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トランプ大統領はクリスマスまでに米中通商合意を達成できるか

ドナルド・トランプ米大統領と中国の習近平国家主席。(AFP)
ドナルド・トランプ米大統領と中国の習近平国家主席。(AFP)
30 Nov 2019 01:11:45 GMT9

ドナルド・トランプ大統領は今週、米中の交渉担当者が「第1段階」通商合意の「最終局面」にあることを改めて明言した。合意実現の兆しが強まり、金融市場は上昇相場が続いているが、香港を巡る両国間の対立で決裂の可能性も残されており、合意締結は決して確定したわけではない。

中国が12月に開催を予定している年一度の中央経済工作会議だが、一部の評論家はこれを合意締結が近づいている徴候であると主張しており、トランプ氏の発言と並び、このごろ合意を楽観視する見方が広まっている。両国がクリスマス前の交渉前進を望んでいるのには複数の理由がある。大統領選の年を控えるトランプ氏にとって、合意は実績を喧伝する材料になる一方、香港で続く政情不安や、水準未満の経済指標に見舞われている中国には、経済の安定性を誇示したい狙いがある。

次の関税発動期限である12月15日には、米国の中国輸入品に対する追加関税の始動が予定されており、これもクリスマス前に交渉を前進する動機となっている。追加関税では、1600億ドル相当の中国製品に対して15%の関税が上乗せされる。

合意内容には関税の取り下げが含まれていると報じられているものの、紆余曲折だった今年の交渉を踏まえれば、2020年までに合意に至れるかどうかは不明である。例えば、春には合意締結が目前かのように見えていた。トランプ氏は3月、米中協議が「非常に順調」であるとし、「いずれにせよ、今後3〜4週間以内には分かるでしょう」と発言していた。当時の報道によると、両国は150ページ以上に上る合意文書案を検討し、大統領はそれが「素晴らしい」合意になると述べていた。

当時、ミュラー報告書が開示されたことで、米国内でのトランプ氏の政治的立場が強化されたと各国では受け止められていたこともあり、今と同様、合意を締結すべき動機があるように思えた。この中で、中国政府では大統領が2期目の再選を果たすという見方が強まり、中国の政策立案者が貿易交渉で賭けに出ることを後押ししたのだ。

「第1段階」協議が遅れる(あるいは決裂する)可能性を完全に排除できない理由の1つは、香港問題を巡る両国の対立だ。トランプ氏は水曜、議会を通過した香港人権・民主主義法案に署名した。「内政干渉」であるとして中国を激怒させたこの法案は、香港が中国政府から政治的に自立しており、貿易優遇措置を継続して受ける要件を満たしているかを年1度チェックすることを定めている。この貿易優遇措置により、香港は世界の金融センターとしての地位を向上させてきた。

気まぐれなトランプ氏は「アメリカ合衆国を再び偉大な国に」の約束実現を目指す中、2020年における政治的利益に対して著しく整合性に欠けた(ともすれば変化の早い)認識を持っており、これが不確実性を増す一因となっている。同氏は公約として、米国の貿易赤字の削減に加え、不公平と見られる貿易慣行に対して断固たる措置を取ることなどを掲げている。

トランプ氏は長年にわたり、中国政府に対して毅然とした対応を取ってきた。例えば同氏は昨年、2026年まで隔年で、対米外国投資委員会に「Report on Chinese Investment(中国による米国への投資に関する報告書)」を提出することを合衆国商務長官に義務付ける法案に署名している。

こうしたトランプ氏の感情を踏まえると、12月または2020年に「第1段階」通商合意が締結されたとしても、緊張が解けることはなく、世界で恐らく最も重要な経済的・政治的二国間関係が引き裂かれる可能性は依然として排除できないだろう。現在は良いムードが漂っているものの、再び協議が決裂すれば、再選の追い風になると判断したトランプ氏が、敵対的な発言を復活させる可能性が残っていると、中国政府は認識するだろう。

経済の面では、トランプ氏は以前、為替操作など不正行為を行ったとして中国を非難している。経済以外の面では、世界における米国の利益に対し、中国が第一の脅威であると同氏が本心から考えていることは明白である。新しく作られた人工島を巡り、米中両政府が対立している南シナ海問題など、一連の安全保障問題が未だに両国の行く末に暗い影を落としている。

トランプ氏が「アメリカ・ファースト」の公約を果たすには、最終的に米国の政治基盤に対して、これらの問題について中国政府から譲歩を勝ち取ったことを示す必要がある。「全てが交渉事項に入っている」と以前に述べたトランプ氏が理想とするのは、最近の北朝鮮を巡る習近平主席との外交を踏まえれば、同氏が人民元自由化を求めている経済分野の枠を超え、他の安全保障問題をも包含する、より幅広く大規模な取引を行うことである。

そうした大規模な取引はまだ先のことであり、その多くは実現しない可能性もあるが、「第1段階」通商合意がまとまっただけでも、世界経済の安定性は全体的に改善し、軋轢が生じている世界貿易システムの損失に歯止めがかかるだろう。さらに、この種の合意によって、2020年代へ向けた二国間関係の新しい基準が打ち出されることで、国際関係がより幅広い好影響を受ける可能性もある。

  • アンドリュー・ハモンドは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのLSE IDEASにて准教授を務めています。
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