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ハマス、境界突破の数週間前に白昼堂々と予行演習を行い、模擬攻撃の動画を投稿していた

卒業式典で技能を披露する、ハマスに忠実なパレスチナ治安部隊の隊員ら。2022年2月21日、ガザ市。(AFP)
卒業式典で技能を披露する、ハマスに忠実なパレスチナ治安部隊の隊員ら。2022年2月21日、ガザ市。(AFP)
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13 Oct 2023 11:10:57 GMT9
13 Oct 2023 11:10:57 GMT9
  • ハマスが9月12日にソーシャルメディアに投稿した動画には、戦闘員らが10月7日の攻撃の予行演習を行う様子が映っていた
  • 攻撃の演習が白昼堂々と行われていたにもかかわらず、イスラエル国防軍は不意を突かれた

ハマス戦闘員らがイスラエルのハイテクな「鉄の壁」を突破し、1200人以上のイスラエル人を死亡させることになる攻撃を開始する1週間足らず前、ハマスは白昼堂々と予行演習を行っていた。

ハマスが9月12日にソーシャルメディアに投稿した、もっともらしく作られた2分間のプロパガンダ動画には、戦闘員らが境界ゲートのレプリカを爆発物で爆破し、ピックアップトラックに乗って侵入した後、実寸大で再現されたイスラエルの町の中を建物から建物へと移動しながら、人間の形をした紙製の標的に向けて自動小銃を発砲する様子が映っている。

ハマスによる「強い柱」作戦と称するこの実弾演習では、防護服や戦闘服を着用した戦闘員らが、分離壁のコンクリートタワーや通信アンテナの模型の破壊を含む作戦を迅速に実行している。彼らが7日の攻撃で実際に行ったようにだ。

イスラエルの高く評価されている治安・情報機関は、ガザ地区の防衛を突破したハマスの能力によって明らかに不意を突かれた。ハマスは、攻撃に向けて大規模に準備を進めていたことを平然と隠していたようだ。

元米軍将校で、現在はワシントンの研究機関「民主主義防衛財団軍事・政治力センター」でシニアディレクターを務めるブラッドリー・ボウマン氏は、「警告や兆候は明らかにあった。注意を向けるべきだった」と指摘する。「あるいは注意を向けたのかもしれないが、この恐るべきテロ行為の実行を阻止するために必要な準備を始めなかった」

AP通信は、ハマスが過去1年間に主にソーシャルメディアアプリ「テレグラム」を通して公開した数十本の動画の重要な細部を確認・検証した。

AP通信は衛星画像を使用して、演習のために再現された町の場所を、ガザ地区南部の沿岸にあるパレスチナの町アル・マワシ郊外の砂漠の一角であると特定した。ゲートには、ヘブライ語とアラビア語で「ホレシュ・ヤロン」(ヨルダン川西岸地区にある、物議を醸しているイスラエル人入植地の名前)と書かれた大きな看板がある。

ボウマン氏によると、ハマスが意図的に、自分たちがガザ地区ではなくヨルダン川西岸地区での襲撃実行に向けて準備を進めているとイスラエル当局に信じ込ませようとしていた形跡があるという。また、2020年以降毎年12月に演習が実施されていたが、今年はそれが(2005年のイスラエルのガザ撤退の記念日に合わせるように)4ヶ月近く前倒しされていたことも重大な兆候であった可能性がある。

テレグラムに投稿された、昨年12月28日の「強い柱」演習を撮影した別の動画には、イスラエルの軍事基地を再現したものと思われる場所(実寸台の戦車の模型を備えており、その砲塔にはイスラエル国旗が掲げられている)をハマス戦闘員らが襲撃する様子が映っている。武装した男たちがコンクリートブロックの建物の間を移動し、イスラエル兵に扮した他の男たちを人質として拘束している。

イスラエル軍の退役大佐で、かつてパレスチナ自治区を監督する軍情報部を率いたミハエル・ミルシュタイン氏は、自身はハマスの動画の存在を知っていたが、7日の攻撃の野心と規模には不意を突かれたと語る。

「我々は、ドローンも、仕掛け爆弾も、サイバー攻撃も、海上部隊も把握していたのだが…」

「それらが全て連携していたことが驚きだった」

イスラエルが7日の攻撃を予期・阻止できなかったことの根本原因については、少なくとも10年前まで遡ることができる。イスラエルの境界フェンスの下にトンネルを掘って繰り返し攻撃してくるハマス戦闘員に直面したベンヤミン・ネタニヤフ首相は、非常に具体的(コンクリート)な計画を提案した。より大きな壁の建設である。

米国の納税者の金による支援を受け、イスラエルは2021年、ガザ地区との40マイルの境界に沿った既存の防護壁を要塞化する11億ドルのプロジェクトの建設を完了した。アップグレードされた新しい分離壁の一部は、暗闇でも撮影できるカメラ、カミソリ鉄線、地下200フィート以上のトンネル採掘も検知できる感震センサーなどを備えた高さ最大6メートル(19.7フィート)の「スマートフェンス」となっている。有人の監視塔の代わりに、遠隔操作の機関銃を備えたコンクリートのタワーが作られた。

ネタニヤフ首相は2016年、パレスチナ人や近隣のアラブ諸国を指して、「我々の周りでは野獣から身を守る必要がある」と述べた。「私の考えでは結局のところ、このようなフェンスでイスラエル全体を囲うことになるだろう」

7日の夜明け直後、ハマスの戦闘員らはものの数分でネタニヤフ首相の壁を突破した。しかも、爆発物で壁に穴を開けてからブルドーザーで穴を広げ、戦闘員らがオートバイやピックアップトラックに乗って突破するという、比較的安上がりな手段でだ。カメラや通信機器は、手榴弾や迫撃砲を投下するよう改造された民生品ドローンで爆撃された。これはウクライナの戦場から直接借用した戦術だ。

狙撃手らはイスラエルの高度な遠隔操作銃を、その露出した弾薬箱を銃撃することで破壊した。アサルトライフルで武装した戦闘員らはパラグライダーに乗ってイスラエルの防護壁を越え、航空機を持たないハマスの空挺隊となった。ますます高度になっている自家製ロケット弾は、イスラエルの首都テルアビブを攻撃する能力を持っており、重火器の不足を補った。

AP通信が分析した衛星画像からは、ガザ地区とイスラエルの間にある強固に要塞化されたエレズ検問所が大規模な被害を受けているのが確認できた。8日に撮影され10日に分析されたこれらの画像を見ると、分離壁の3つの部分に穴が開いており、そのうち最大のものは幅70メートル(230フィート)以上ある。

壁が破られると、何百人ものハマス戦闘員がなだれ込んだ。ある動画には、1台だけで襲撃現場に急行したイスラエルの戦車が攻撃を受け即座に破壊されて炎に包まれる様子が映っている。ハマスはその後、無線塔やレーダーを無効化したため、イスラエルの司令官が攻撃の程度を見て把握する能力が妨げられた可能性が高い。

ハマス戦闘員らは近くにあるジキム近郊の基地も襲撃し、イスラエル軍と激しい銃撃戦を繰り広げた末に制圧した。ハマスが投稿した動画には、死亡したイスラエル兵数十人が横たわる生々しい光景が映っている。

彼らはその後、イスラエル南部の田園地帯の各地に散開し、キブツや音楽フェスティバルを襲撃した。侵攻中に殺害されたハマス戦闘員の死体を一部回収したイスラエル側の初期対応者らが投稿した画像によると、死体の中には、計画されていた攻撃の場所や経路を示す詳細な地図を持っていたものもあった。

イスラエル当局は11日、ハマス戦闘員の死体を約1500体回収したと発表したが、それらの発見場所や彼らの死亡状況についての詳細は明らかにしなかった。

軍事専門家らはAP通信に対し、今回の攻撃は以前のハマスには見られなかったレベルの高度さを示しており、おそらく外部からの支援があったことを示唆していると指摘する。

米軍の退役中佐で、防御の構築と突破の訓練を受けた工兵であるスティーブン・ダナー氏は、「基本的・基礎的なものを用いて壁を突破できたハマスの能力に感心した」と語る。「彼らは、弱い部分を見つけて素早く突破したうえで、その突破口を活用することができたようだ」

ベイルートを拠点とするハマス高官のアリ・バラケ氏は、ハマスが長年にわたってイランやレバノンのヒズボラを含む外国の同盟勢力から物資、資金支援、軍事専門知識、訓練などを提供されていることを認めた。しかし同氏は、イスラエルの防護壁を突破した先日の作戦は独自に計画したもので、正確な攻撃日時を知っていたのはハマス内の一握りの司令官だけだったと主張する。

作戦の詳細は極秘だったため、7日の襲撃に参加したハマス戦闘員の中には、単に新たな演習に向かうのだと思って制服ではなく普段着で現れた者もいたという。

先週末の壊滅的な奇襲攻撃は、イスラエル国内でのネタニヤフ首相に対する政治的支持を揺るがした。同首相は分離壁の建設を、おそらく役に立たないという警告を自身の内閣や軍の一部から受けていたにもかかわらず、多額の資金を投じて推進したからだ。

ハマスによる攻撃が始まってからの数日間、イスラエル高官らは壁についての、また情報部の明らかな失敗についての質問をほとんど避けた。イスラエル国防軍の首席報道官であるダニエル・ハガリ少将は、軍には国民に対する説明義務があることは認めたが、今はその時ではないと述べた。

「我々はまず戦う。調査はその後だ」

ネタニヤフ首相は分離壁建設を推進する中で、ドナルド・トランプ大統領(当時)という熱狂的なパートナーを見出した。同大統領はネタニヤフ首相の「鉄の壁」を、自身が計画していた米国南部のメキシコとの国境の壁拡張のモデルになり得るものとして称賛した。

米国はトランプ大統領のもと、オバマ政権時代に開始された、ガザ地区の分離壁沿いの地下トンネルを検知する技術を開発するためのイスラエルとの共同の取り組みを拡大した。米議会は2016年以降、このプロジェクトに3億2000万ドルを計上している。

しかし、「鉄の壁」は数々のハイテク装置を導入したにもかかわらず、依然として突破可能な単なる物理的障壁のままだったと、ロンドンのコンサルティング会社「コントロール・リスクス」のシニアアナリストであるビクター・トリコー氏は指摘する。

「どれだけセンサーがあろうと(…)地下の障害物がどれほど深くまであろうと、このフェンスは結局のところ、事実上単なる金属フェンスだ」と同氏は言う。「結局、爆発物やブルドーザーで突破できる。注目に値するのは、全ての準備を隠し通したハマスの能力だ」

AP

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