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海上国境を巡る紛争の解決は、レバノンによるイスラエルの間接的な承認を意味するか。

2022年5月25日、レバノン・イスラエル国境にある、かつてイスラエルによって運営されていたキアム(Khiyam)刑務所跡で見られる、ヒズボラ指導者のハッサン・ナスラッラー氏のポスター(AFP=時事)
2022年5月25日、レバノン・イスラエル国境にある、かつてイスラエルによって運営されていたキアム(Khiyam)刑務所跡で見られる、ヒズボラ指導者のハッサン・ナスラッラー氏のポスター(AFP=時事)
ヒズボラは、明確な期限までにレバノンにとって受け入れ可能な取引が成立しなければ、イスラエルを攻撃すると脅している。(AFP=時事)
ヒズボラは、明確な期限までにレバノンにとって受け入れ可能な取引が成立しなければ、イスラエルを攻撃すると脅している。(AFP=時事)
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03 Sep 2022 06:09:20 GMT9
03 Sep 2022 06:09:20 GMT9
  • ヒズボラは、彼らの指導者が「シオニストの敵」との会談を禁じているにもかかわらず、米国の仲介による交渉プロセスに加わっている
  • ナスラッラー氏の大袈裟な言い回しと現実とのギャップが、盛んに吹聴されている「抵抗」への取り組みに疑問を投げかける

アラブニュース

ドバイ:ホワイトハウスがアル・アラビーヤに語ったところによると、レバノンとイスラエルの海上国境問題の解決に向けた間接的な交渉に進展が見られるという。しかし、レバノン政府を支配するイランの支援を受けた民兵組織ヒズボラにとって、この進展は多くの問題を引き起こし、彼らを深く窮地に陥れるものである。

1948年以来事実上戦争状態にあり、国交もないレバノンとイスラエルは、天然ガスが豊富に埋蔵されていると考えられる地中海の860平方キロメートルの地域をめぐって対立している。両者は、ガスが豊富な海域を自国の排他的経済水域にあると主張し、2020年10月から断続的に交渉を行っている。

ジョー・バイデン米大統領府は、両国の間にS字型の海上経済国境を設けるという妥協案を提示している。米国のエネルギー安全保障担当上級顧問であるアモス・ホフスタイン氏は、6月にアル・フーラTVに対し、レバノン当局が提示した提案により、「交渉を進めることができるだろう」と述べた。

ここ数カ月、ホフスタイン氏はこの国境取引に関する大統領特別調整官として、ベイルートとテルアビブを何度も訪れている。

「我々は双方の溝を狭め続け、永続的な妥協が可能であると信じている」と、ホワイトハウスのとある高官が今週アル・アラビーヤに語った。同高官は、両当事者の「協議の精神」と呼ばれるものを賞賛した。

この発言は、レバノン政府高官とその同盟組織であるヒズボラからの分かりにくい合図を背景になされた。レバノンのミシェル・アウン大統領と自由愛国運動(FPM)は、2006年以来ヒズボラとの戦略的同盟関係を維持し、彼らのお陰で、公共機関や行政機関を政府支持者で固めることができている。

2022年6月14日、ベイルート東部のバーブーダで、米国特使のアモス・ホフスタイン氏(中央)、ドロシー・シー米国大使と会談するレバノンのミシェル・アウン大統領(右)(ダラティ・アンド・ノーラ、写真提供:AFP通信社)

レバノンのキリスト教とシーア派の主要政党間の理解は、ヒズボラ議長のハッサン・ナスラッラー氏がレバノンの伝統的なアラブの同盟国に対して戦争的な表現と激しい批判を浴びせたことによって、時に試されることがあった。しかし、イスラエルとの交渉が進むにつれ、ヒズボラが盛んに吹聴している「抵抗」への取り組みや、その政治力、さらにはその関連性さえも疑問視されるようになってきた。

「ヒズボラは、敵対する者をシオニストや帝国主義の手先だと非難している。だから、それが間違っていることを証明する機会なら何でも歓迎する」と、レバノンの経済学者で政治評論家のナディム・シェハディ氏はアラブニュースに語った。「とはいえ、これはヒズボラの存在がレバノンの交渉の立場を強化する可能性がある、稀な例の1つである」

ヒズボラは、明確な期限までにレバノンが納得する取引が成立しなければ、イスラエルを攻撃すると脅してきた。7月上旬には、イスラエルが採掘場を持つカリシュ・ガス田に向けて無人偵察機を2回飛ばし、うち3機をイスラエル軍に撃墜された。

無人偵察機は非武装だったが、それはヒズボラが海上施設を攻撃できることを示し、米国が仲介するイスラエルとの交渉を有利に進めた。ここ数カ月、イスラエルもまた、ヒズボラがレバノン・イスラエル国境沿いに駐留する国連平和維持軍の職務遂行を妨げていると繰り返し非難してきた。

レバノン南部の国境の町ナクラで、イスラエルとレバノンの海上国境を画定する国際連合レバノン暫定駐留軍(UNIFIL)とレバノン軍の車両が警備に当たっている。(AFPファイル写真)

しかし、ヒズボラは内心では、レバノンが人口の4分の3以上を貧困に陥れた深刻な経済危機を経験している今、再び紛争が起こることを避けたいと考えていると言われている。16年前にイスラエルと戦った最後の戦争では、1200人近くのレバノン人(ほとんどが民間人)が死亡し、国土の大部分を荒廃へと追いやった。

「確かに、ヒズボラはいつでも交渉を妨害することができ、交渉プロセスを人質にしている」とシェハディ氏はアラブニュースに語った。「イスラエルのガス施設を撮影するためにドローンを送り込むという演出は、その手法に沿ったものである」

最近、その派手な振る舞いによって大きく報じられたレバノン政府の高官は、エネルギー省のワリード・ファヤド大臣と社会省のヘクトル・ハジャル大臣で、それはイスラエル領土に向かって石を投げるという行為であった。

この2人はアウン大統領のFPMに所属しており、国境地帯を視察していた8人のレバノン人閣僚のグループの一員であった。アル・ジャディードTVが放送して話題になったこの映像では、ファヤド大臣とハジャル大臣が互いに石投げの腕前をからかい合っているのが聞こえたという。

2022年8月30日、イスラエルとの南部国境を視察中のレバノンのヘクトル・ハジャル社会大臣(右)が石を投げ、それをワリード・ファヤドエネルギー大臣(左)が見ているところ。(AFP=時事)

動画の中でハジャル大臣に「頭をぶつけないようにどいてくれ」と言うファヤド大臣は、イスラエルとの国境問題でホフスタイン氏と協議する際、レバノン政府の対話者として頻繁に登場する人物である。ベイルートにあるカーネギー中東センターの上席エディターであるマイケル・ヤング氏は、この2人の大臣の行動は、アウン大統領の後継者を探すための次期大統領選挙と何らかの関係があるのではないかと推測している。

そのように計画されていたかどうかはわからないが、『イスラエルに対する抵抗勢力』を支持していることを示す効果はあった」と、彼はアラブニュースに語った。

シェハディ氏もこれに同意し、「閣僚を含め、誰もが一緒になって遊んでいる」と述べ、次のように付け加えた。「国境を訪れた独立派の新議員たちは、そこで(レバノン民族舞踊の)ダブケを踊った。すべてはレバノン内部の微妙な政治対話の一環なのだ」

シェハディ氏にとって、国境での光景は、2000年5月にイスラエルがレバノン南部から撤退した直後、レバノンの政治家が「抵抗勢力による解放」の演出に参加した時期を彷彿とさせるものであった。

2000年6月2日、レバノン南部の国境の町クファル・キラのファティマ門で、イスラエル軍撤退を祝って踊るレバノンの高校生たち。(AFP=時事)

「その撤退の経緯はよく知られていた。イスラエルのバラック首相は1999年7月に国際国境までの撤退を約束しており、その公約が実現したのだ」と、シェハディ氏はアラブニュースに語った。「撤退はイスラエルとヒズボラの間で、スウェーデンの仲介者2人の助けを借りて調整された」

今回、レバノンのアナリストらは、レバノン・イスラエル交渉の文脈におけるナスラッラー氏の大袈裟な言い回しと行動の間に明らかなギャップがあることから、その政治的影響を注視している。

1979年のイスラム革命以来、テヘラン政権とそのシーア派の代理人は、アラブ世界での道徳的地位を高めるためにパレスチナの抵抗を利用しようとする方式に依存してきた。彼らは近隣諸国に介入し、「エルサレムへの道はカルバラーを通る」といった巧妙なスローガンを掲げて、パレスチナ解放のために必要であるとこれを正当化してきた。

同じ脚本の一部として、ヒズボラは常に、何よりもまずパレスチナの大義のために戦う汎イスラーム勢力として自らを位置付けようとし、アラブ人が聖地を放棄したと非難しながら「シオニストの占領」からエルサレムを解放することを決意してきた。

2022年5月25日、レバノン南部の町ファール・キラにて、殺害されたイランの「コッズ部隊」司令官カセム・ソレイマニ氏を描いた落書きと、イスラエルとレバノンの国境付近でデモを行うヒズボラ(黄)とアマル(緑)の支持者たち。(AFP=時事)

1998年のベイルート郊外での演説で、ナスラッラー氏は1981年にエジプトのアンワル・サダト大統領を殺害した例を引き合いに出して、イスラエルと平和条約を結んだパレスチナの指導者ヤーセル・アラファート氏の暗殺を要求したと伝えられている。「ハリド・イスランブリ氏のように、アラファートがこの地球上に存在することはパレスチナ人とイスラム教徒にとって恥であると言えるパレスチナ人はいないのか」と、ナスラッラー氏は怒鳴った。

最近では2020年8月に、イスラエルとUAEの国交正常化協定の調印に対し、彼は次のように猛烈に非難していた。「これはイスラムとアラブ文化への裏切りであり、エルサレムやパレスチナ人への裏切りだ」と、2006年のヒズボラによるイスラエルとの紛争終結記念日を祝う演説で述べたのである。

2022年9月まで話を進めると、カーネギー中東センターのエディターであるマイケル・ヤング氏が言うように、「今日のヒズボラは、イスラエルと間接交渉を行っている」のだ。

2022年5月9日、南部の都市ナバティエで、ヒズボラ指導者のハッサン・ナスラッラー氏の演説を聴く集会に参加する、レバノンのイランに支援されたシーア派組織ヒズボラの支持者たち。(AFP=時事)

「ハッサン・ナスラッラー氏の要求の吊り上げは、ある程度、イスラエルと間接的に交渉していないことを示すためで、海洋ガス共有に関する契約と思われるものにサインしている。しかし、彼らがイスラエルと間接的に交渉していることを疑う者はいない」と、彼はアラブニュースに語った。

「同時に、ヒズボラは国内の支持者に依然として反イスラエルであることを示す必要があり、それゆえ、レバノンのガスの権利が尊重されなければ、イスラエルへの脅迫と批判がエスカレートする」

しかし、もし取引が実現すれば、遅かれ早かれヒズボラは「抵抗勢力」を無力化し、イスラエルはレバノンとの約束をすべて遵守したと言って、自らの手を縛ることになるのだろうか。「ヒズボラの見方はもっと広い」と、ヤング氏は言う。「敵がいる限り、抵抗は続けなければならない。これはレバノン政府の公式見解ではないが、ヒズボラのすべての声明に含意されている」

2022年6月6日、イスラエルとレバノンの国境にあるロシュ・ハニクラ(Ras al-Naqura)の海岸沿いをパトロールするイスラエル海軍の艦船。(AFP=時事)

ヤング氏は、現段階ではヒズボラは海と陸の国境全体を交渉することを望んでいないと考えている。「今の焦点は海上国境にある。争われている国境、シェバア農場を扱う交渉に意欲があるとは思えない」と、彼は1967年以来イスラエルに占領されている小さな土地について言及しながらアラブニュースに語った。

「(しかし)国連は2000年にイスラエルが撤退したことで占領が終了したと言っている。シェバア農場に関するレバノン側の立場は、イスラエル側や国連と同じではない」

海洋問題をめぐる交渉については、メディアの報道が何らかの参考になるとすれば、バイデン政権はレバノン、イスラエル双方に圧力をかけており、進展の兆しが見られるとヤング氏は言う。

「合意の可能性を除外することはできないと思う」と、彼はアラブニュースに語った。「全陣営が1つのことに関心を持っていると思うし、我々は合意の可能性へと動いている」

アル・アラビーヤの取材に応じたホワイトハウス関係者によると、ホフスタイン氏はイスラエルとレバノンの両政府高官と毎日連絡を取り合っているという。

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