬の製造・密輸に重要な役割を果たしている。(AFP通信)

「アサド政権はカプタゴン取引から得た利益を利用して、シリア国民に対するテロ活動を続けている」と、英国の中東問題担当国務大臣タリク・アフマド氏は声明の中で述べた。

「英米は同政権に対し、シリア国民を残酷に弾圧し中東全体の不安定さを助長している責任を問い続ける」

「Abu Hilalain」(2つの三日月の父)というアラビア語の通称を持つ、特徴的な2つの半月のロゴで知られるこの丸薬は、簡単に製造でき、すぐに入手可能で、比較的安く購入できる。

過去6年間で、サウジアラビア当局は国境で合計6億錠のカプタゴンを押収しており、2021年の第1四半期には過去2年間全体よりも多くの錠剤が押収された。

約1億2,000万錠が2021年に押収され、2022年8月だけで、当局は1回の押収量が4,500万錠という記録的な密輸を阻止した。

最近行なわれた最大規模の密輸は10月だった。リヤドでパプリカの積荷から約400万個の錠剤が見つかり、首都とジェッダで5人の容疑者が逮捕された。

国境での薬物押収はカプタゴンとの戦いの半分に過ぎず、サウジアラビア全土の専用治療センターでは、医療専門家が戦っている。幸い、サウジアラビアの中毒者には、KAFA喫煙薬物乱用防止協会のような組織が提供するライフラインをつかむ機会がある。

多くの若者は、勉強や試験で忙しい期間中の目覚ましとして、また長時間労働や残業・週末出勤のときにカプタゴンに頼る。

いったん中毒になると、一部の服用者はその習慣を続けるために街頭犯罪に手を染めたり、また、より強い薬物への入り口となり得る。その過程で、依存症は人間関係、キャリア、学術的可能性を破壊し、逮捕、入院、さらには死につながる可能性がある。

カプタゴンはまた、不安や極度の抑うつから焦燥感、神経過敏、怒りや憤りの感情まで、混乱や気分のむらを引き起こすことが分かっている。

さらに心配なことに、この麻薬は一部の服用者に痛みと恐怖への無関心と危険な無敵感を与える。これは、この地域のダーイシュや他のテログループの歩兵が薬を取り入れるきっかけになったと報告されている。

マーヘル・アサド氏は、第4機甲師団の司令官として製造・密輸の取り組みに関与している、とキャロライン・ローズ氏はアラブニュースに語った。(AFP通信)

サイクリングやサッカーなどのスポーツにおいてドーピング目的で使用されるなど、広範囲にわたる依存症および誤用の証拠が増加してきた1981年、カプタゴンは米国食品医薬品局(FDA)によって禁止された。

世界保健機関(WHO)が、1971年に採択された向精神薬に関する条約に基づく規制物質としてフェネチリンをリストに載せた1986年に、カプタゴンの合法的処方はようやく終わりを告げた。サウジアラビアは1975年から同条約に署名している。

それ以来、この薬は世界のどこにおいても合法的に製造・販売・処方されていない。しかし、裏の世界では、犯罪組織が金儲けの機会を見いだし、間もなく中東や他の場所にカプタゴンの模倣品が出回るようになった。

現在、アラビア半島に毎年流入している何千万もの錠剤の大部分は、アサド政権の積極的な関与のもと、シリアで製造されている。

2022年4月にワシントンのシンクタンク「ニューラインズ戦略政策研究所」が発表した報告書によると、戦争で荒廃したシリアは「産業規模の生産における中心地」になっている。

「シリア政府高官が、生産・密輸での閣僚レベルの共謀を伴うカプタゴン取引における主な推進力であり、国際的制裁の中で政治的および経済的生存の手段として麻薬取引を使用している」と付け加えた。

シリア政府は「カプタゴンの生産・取引における技術的および物流的支援のために、ヒズボラのような他の武装グループとの地元の同盟構造を使用しているようにみえる」

カプタゴンの世界供給量のうち80%はシリアで生産されている。(AFP通信)

ニューラインズ研究所のシニアアナリストであるキャロライン・ローズ氏は、アラブニュースに対し「カプタゴンは、アサド政権に非常に近い人々によって生産・売買されている」のは疑いようもなく、「その中には政権メンバーの従兄弟や親戚も含まれている」と語った。

その中で最も注目すべきは、「バッシャール・アサド大統領の兄弟、マーヘル氏であり、第4機甲師団の司令官として生産・密輸の取り組みに関与していた」とローズ氏は述べた。

この軍事部隊は、政権支配下の国境に設置された検問所で貿易・密輸業者からの徴税など、シリアの戦時経済に関連する多様な経済活動に関与している。

2022年9月20日、麻薬取引におけるシリア政権の役割は、米国下院が「アサド政権の麻薬(カプタゴン)拡散・取引また貯蔵への対抗法」(H.R. 6265)を可決したときに公式に認められた。

この法案は、米国政府に対し「シリアのバッシャール・アサド政権に関連する麻薬の生産・取引、および関連ネットワークを破壊し解体するための省庁間戦略を策定する」ことを要求している。

法案を支持するため、下院で演説したフレンチ・ヒル下院議員は「アサド氏自身による国民に対する定期的な戦争犯罪への関与に加えて、同政権は今や麻薬国家になりつつある」と述べた。

カプタゴンは「すでにヨーロッパに到達しており、我が国に到達するのは時間の問題だ」と同議員は付け加えた。

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