東京：日本の検察は水曜、1年に及ぶ裁判の論告を行い、元日産役員グレッグ・ケリー被告が元上司のカルロス・ゴーン氏への不正な報酬支払いに共謀した責任を追及した。

「未払いの報酬金が存在したことは明らかである」と、検察側のカワサキユキオ氏は東京地方裁判所で分厚い資料からはきはきと読み上げた。

日本の自動車メーカー・日産に30年勤めたベテランのケリー氏が会議のため来日した2018年11月に逮捕された当時は米国に在住していた。

日産の取締役会初のアメリカ人役員となったケリー氏は無実を主張している。氏は法廷で、いつもの赤いネクタイと濃色スーツの姿で弁護団の横に落ち着いた様子で座っていた。コロナ禍のため法廷の全員がマスクを着用していた。

ケリー氏は先月AP通信のインタビューで、ゴーン氏の報酬に関するすべての詳細は知らなかったが、並外れた経営能力を持つゴーン元会長を引き留めたいという意志を強く持っていたと語った。

ゴーン氏はケリー氏と同じタイミングで逮捕され、同じく無実を主張している。2019年末には保釈中に行方をくらまし、ゴーン家のルーツのあるレバノンへと逃亡した。レバノンは日本との間に犯罪者引渡条約を結んでいない。

ゴーン氏の容疑は日本で役員の高額報酬の開示が義務付けられてから、氏が2010年以降自主的に自らの報酬を年間約10億円（1千万ドル）カットしたというものが中心となっている。

この報酬カットについては双方とも異論はない。争点は、その金額が契約の下事実上支払われる報酬総額として記載されるべきだったのか、あるいは報酬額が最終的に確定するまで開示の必要はなかったのかという点だ。

日産自動車の幹部らはゴーン氏退職後にコンサルタント料を支払う等、氏がカットした分の報酬を埋め合わせるための様々な方法を検討した。また、子会社経由やストックオプションによる支払い等の方法も考えた。逮捕の時点では何の支払いもなされていなかった。

ゴーン氏はこの逮捕劇について、日産株の43パーセントを保有するフランスの自動車メーカー・ルノーの支配力が強まるのを避けるために日産社内の一団が仕掛けたものだと述べた。他の日産幹部らもケリー氏の裁判で同様の発言をしている。

ルノーは破産の瀬戸際にあった日産を救うため1999年にゴーンを送り込んだ。ゴーンは電気自動車リーフや高級モデルのインフィニティ等を製造する日産の経営を約20年間にわたり成功裡に導いた。

一方ゴーン氏はまた、日産の資金を自らの住居費用、子女の教育費、社用機の使用、シャンデリア購入等の個人用途に流用した背任容疑で告訴されている。ゴーン氏はこれらが仕事に必要なものだったと主張している。

横浜を本拠地とする日産も法人として起訴されており、起訴内容を認めている。

日産はゴーンスキャンダルに加えてコロナ禍による損害により２年連続で赤字となった後、黒字転換に苦しんでいる。

MITスローン経営大学院で教鞭をとるイゴール・マトヴェーエフ氏はゴーン事件について「コーポレートガバナンスの明らかな失敗事例だ」と語る。

「日産は2018～19年にかけて指名・報酬・監査委員会の分離を含む取締役会の刷新を行ったが、日産がガバナンスの問題を完全になくすことができたか、また現在の取締役会が日産が世界規模で戦えるよう導く体制ができているかについては、まだ疑問が残る」とマトヴェーエフ氏は語る。

日産はテネシー州で同社の株価下落をめぐり集団訴訟を起こされている件について、コメントを控えた。

ケリー氏の米国での弁護士、ジェイミー・ウェアラム氏を含むケリー氏の支持者により構成される少数の一団は先週ホワイトハウスと日本大使館でケリー氏の釈放を求める抗議運動を行った。日本の菅義偉首相がワシントンを訪問するタイミングに合わせたものだ。

「グレッグ・ケリー氏とカルロス・ゴーン氏に対するこの訴訟自体、でっちあげに過ぎない」とウェアラム氏は述べた。

ケリー氏が金融商品取引法違反で有罪判決を受ければ、最大15年の懲役刑が下される可能性がある。裁判官３人による判決は来年３月までかかるものとみられる。

AP