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【インタビュー】新型コロナで打撃を受けてもサウジアラビアの住宅ローン需要は回復する――不動産のプロ、ファブリス・スシーニ氏が示す自信

イラスト:ルイス・グラニェーラ
イラスト:ルイス・グラニェーラ
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31 May 2020 08:05:06 GMT9
31 May 2020 08:05:06 GMT9

フランク・ケイン

  • 「現行の政府支援策が継続するかぎり、住宅ローンの返済不履行が連鎖的に起きる見込みは低いとみられる」サウジ不動産再信販会社のファブリス・スシーニCEOが本紙に語る

ひとたびパンデミックが起きれば、かくも変われば変わるものか。2020年の折り返し点を迎えるにあたって、サウジ不動産再信販会社(SRC)のファブリス・スシーニCEOは2年にわたる確かな前進を振り返るにいたった。同社はサウジ国内の志ある若人らに手の届く価格での自宅所有を供与するべく歩みを続けてきた。

石油依存に特化したサウジ経済を多様化させる主目標の一つは、不動産所有を増大させることだった。このため、2030年までに7割の国民に自宅を所有させることをゴールに据えた。

首尾は上々だった。新規住宅ローンの発行はスシーニ氏が「夢か幻か」と言うほどで、SRC社も目標期間の数か月も前に6割の住宅所有を促すという目標に到達していた。

「たいへんなサクセスストーリーでした」とスシーニ氏は語る。この結果、サウジは自宅は所有するものということが前提となる経済へ向けて新たな段階に入り、同氏はそこへ歩を進めた。つまり、銀行やその他住宅ローン業者からの住宅ローンポートフォリオの買い付け増、住宅市場へは国内向けおよび海外向けのイスラーム債券発行を通じた流動性のさらなる注入、そして現に自宅を所有している者やその可能性のある者への新規長期固定金利住宅ローンの提供、といった経済だ。

3月以来てきめんに効いた経済封鎖により、これら計画が依拠していた数字に変化が生じた。新規の住宅ローン申請は毎週2,000万サウジリヤル(530万ドル)から5,000万サウジリヤルの間を行き来していたが、数百万リヤルにまで落ち込んだのだ。買い手になるはずの者は土地を見に行けず家にいるしかなく、パンデミック発生以降の経済低迷をにらみ支出プランを見直したというわけだ。

「4月と5月は急激な落ち込みを報告することになります。数字が変わらなければむしろ驚きです」とスシーニ氏。「ですが、ファンダメンタルズは変わっていません。自宅所有を望む若く活力ある年代の需要やニーズに照らせば、いまだ未開拓市場といえます。数か月間は鈍化した流れでしょうが、その世代が消えてなくなるわけではありません。減速はあってもいずれ巻き返しはまず間違いなく来るでしょうし、前向きに推移するとみます」

スシーニ氏が楽観的なのは理由あってのことだ。たとえば、金融当局が困窮する経済へ支援の手を差し伸べている。特筆されるのは、サウジアラビア通貨庁(SAMA)と財務省が明らかにした緊急経済対策だ。

「中小企業や民間セクターへの支援は大いにあります。これによって流れも落ち着き、障害も取り払われるでしょう。大打撃にはならないとみています」とスシーニ氏は語る。

通貨庁が流動性注入を効率的に監視・管理すれば、主たる支援対象である中小企業・民間セクターへ確実に届くはずだ、とも言う。

「万々が一、根幹部分が民間なり中小企業へ適切に投入されない、などということがあればそれは驚きもするでしょう。がまあ、そんなことはありますまい」とスシーニ氏。

履歴書

生まれ1964年、ローマ

学歴

  • フランス・パリ第10大学(パリ・ナンテール大学) 法学学士
  • パリ政治学院 銀行・財政学学士
  • ドーフィーヌ大学(パリ) 財政学修士
  • ロンドン・ビジネス・スクール MBA

職歴

  • ソシエテ・ジェネラル 顧客管理マネジャー
  • バイエルン州立銀行 アナリスト
  • パリ国立銀行(BNP) セキュリタイゼーション担当国際統括
  • サウジ不動産再信販会社 CEO

サウジアラビアの住宅ローン業界はその扱う商品について多額の政府補助金を受けている。ここ最近その数字の一部に変調はある。軍および民間の一部向けの住宅ローンに対する補助金は減額されているのだ。SRC社が見据えるさらに広範な住宅ローンへの補助金が失われかねない流れであるとは、しかしスシーニ氏は見ていない。

「私の頭にある住宅ローン補助金はなんら危機に瀕していません。予算は執行されているし財源は確保されています。とはいえむろん、補助金は1リヤルたりともおろそかにせず、最も効果的に使いたいと思っています」とスシーニ氏は言う。

「状況はさらに厳しくなりつつあると見ていただけに、通貨庁が緊急経済対策を取って金融システムに流動性を注入してくれたことには大いに助けられました。ですが、われわれとしては、当社の借り手やパートナーとの関係から当社自身でもっと率先して事に当たりたいとも思っていました。顧客が現に困難に見舞われる前に先回りして行動しておきたいのです」

その結果取られたのが借り手に対する「債務支払い猶予」プランだ。これは、SRC社で住宅ローンを組む顧客に対し、その必要があるなら3か月間支払いを猶予する、とするプランで、多くが応じた。「大多数の顧客の賛同をいただきました。われわれはみずからを『庶民的な』企業であると考えております。官のほうばかり向いていたいわけではありません。庶民性・公序への垂範として何ができるのかを自問したのです」とスシーニ氏は語っている。

現行の政府支援策が継続するかぎり、住宅ローンの返済不履行が連鎖的に起きる見込みは低い。また、SRC社など住宅ローン業界も、経済情勢が困難であるだけに、ここは忍耐と理解を示す姿勢を堅持している。

とはいえ、自宅所有を見込まれる対象にとっても大きな困難は立ちはだかっている。外出禁止や移動規制がある中で視界はきわめて不良であり、住宅購入の市場メカニズムはロックダウンのせいでさらなる困難に見舞われただけではない。このような人生の転機となるような決断を下すにあたり、躊躇する気味もなしとしないという疑念も浮上している。パンデミックがこのまま猖獗をきわめていても、はたして人は家なり部屋なり買いたいと思うだろうか。

顧客は支出をともなう決定をするにあたり、より慎重に優先順位を決めるようになるだろう、とスシーニ氏は考えている。「新車の購入はとりあえず待つかもしれませんが、家は買いたいはずです。より重要と思えるものに選択を移すはずです。自宅購入はおそらく、必要性ではより上位とみるのではないか」とスシーニ氏。

通貨庁などの金融当局が近い将来公的な数字を発表する暁には、サウジ国民も新たな状況下での住宅購入についてより適切な判断を下して意向を示してくれるはずだ、とスシーニ氏は言う。

不動産市場全般の健全性については、スシーニ氏は土地の値段そのものはそれほど下落していないと言う。その上で、SRC社が主に供給するのは市場でも手の届く値段に関わる領域であって、ここは価値が大きく下がる憂慮が低いと力説する。同氏はマンションやヴィラなど大きめの部屋に比べ、アパートの部屋の価値は「きわめて良好に」保たれている、とも言う。

世界の多くの地域は金利がゼロへ向かって下降中だ。こうした時代にあっては、SRC社が提供するような長期固定金利商品は顧客にとって賛同したいインセンティブがあるかもしれない。

「金利が固定されていることのメリットについてはもっと認知されてしかるべきと考えています。借り手側から言えば、以前よりかなり低額のレートで今は抵当条件変更のメリットを享受できています。まさに借り手次第なのです。以前よりも早期に自宅を所有することもできるし、あるいはより堅実な条件での支払いを維持することもできます。レートに助成があろうがなかろうが顧客にとってはメリットになるはずです」とスシーニ氏は言う。

SRC社は、2019年に長期固定金利住宅ローンについて2度金利の引き下げをおこない、今年に入っても先月初めて貸付金利を引き下げている。金利5%で借入期間25年の長期ローンが組めます、というのがスシーニ氏の弁だ。

住宅購入をネット上ですませる傾向も重みを増すことから、SRC社ではデジタル領域にも注力する。フィンテックとデジタル融資の研究は緒に就いたばかりで、夏までには何らかのイニシアチブを公開できるかもしれない、と同氏は言う。

「目下の情勢から明るい兆しについて語るとすれば、金融プロセスのデジタル化が進んでいるということになります。決済のプロセスについてはすでに練り上げられていますが、販売についてはなお前途多難です。デジタル市場については保健省からも革新的な進展がいくつか見られますし、デジタル契約組成に関しては司法省がよい仕事をしています」

SRC社内部に住宅ローンの当初組成機関としての役割(オリジネーター)を盛り込む戦略は継続される。スシーニ氏も金融機関や企業との間で自社ポートフォリオにさらなる商品を組み入れる折衝をおこなっているところだ。

SRC社は3,250億ドル規模のサウジの政府系投資ファンド「公共投資基金」が保有する企業であるだけに、財源に心配はまったくない。が、スシーニ氏の主導のもと、国内でイスラーム債券を発行することで自国市場から資金調達をすることにも積極的だ。すでに2度発行済みで、夏には第3弾も予定される。

同社ではその後今年末に向けて国をまたいだ債券発行についても取り組む構えだ。調達額がいかほどになるかについては、同氏は発言を差し控えた。

「われわれとしては住宅ローンの融資を継続できるということを示したいのです。また、流動性の自己資本比率にともなう問題のため銀行なり証券金融会社が住宅ローン提供を差し止められることのない潤沢なツールなりチャネルなどを保有したいのです」

先に複数の格付会社が銀行の信用度や見通しについて評価を下げた点については、流動性の面から「雲行きが怪しい」と、スシーニ氏は評価した。

「どんな問題に直面しても運用を継続できるに足るあらゆるツールを住宅ローンの当初オリジネーターが保持するべく、われわれとしては用意万端整えておきたいのです」と同氏は語った。

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