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シリアの深刻な貧困 親たちは子供の教育と「生存」の選択を強いられる

生活費を稼いで家族を助けるために、労働者になるしかない若者もいる。(AFP)
生活費を稼いで家族を助けるために、労働者になるしかない若者もいる。(AFP)
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04 Oct 2023 01:10:46 GMT9
04 Oct 2023 01:10:46 GMT9
  • 経済破綻により、教科書、制服、文房具を多くの貧困世帯が購入できなくなっている。
  • 戦争、地震、支出削減により学校が被害を受け、資金不足となり、子どもたちの将来が懸念されている。

アナン・テロ

ロンドン:シリアの悲惨な経済状況により、貧困家庭の生徒たちは今年、学校を休まざるを得なくなっている。家庭が出費を減らし、子供を学校に行かせる代わりに働きに出すことで家計を補おうとしているためだ。

国営シリア・アラブ通信(SANA)によると、シリアの政府支配地域の学校は夏休み明けの9月に再開され、推定370万人の子どもたちが戻ってきた。しかし、それ以外の多くの子どもたちは姿を見せなかった。

欠席とされた子どもたちの中には、シリア人が壊滅的かつ前例のない経済危機に直面する中、家族の生活を助けるために労働者になり、生活費を稼ぐ以外に選択肢のなかった子どもたちもいた。

子どもたちが教育を受ける権利を奪われ、搾取的な児童労働を強いられることを防ごうと、市民社会グループは、弱い立場の生徒が勉強を続けられるよう支援するプロジェクトを立ち上げている。

例えば、首都ダマスカスの慈善団体「Mart Team」は、「ペンのなかの希望(Aqlamouna Amalouna)」というキャンペーンを立ち上げ、苦境にある小学生を支援している。

子どもたちが教育を受ける権利を奪われることを防ごうと、市民社会グループは、弱い立場の生徒が勉強を続けられるよう支援するプロジェクトを立ち上げている。(AFP)

Mart Teamのジェネラル・マネージャーであるマルワン・アルレズ氏はアラブニュースの取材に対し、「1年生から6年生までの多くの生徒が学校に通っていない理由を調査した結果、文房具や教育用品の価格高騰が大きな要因であることがわかった」と語った。

「親たちは、学校が高額な料金や請求を要求していると語っており、多くの親が子供を学校から退学させ、家計に貢献するために労働市場に送り出すことを余儀なくされている」

ダマスカスの小学校で2年生のクラスを1年間教えているドニャ・アボ・アルザハブ氏は、教師は当然のことながら、多くの若い生徒たちも、彼らがどれほど絶望的な状況に陥っているかに気づいている。

「学校の先生として、初めての仕事を始めるのはわくわくした」と彼女アラブニュースに語った。「必要な支援や教材が不足していることで、この仕事が費用のかかる大きな挑戦になるとは思ってもみなかった」

一部の生徒は学習に関して同級生よりも最大3年も遅れている。このため、アルザハブ氏のような教師たちは、国の通貨の価値が過去最低に落ち込んでいるこの時期に、教科書を含む必要不可欠な教材に、自分たちのわずかな収入の大部分を充てざるを得ないことがよくある。

シリアの悲惨な経済状況により、貧困家庭の生徒たちは今年、学校を休まざるを得なくなっている。(AFP)

アルレズ氏によると、小学生一人にかかる教育用品の平均費用は少なくとも20万シリア・ポンド(約16ドル)、リュックサックだけでも10万シリア・ポンドがかかるという。学校が生徒に教科書を与えなかった場合、保護者はさらに5万シリア・ポンドを負担することになる。

このような費用は、つい最近最低月給が18万5940シリア・ポンドに引き上げられたばかりの多くの公務員にはますます手が届かなくなっている。同時に、政府は燃料補助金を削減し、これはシリア南部では珍しい抗議行動を引き起こした。

特別支援教育の学位を持つアルザハブ氏は、交通費だけで給与のほぼ半分に相当する月8万ポンド以上を費やしているという。また、教材費に3万ポンド、毎月買い換えなければならない教師用手帳に1万5000ポンドを費やしている。

「私が仕事を辞めない唯一の理由は生徒のためだ」と彼女は言う。「もし私が辞めれば、生徒たちは後任の教師がいないまま長い間取り残されることになる」

そのような教育の空白は、多くの場合すでに通常より遅れている生徒たちの学習成果に壊滅的な打撃を与えるだろう。彼女が担当するクラスに在学する30人の生徒のうち、20人は読み書きができない。

国連児童基金(ユニセフ/UNICEF)が最近発表した報告書『毎日が大切(Every Day Counts)』によると、2022年、シリアでは約240万人の子どもたちが学校に通っておらず、さらに160万人が退学の危機に直面しているという。

今年1月から3月までを対象としたユニセフの報告書によると、この数字は改善していない。さらに、シリア政府が教育に割り当てている国家予算の割合は、2021年の7.1%から2022年には3.6%に減少した。

ユニセフの推計によると、2011年に始まったシリア内戦によって、全国で7000の学校が被害を受け、または破壊されたという。この状況は、今年2月6日にシリア北部とトルコ南部の一部を相次いで襲った壊滅的な地震によってさらに悪化した。

UNICEFの推計によると、2011年に始まったシリア内戦によって、全国で7000の学校が被害を受け、または破壊されたという。(AFP)

同国連機関は、一度も学校に行ったことのない幼い子どもたちの世代が生まれ、「彼らが成長するにつれて、正式な学校教育への入学や適応が困難になる」危険性を警告した。

しかし、シリアの経済危機が収束するまでは、多くの家庭が学校教育よりも「生存」を優先し続けるだろう。

「シリアの子どもたちは、家族が生き残るために生活を支えるか、それとも教育を受け続けるか、というジレンマにしばしば直面する」と、子どもに焦点を当てた国際的な慈善団体である「ワールド・ビジョン」のアドボカシー・コミュニケーション・マネージャー、ハムザ・バルハメイ氏はアラブニュースに語った。

「シリア内戦は教育インフラを壊滅させ、地震は危機をさらに悪化させた。学校は修復や学用品を必要としている。これは、教育と児童労働の選択において、後者が容易に選ばれる背景になっている」

アルレズ氏は、「この世代はシリアの未来である」と語り、学童支援の重要性を強調した。

ユニセフの報告書によると、2022年、シリアでは約240万人の子どもたちが学校に通っていなかった。(AFP)

彼のチャリティのイニシアティブは、これまでに、マアラバ(Maaraba)やスベネ(Sbeneh)など、リフ・ディマシュク州の一部地域、グータ地域のザマルカ(Zamalka)、ダマスカス郊外などで、約300人の小学生のニーズを満たすことに成功している。

シリア政府は、多くの生徒とその家族が直面している苦難を認識し、支援しようとしていると述べている。SANAの報道によると、教育省は学校に対し、制服の着用に関する方針等を強制する際には寛大にするよう促している。

同省はまた、貧困にあえぐ家庭の負担を少しでも軽減するため、可能な限り特定の教育用品や教材に対する要求を削減するよう学校側に求めた。

しかし、シリアの人口の90%が貧困ライン以下で生活していることを考えると、このような些細な対策が大きな効果を上げることはないだろう。アルザハブ氏のような政府支配地域の教師でさえ、可能な限り創意工夫を行い、臨機応変な対応をしているにもかかわらず、仕事をこなすのにも苦労している。

政府の支配下にないシリアの子どもたちの状況は、ほとんど改善されていない。2月に発生した地震は、反体制派が支配する北西部地域に大きな影響を与えたが、そこではすでに内戦の影響で、子どもたちのための施設・環境は悪化していた。

国連人道問題調整事務所(OCHA)が4月に発表した報告書によると、北西部の学校少なくとも450校が地震によって「様々なレベルで」被害を受けた。また、12年以上にわたる内戦で、さらに数千校が損傷または破壊されている。内戦は、特に北西部で破壊的であった。

ユニセフによると、160万人のシリアの子どもたちが退学の危機に直面している。(AFP)

ワールド・ビジョンは現在、シリア北西部で6つの教育プロジェクトを実施している。同プロジェクトは「学校の修復、教育センター、学校の防寒対策、教師のトレーニング」に焦点を当てているとバルハメイ氏は述べた。

「これらのプロジェクトには、食料品、衛生用品、学用品、場合によっては、子どもを働きに出す必要性を減らすための現金引換券を提供する生活介入プログラムも含まれている」と彼は付け加えた。

それでも、シリア北西部の170万人以上の子どもたちが人道支援に頼っていることを考えると、教室に子どもたちを呼び戻す作業は依然として困難な戦いである。

「食糧危機、そして国連世界食糧計画(WFP)の最近の削減は、若い少年たちを労働市場に向かわせ、学校を退学させることを積極的に促している」とバルハメイ氏は語る。「これはシリアの子どもたちの将来に、壊滅的な影響を与えるだろう」

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