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地球もまた戦争の犠牲者である

ガザで続く水不足のため、入浴と洗濯に海水を使うパレスチナの人々。2023年10月29日(AP Photo)
ガザで続く水不足のため、入浴と洗濯に海水を使うパレスチナの人々。2023年10月29日(AP Photo)
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10 Nov 2023 05:11:51 GMT9
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2001年、コフィー・アナン国連事務総長の在任中に、国連総会によって11月6日は戦争と武力紛争による環境搾取防止のための国際デーと定められた。今週、この重要な日付を再び迎えるにあたって、戦争がすでに危機に瀕している私たちの惑星にどのような影響をもたらすのかを検証することは重要である。

戦争は人間性を破壊し、人々、とりわけ子供ともっとも脆弱な人々に想像もつかないほどの被害と苦痛をもたらす。しかし、武力紛争の被害者は人間だけではない。環境と地球上の他の生き物も犠牲になるのだ。

第1に、現代の軍用大型車両、特に空軍が配備するものは、稼働のために多量の石油に依存している。アメリカ国防総省は、このような燃料の世界最大の消費者であると言われている。

これら軍用大型車両を戦争で使用することで、窒素酸化物、二酸化硫黄、炭化水素、一酸化炭素に加えて大量の二酸化炭素が放出される。事実、世界で最大規模の軍隊の一部は、国家の総排出量より多くの二酸化炭素を排出している。例えばアメリカ軍の二酸化炭素排出量はデンマークやポルトガルといった国のそれを上回ると考えられている。

二酸化炭素の排出は、気候変動と地球温暖化の背後にある主要な動因である。気候変動に国境は存在せず、ある国の軍事政策と行動はその国と交戦する国だけでなく、それ以外の国にも影響を与える可能性がある。残念ながら、開発途上国と社会経済的に下層の人々、高齢者、女性と子供を抱えるコミュニティーは、地球温暖化が引き起こす損失と損害を不釣り合いに被るのだ。

第2に、戦争によって水系が破壊され、環境だけでなく人間と野生生物の生活に大きな影響をもたらす可能性がある。例えば、大型軍用車両に由来する油や兵器の残留物、あるいは水施設への攻撃は水源の汚染につながりうる。イラク、アフガニスタンその他の紛争地域における戦争の影響を研究したブラウン大学ワトソン研究所の報告書によると、「戦地における飲料水は軍用車両の油と弾薬の劣化ウランによって汚染されている。これらの国では天然資源の劣化と大規模な森林破壊に伴い、動物や鳥の生息数も負の影響を受けている」

一部では、水の供給を意図的に遮断する行為も戦争の武器として用いられる。また別の手法としては、意図的に飲料水を汚染し、恐怖を植え付けるために相手国の石油インフラを攻撃するというものがある。世界がますます水ストレスと水不足に直面し、一部の地域ではしばしば需要が供給を上回る現在、このような攻撃の帰結は非常に深刻なものになっている。今日、世界で約4人に1人が安全な飲料水を入手できない。また憂慮すべきことに、2016年の国連の推計では、世界の人口の半分は2025年までに水不足に直面する地域に暮らしている可能性がある。これは人間だけでなく、生態系全体に悪影響を及ぼす。

第3に、戦争はしばしば森林破壊において大きな役割を果たす。例えば、ヨーロッパの2つの大戦による破壊が森林に与えた大きな影響は今日なお感じられる。樹木と森林は二酸化炭素を吸収して大気中に放出される温室効果ガスの量を減らすために不可欠な役割を果たしている。言い換えると、森林破壊の増加に伴って人間、環境、地球は深刻な影響を受けることになるのだ。

第4に、爆弾や他の爆発性の武器は大量の破片や瓦礫を生み、大気と土地、土壌の汚染をもたらす。農地が破壊されることにより、食料供給は不安定化し、飢餓が増加する。戦争による土地の汚染は土壌侵食を引き起こして人間とその食糧生産に影響を及ぼすだけでなく、他の種にも損害を与え、大量絶滅の引き金となる恐れがある。

「紛争と環境観測所」によると、戦争時の焦土作戦は「水路や井戸、ポンプのような農業インフラの破壊と作物の焼却」も含む。「このような戦術は、食糧の安全保障と人々の生計を脅かし、農村地域のコミュニティーの脆弱性を高める」

武力紛争は人間性を破壊するだけではなく、環境にも大きな損害を与える。

マジド・ラフィザデ博士

最後に、戦争は人々の大移動を引き起こし、その結果大規模な難民キャンプが生まれることがある。このような場合の環境への負荷には注意が必要である。というのも、多数の人々が近隣諸国へ逃れようとするものの、行先となる国には水、食糧、衛生といった彼らの基本的必要を満たすために必要なリソースがないことがしばしばあるためである。

要するに、武力紛争は人間性を破壊するだけではなく、環境にも大きな損害を与えるのである。戦争による環境へのダメージには水、土壌、大気の汚染、野生生物と生物多様性への害、および大気中への温室効果ガス排出などがある。これはまた、資源を枯渇させるとともに、森林破壊と農地および自然の景観の劣化を加速させる。私たちは地球を守るという課題を前に、自らの義務と決意をあらためて確認しなければならない。

  • マジド・ラフィザデ博士はハーバード大学出身のイラン系アメリカ人の政治学者。X: @Dr_Rafizadeh
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