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ヨルダン川西岸がイスラエルにとっての「第3の前線」となる可能性

パレスチナの武装勢力ハマスがイスラエル南部に侵入し、奇襲攻撃を行なった後、ガザではイスラエルによる報復空爆で数千人のパレスチナ人が殺害された。(File/AFP)
パレスチナの武装勢力ハマスがイスラエル南部に侵入し、奇襲攻撃を行なった後、ガザではイスラエルによる報復空爆で数千人のパレスチナ人が殺害された。(File/AFP)
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21 Oct 2023 12:10:25 GMT9
21 Oct 2023 12:10:25 GMT9
  • 10月7日以降、ヨルダン川西岸では暴力により80人以上のパレスチナ人が殺害された
  • イスラエルは10月7日の攻撃以来、ヨルダン川西岸で900人以上を逮捕した

ラマッラー/エルサレム:イスラエルがガザ地区への空爆を開始し、レバノン国境でヒズボラと衝突して以来、ヨルダン川西岸での暴力が急増しており、発火点となっているパレスチナ領土がより広範な戦争の第3戦線となる可能性があるとの懸念が高まっている。

イスラエル軍兵士と入植者は2005年にガザから撤退したものの、イスラエルはパレスチナの飛び地であるガザで、武装勢力ハマスとの戦争を繰り広げている。1967年の中東戦争でガザとあわせて占領したヨルダン川西岸を、イスラエルは現在も占領している。

ガザを統治するハマスが10月7日、イスラエルに奇襲攻撃を仕掛けて1,400人以上を殺害したことを受けて、イスラエルは砲撃を開始し、ガザで3,500人が殺害された。イスラエルはハマス殲滅のため、ガザへの本格的な地上攻撃を準備している。

イスラエルを支援する西側諸国は、イランが支援するヒズボラを擁するレバノンを第二戦線とし、イスラエルのメディアが第三戦線と呼ぶヨルダン川西岸を潜在的な戦場とする、より広範な戦争を危惧している。

イスラエル軍兵士および入植者と、パレスチナ人の衝突はすでに致命的なものとなっている。10月7日以来、ヨルダン川西岸では暴力により80人以上のパレスチナ人が殺害され、イスラエルは900人以上を逮捕した。イスラエルは金曜日、夜間と未明に新たな襲撃を実施し、さらに多数を拘束した。

イスラエル軍は木曜日にヨルダン川西岸のパレスチナ難民キャンプを空爆し、少なくとも12人が死亡したとパレスチナ当局が発表した。イスラエル警察は襲撃中に警察官1人が死亡したと発表した。

この暴力は、イスラエルと、そこに本部を置く国際的に承認された唯一のパレスチナ統治機関であるパレスチナ自治政府(PA)の双方に難題を突きつけている。

イスラエル軍は、厳戒態勢を敷き、ヨルダン川西岸での武装勢力ハマスによる攻撃に備えていると述べた。

ハマスは、レバノン国境とヨルダン川西岸を含む「二面あるいは三面からの戦争にイスラエルを巻き込もうとしている。脅威は高まっている」と、軍の報道官であるJonathan Conricus中佐はロイター通信に述べた。

「人々に武器を与えよ。衝突させろ」

ラマッラーでは今週、パレスチナ自治政府(PA)の与党ファタハが、ライバルであるハマスの軍事部門を支持するという珍しい唱和が起こり、武力抵抗への意欲の高まりを示した。

「人々に武器を与えよ。衝突させろ。私たちができることを見せてやる」と、20歳のデモ参加者、サラー氏はファーストネームのみを明かして述べた。

ファタハ幹部のMowafaq Sehweel氏は「私たちは手綱を手放し、占領と戦うためにどんな手段でも使うべきだ」とロイター通信に語った。

戦う準備ができていない人もいる。

建築事務所を経営するNizar Mughrabi氏は、イスラエルのガザ攻撃には憤っているが、銃を手にする準備はできていないと語った。

同氏は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とハマスの指導者イスマーイール・ハニーヤ氏について言及し、「ネタニヤフ首相は戦いたがっているし、ハニーヤ氏も戦いたがっている。彼らに銃を持たせて砂漠に連れて行き、撃ち合いをさせればいい」と語った。

パレスチナ当局者とイスラエルのアナリストによれば、いくつかの要因が緊張の火種となっているが、逆に言えば、今のところその範囲は限定されている。

ひとつは、イスラエルが行った数百人の逮捕だ。

ハマスが10月7日に攻撃した理由のひとつに、ヨルダン川西岸のパレスチナ人に対する今年の攻撃と逮捕を挙げている。

しかし、逮捕によってヨルダン川西岸での暴力も抑えられていると、52歳の入植反対活動家Salah Al-Khawaja氏は言う。

「ガザでは、(ハマスが)軍事組織化する十分な時間がある。ここでは、占領軍(イスラエル)が毎日のように取り締まりを行うことができる。これでは軍事力や政治力を構築する余地は残らない」と同氏は述べた。

複雑に入り組んだヨルダン川西岸

包囲されたガザはハマスが厳重に管理している一方、ヨルダン川西岸は、丘陵の中腹にある都市、イスラエル人入植地、軍の検問所などが複雑に入り組んでおり、パレスチナ人コミュニティを分断している。

イスラエルは1967年にこの地域を占領し、広大な支配地域、パレスチナ人が完全に支配する小さな地域、パレスチナ人とイスラエル軍が民事と治安の任務を分担する地域に分割した。

権力の中枢のあるラマッラーと、貧困にあえぐ周辺地域との間には、暴力による利点に関しての複数の見解が存在する。

難民キャンプにいる絶望した若者たちは、暴力の悪循環による損失を恐れるラマッラーの実業家やパレスチナ高官たちに比べて、戦う意欲が高い。

「騒動のせいで、ビジネスはすでに苦境に立たされている」とMughrabi氏は言う。 

暴力を食い止めているもう一つの重要な要因は、87歳のマフムード・アッバース大統領が率いるパレスチナ自治政府(PA)とイスラエルが安全保障協定を結んでいることだ。

アッバース大統領はイスラエルのガザ攻撃を非難する一方で、治安部隊によりデモを取り締まった。ファタハは武力抵抗を公式には呼びかけていない。

「パレスチナ自治政府は平和を維持したいと考えており、数千人のデモ行進がすぐに数十万人に膨れ上がることを心配している」とパレスチナの政治アナリスト、Hani Al-Masri氏は言う。

パレスチナ自治政府の幹部は財政的に余裕があり、報酬を得るためにイスラエルとの取り決めに依存していると同氏は付け加えた。

アッバース大統領が権力を失ったり、老齢により病気になったりすれば、状況が悪化する可能性がある、と氏は述べた。

「単独犯」

イスラエルの国内保障庁であるシンベト(イスラエル総保安庁)の元幹部リオル・アケルマン氏は、ヨルダン川西岸の動乱に対する懸念はハマスとの戦争以前からあったと述べた。

ハマスは何年もの間、「ヨルダン川西岸でテロリストを活性化させるためにできることはすべてやろうとしていた」と同氏は言う。

しかし、アケルマン氏は、ガザへの砲撃が始まって以来、治安対策が強化されてきたことを認め、最近の逮捕劇は通常の状況下では起こらなかったかもしれないと述べた。

「昨夜、軍は(…)ヨルダン川西岸で約100人のテロリストを逮捕した。通常であれば(…) シンベトは、テロ攻撃の準備をしていると判明している者だけを逮捕するはずだ」と同氏は語った。

ヨルダン川西岸でイスラエルが抱く懸念の一つは、地元への忠誠心には個人差があるものの、全体的にはイスラエルの占領を軽蔑しているパレスチナ人の間から出現する「単独犯」による攻撃だとアナリストは言う。

最近の調査によれば、パレスチナ人の間では、武装集団が圧倒的に支持されており、これには伝統的に別々の派閥に属していたメンバーで構成される地元の武装勢力も含まれる。

今回のガザ危機以前から、ヨルダン川西岸では暴力が急増していた。

イスラエルは軍事空襲を強化し、イスラエル人を標的としたパレスチナ人の攻撃も相次いだ。国連の記録によれば、10月7日までの2023年のパレスチナ人の死者数は220人を超え、イスラエルでは少なくとも29人が殺害された。

ロイター

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