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ムスタファ・アル・カディミ首相暗殺未遂事件で親イラン派が持つイラクへの破壊的影響が明らかに

親シーア派民兵組織のデモ隊がグリーンゾーンにある米軍施設を攻撃した2019年に隣国イランの影響が感じられた。(AFP)
親シーア派民兵組織のデモ隊がグリーンゾーンにある米軍施設を攻撃した2019年に隣国イランの影響が感じられた。(AFP)
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14 Nov 2021 05:11:04 GMT9
14 Nov 2021 05:11:04 GMT9
 
  • イラクの親イラン派は10月の総選挙で大敗し、アル・カディミ首相による不正があったと訴えていた
  • 11月7日に首相の住居で起きた無人機による攻撃は親イラン派による警告である、と多くの専門家は分析している

ポール・イッドン

エルビル、イラク・クルディスタン地域:11月7日未明、爆弾が搭載されたクアッドコプター型無人機3機がイラクのムスタファ・アル・カディミ首相の官邸敷地内で爆発し、警備担当者7名が負傷した。

軽傷で難を逃れたアル・カディミ首相は即座に平静を求める声明を発表していたが、攻撃を企図したのが誰であるのかという疑問に対する答えは出ておらず、さまざまな憶測を呼んでいる。

関与が疑われる候補の筆頭は、イラクにおいて強大なネットワークを築くイランを後ろ盾とする民兵組織ハシュド・アル・シャアビ(別名=民衆動員部隊)と関連する戦闘員らだ。

ダーイシュとの戦いの最中に設立された同組織は以来イラク国内において第五列とも言える存在へと変異しており、公には国家の治安機関に吸収されたが、大方独自の指揮系統を維持したまま活動している。

これら民兵はここ数ヶ月の間に無人機を使った同様の攻撃を行っており、米軍の撤兵を目的としてイラク国内や半自治状況下のクルディスタン地域に駐屯する米軍兵士が標的となっていた。

アル・カディミ首相の暗殺未遂事件に事実ハシュド・アル・シャアビが関与していたのであれば、次の疑問が持ち上がる。それは、イランは攻撃を指示したのか、だ。

中東アナリストとして独自に活動するカイル・オートン氏は、アル・カディミ氏の住居攻撃に関与した者・集団が誰なのか数ある親イラン民兵組織に否定する余地を与えるために、攻撃はもともと特定されないよう計画された、と考えている。

「イランの民兵組織ネットワークは、特にここ数年のイラクにおいて政治的に繊細で敏感な攻撃への関与を認めさせるために様々な配下組織へと意図的に枝分かれされている」とオートン氏はアラブニュースに対して語った。

「ソーシャルメディア上以外でこれらの集団が実在するのかははっきりとしないが、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)の指導下にある民兵組織の配下集団である可能性も否定できない」という。

IRGCおよびその国外担当組織ゴドス軍はイラクの代理民兵組織やその人員、それらの訓練、組織の資金繰り、および爆弾搭載型無人機を含む武器調達をその強い管理下に置いており、アーヤトッラー・アリー・ハメネイ最高指導者に対する絶対的な忠誠を求めている。

今回のような大胆な攻撃は「イラン政府が求めないかぎり実行されない。繰り返すが、どのようにして事件が発生したか、IRGCゴドス軍のエスマイル・カーニ司令官の指示によるものか、それとも民兵組織が計画したことに対してカーニ司令官が拒否権を発動しなかったものなのか。その答えを知る時はおそらく訪れないだろう」とオートン氏は述べた。



首相の住居に対する無人機攻撃の跡を捜査する治安部隊。(AFP)

また、民兵組織が実際にアル・カディミ首相の暗殺を意図していたのか、それとも単に脅迫しメッセージを送ろうとしていたのか、という疑問も残る。

2020年5月には民兵がバグダッドにある警備が厳重なグリーンゾーン内のアル・カディミ首相の住居を取り囲んだが、その目的は首相に対して圧力をかけることだったとみられている。その背景にはおそらくアル・カディミ首相が就任以来イラクの政府機関の権限強化や民兵組織の弱体化、そして本当の意味でのイラクの主権回復に積極的だったことがある。

だがオートン氏は、11月7日に起きた事件の真犯人がアル・カディミ首相の殺害を狙っていたことはほぼ間違いない、とみている。「この事件は暗殺未遂ではなくアル・カディミ首相に対する警告だったとする分析が多数あるが、私にはそれにしては賢すぎるように感じる」とオートン氏はアラブニュースに語った。



アル・カディミ首相の暗殺未遂に事実ハシュド・アル・シャアビが関与していたのであれば、イランは攻撃を指示したのか、という疑問が持ち上がる。

「アル・カディミ首相は攻撃によって負傷しており、実行役のIRGC工作員が護衛官7人を負傷させ首相に軽傷を負わせたにもかかわらず誰も殺害しない、ということをすべて計算して実行したとはとても信じ難い」という。

攻撃のタイミングもまた偶然とは思われないものだ。イラクでは2019年10月に始まった汚職の蔓延、失業者の増加、イランの影響力拡大に対する草の根の抗議運動の主要な要求であった総選挙が10月に実施されていた。

イランの大使館・領事館・関連施設など全国で数カ所が同国を外国の占領者と見る傾向が強まるイラク人の若者の抗議活動によって放火された。親イラン民兵組織は数百人にのぼるデモ参加者を殺害することで応酬した。

にもかかわらず抗議活動は当時のアデル・アブドル・マフディ首相を退陣に追い込むことに成功し、総選挙実施への道筋をつけていた。だが10月10日に行われた投票は投票率41%と過去最低を記録していた。



IRGCおよびその国外担当組織ゴドス軍はイラクの代理民兵組織を強い管理下に置いている。(AFP)

親イラン派の政党は戦挙結果が振るわなかった。ファタハ連合が獲得した議席数はたったの17であり、2018年の選挙で獲得した48議席から大きく後退した。一方でアル・サドル氏が率いる「改革への同盟(Sayirun)」は議席数を増やし全329議席中73議席を獲得した。

アル・サドル氏とその支持者がイラクにおける外国の影響力を少なくすることを求めていることを考えると、この結果はイランの地域戦略にとって痛手となるものだ。選挙に不正があったと主張する民兵組織の支持者は大挙して押し寄せ手作業での開票を要求した。

親イラン民兵組織アサイブ・アフル・ハックの指導者カイス・アル・カザリ氏は首相官邸が無人機で攻撃された前夜に行われた選挙結果に対する抗議集会に参加し、アル・カディミ首相が「詐欺的」な選挙結果を導き出すことを指揮したと訴えていた。

「事件のタイミングは選挙後の情勢と関連していることは間違いない。政府高官数名が殺害されるなどアル・カディミ首相に近い人々に対する攻撃は数ヶ月前に始まっていたが、その頃は首相が選挙を前にして民兵組織に対抗する連立政党を築きつつあることを民兵組織が認識した時期である。」とオートン氏は述べた。

アル・カディミ首相はイラクの国家権威をより強固にするという方針を変更しない、とオートン氏は考えている。「抗議集会参加者に対する攻撃に関する罪状か汚職罪であるかにかかわらず、首相は法的手段を用いて民兵組織を制御するという方針を継続するだろう」と同氏は述べた。

だが11月7日の攻撃が示すように、アル・カディミ首相に成功が約束されているわけはない。「イラクにおいてイランが真に脅威を感じた場合、国会における不信任案提出以外にもイラクの首相を交代させる手段をイランは持っている」とオートン氏は語る。

実行犯がアル・カディミ首相の殺害を意図していた、あるいはそのメッセージが首相に対してのみ向けられたものだ、と考える人ばかりではない。

「カタイブ・ヒズボラならびにアサイブ・アフル・ハックと関連を持つ特定の親イラン民兵組織がアル・カディミ首相に対して手を引くようメッセージを発したのだ」とアラブニュースに対して語るのは「人間の安全保障ユニットにおける国家の耐性と脆弱性のためのニュースライン研究所(State Resilience and Fragility in the Human Security Unit at the Newlines Institute)の上級アナリスト兼所長ニコラス・ヘラス氏だ。

「だがそれはまた、もし彼らがイラクの政治権益から締め出されるようであれば暴力に訴えることもできる、というより広くアル・サドル氏に対して向けた警告でもある」という。

アル・サドル氏は、民兵組織が武装解除し武器を国の治安機関に引き渡すことを重ねて要求し、イラクの国家主義者としての立ち位置を盤石にしている。

「今回の攻撃はおそらくイランも事前に知っており、イランはおそらく思いとどまらせようとしただろうが、それでも攻撃は実行されたのだ」とヘラス氏は述べる。



アル・カディミ首相は就任以来イラクの政府機関の権限強化や民兵組織の弱体化を訴え続けている

残る疑問は、アル・カディミ首相が事件にどう対応すべきか、だ。「アル・カディミ首相の次の一手は危険が伴うものだ。状況を悪化させ、民兵組織と真っ向から敵対すればイラクのシーア派社会内部での内戦を引き起こす恐れもある」とヘラス氏は論じる。

「ただここで首相が折れて対応を怠れば、こうした行為に対する暗黙の受容という悪しき前例を作ることになり、それがこの先何年もイラクにおける規範として確立されてしまうのだ」

「よってアル・カディミ首相は警察機関を使い逮捕・裁判といった手順を選択する可能性が最も高い」

Twitter: @pauliddon

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