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NATO首脳会議をきっかけにトルコに大転換の兆し

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17 Jul 2023 08:07:18 GMT9
17 Jul 2023 08:07:18 GMT9

先週バルト三国のリトアニアの首都ビリニュスで開かれたNATO首脳会議では、ウクライナ戦争とスウェーデンの加盟申請が専らの議題だった。

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はビリニュスに向けて出発する前、スウェーデンの加盟問題に関して取り引きを受け入れる用意があると発表してNATOを驚かせた。その提案は次のように要約できる。「あなた方がトルコのEU加盟プロセスを再開するなら、トルコはスウェーデンのNATO加盟プロセスを開始する」。エルドアン大統領の声明はトルコおよび多くのNATO加盟国・EU加盟国でメディアの見出しを飾った。

しかし、トルコのEU加盟プロセスは別個の問題である。同国がEUに加盟するにはいくつかの政治的・経済的基準を満たさなければならない。

実際、この取引には重要な要素が欠けている。トルコはスウェーデンのNATO加盟を阻止するのをやめることができるだろうが、方程式のもう一方の要素、すなわちEUが欠けているのだ。トルコのEU加盟プロセスの再開を決定できるのは欧州理事会だけである。そして、スウェーデンのNATO加盟を認めるというコンセンサスを阻止する権限がトルコにあったのと同様に、どのEU加盟国もトルコ加盟の交渉再開を阻止できるのだ。

トルコとEUの関税同盟更新の問題は双方の間の大きな頭痛の種である。この更新が延期されているせいでトルコは損失を被り続けている。

トルコはこれまでのところ、ドイツやフランスなどのNATO諸国にいるテロ組織の活動を止めることができていない。その前例を念頭に置くと、スウェーデンはNATO加盟が決定すればテロ組織の活動再開を容認するかもしれない。

NATO首脳会議後の記者会見におけるエルドアン大統領の説明によると、トルコによる今後の手続きは次のように進むことになる。まず、トルコ国会の外交委員会がスウェーデンのNATO加盟に関する報告書を起草し、この問題を国会の議題に組み入れる。続いて、10月に再開する国会が議事日程に従ってこの報告書を審議する。

エルドアン大統領は記者会見で、「国会休会期間が終わったら手続きを再開する」と繰り返した。この発言は、同大統領がスウェーデンのNATO加盟に対するトルコの承認プロセスを急いで進めようとはしていないという印象を与える。これは、スウェーデンに対し同国国内のテロ組織の活動を制限するためにできるだけ多くの法律を成立させるよう圧力をかけるための時間をたっぷりと取るためだ。

トルコの政府寄りのメディアは、NATO首脳会議でのエルドアン大統領のパフォーマンスを大々的に称賛した。しかし反体制派は、EUは再びトルコを失望させることになると主張した。

トルコはスウェーデンのNATO加盟を阻止するのをやめることができるだろうが、方程式のもう一方の要素、すなわちEUが欠けているのだ。

ヤサール・ヤキス

一方、スウェーデン最高裁判所はNATO首脳会議の翌日、トルコ国籍者2人の引き渡しを求めるトルコの要請を拒否した。トルコ側は、自主亡命して米国に住んでいるトルコ人イスラム聖職者フェトフッラー・ギュレン師の支持者が使用するスマートフォンアプリをこの2人の男が使用していたと主張している。ギュレン運動のメンバーらはこのアプリを使用することで気づかれることなく連絡を取り合っているのだ。スウェーデンの法律が定めるところでは、何らかのアプリを使用することはその人物の身柄引き渡しの十分な理由とならない。スウェーデン最高裁は、問題の2人は同国において移民資格を取得していると指摘したうえで、彼らはトルコに引き渡されれば拷問を受ける可能性があると述べた。同最高裁のこの姿勢は、今後も両国間で非難の応酬が長く続くであろうことを示唆している。

ギュレン運動メンバーとされる者たちの引き渡しは、スウェーデンのNATO加盟に対するトルコの承認に関して主要な問題の一つであり続けてきた。今回の件でスウェーデンの裁判所が拒否の判断を示したことは、この問題に関する最初の試練となった。同様の案件に関する最終判断を下すのはスウェーデン政府だが、慣例としては外国政府の要請に基づいて決定を下すことはない。

エルドアン大統領はNATO首脳会議期間中、米国、ドイツ、イギリス、フランス、スペイン、ギリシャ、オランダなどのNATO加盟国の首脳らと会談した。米国のジョー・バイデン大統領との会談では、両首脳はトルコへのF-16戦闘機売却や既存の戦闘機の一部のアップグレードに関して意見を交換した。バイデン大統領はこの件を連邦議会で協議するとしたうえで、有力議員らを説得して承認を得られるよう最善を尽くすと約束した。

一方、トルコとギリシャの対話では明るい進展が実現した。以前にも何度か起こったことだが、地域で発生した地震が隣国同士を結束させたのだ。今回は、エルドアン大統領とギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相は話し合いを再開すること、そして秋にテッサロニキで会談を開くことを決定した。両首脳がそれぞれ任期を始めたばかりであるという事実は、二人の波長が合えば具体的な進展が実現する可能性があることを示唆している。核心問題の早期解決が不可能だとしても、両首脳はより異論の少ないいくつかの問題の解決のために協力することから始めるかもしれない。エルドアン大統領は、両国には極めて大きな協力機会があると考えている。

ビリニュスでの首脳会議終了後、ギリシャメディアはトルコに対して融和的な論調を採用した。今後はおそらく両国の外相が主要な役割を果たすだろう。エルドアン大統領は6年ぶりのギリシャ訪問を予定しており、トルコ・ギリシャ・ハイレベル協力評議会の共同議長も務めることになっている。両首脳の会談は9月の国連総会に合わせてニューヨークで行われる可能性もある。このように以前より雰囲気が温かくなっているため、エーゲ海における信頼醸成措置の3年以上ぶりの再開も実現する可能性がある。

トルコとギリシャの間、そしてトルコとNATOの間に大転換の兆しが出てきている。この友好的になった雰囲気が、ビリニュスでの首脳会議から生まれた機運によってさらに促進されることに期待しようではないか。

  • ヤサール・ヤキス氏はトルコの元外相で、与党AK党の創設メンバー。ツイッター: @yakis_yasar
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