• スクリーニングの向上により、乳がん診断数は17年間で5倍に増加した
• 乳がん検出における人工知能を用いたブレイクスルーにより、乳がんケアがさらに向上する可能性がある

ラワン・ラドワン

ジェッダ：乳がんの早期発見や治療における技術の進歩は、サウジアラビアの女性の生存・回復の確率や生活の質を劇的に向上させつつある。医療専門家が指摘した。

乳がんは世界中の医療制度が直面する最大の課題の一つである。研究によると、現在生まれる女の子が一生のうちに乳がんに罹患する確率は8分の1とされている。

世界保健機関によると、2020年の乳がんの新規患者数は230万人、死亡者数は68万5000人である。また、2020年末時点で過去5年間に乳がんと診断された人は780万人に上り、乳がんが世界で最も患者数の多いがんとなっている。

過去30年間、乳がん診断数は増え続けている。これは主に、スクリーニング使用の増加、早期発見、セルフチェックと報告に対する全体的な人々の意識向上によるものだ。

乳がんはサウジアラビアの40歳以上の女性の間で最も一般的ながんである。しかし、乳がんと診断された時点でがんが後期まで進行している患者の割合は、欧米諸国が20％であるのに対し、サウジアラビアでは50％以上に上っており、そのため死亡率もサウジアラビアの方が高くなっている。

乳がんはほとんどの症例において、初期には明確な症状が現れない。通常、症状が現れ始めるのは腫瘍が成長し始めてからだ。しかし、早期に発見された場合、平均回復率は96%にも上る。

診断の遅れには複数の要因が関連している。年齢、セルフチェックや症状に対する意識の低さ、社会的タブー、スティグマへの恐れ、公衆衛生キャンペーンの効果などだ。

「Global Journal on Quality and Safety in Healthcare」に最近掲載された論文「サウジアラビアにおける乳がんの病期移行：スクリーニングの影響の調査（Breast cancer stage migration in Saudi Arabia: Examining the influence of screening）」によると、サウジアラビアでは2017年の1月～12月に2463人が乳がんと診断された。

この論文によると、サウジアラビアで報告された全てのがん症例の17.7%が乳がんで、全年齢の女性のがん症例の30.9%が乳がんとなっている。

しかしこの論文では、17年間で乳がん診断数が5倍に増加したことも示されている。サウジアラビアにおける乳がんに対する意識やスクリーニングプログラムの向上が原因であると考えられるという。

ジェッダのキング・ファイサル専門病院・研究センターで乳腺腫瘍コンサルタントを務めるティモール・アル・アルシー医師はアラブニュースに次のように語る。「サウジアラビアでは2012年に全国スクリーニングプログラムが始まりました。これは40歳以上の女性を対象としたもので、欧米諸国と比較すると10歳若いです」

「サウジアラビアにおいて早期発見が増えていることの原因そのものは分かりませんが、公衆衛生啓発キャンペーンによって社会の乳がんに対する認識や理解が大きく変わったことは確かです。しかしまだ先は長く、意識を高めるための努力が毎年行われていますが、それもまだ十分ではありません」

乳がんの家族歴がある女性を中心に、定期的にマンモグラムを受ける女性が増えているとアル・アルシー医師は指摘する。

「乳がんに関しては、発見の遅れがもたらす影響がよく知られています。また、今はより安心して診断結果を聞くことができます。というのは、誰にでもあてはまるアプローチはないということが最新医療では分かっているためです」

「今は治療計画をパーソナライズする手段があるということです。とにかく、全てはマンモグラムを受けることがスタートです」

マンモグラフィーは乳がんケアにおける最も偉大な技術革新の一つだ。乳がん死亡率を減少させることが示されている唯一のスクリーニング技術であり、乳がん発見にとって不可欠なツールとなっている。

現在、乳がん発見・診断・治療における新技術、特に人工知能（AI）の助けを借りたブレイクスルーにより、ケアがさらに向上しつつある。

サウジ・データAI庁（SDAIA）は2年ほど前から乳がんスクリーニングプロセスへにAIを組み込むことを検討し始め、マンモグラフィー画像を分析し異常を検知できるAIシステム・ソリューションを開発した。

SDAIAはサウジ保健省（MOH）と協力して、今年9月にリヤドで行われたグローバルAIにサミットにおいてこのAIシステムの第一段階を公開した。

このシステムはルーティンのマンモグラフィー検査を高い感度でトリアージすることができ、悪性の腫瘍を積極的に検出することで放射線科医や腫瘍医を支援する。

SDAIAは70％が女性である全国チームを編成し、専門家と協力して結果を検証するとともに、このAIシステムをあらゆるシステムに統合可能かつ迅速な導入が可能なものにしようとしている。

SDAIAはアラブニュースにこう説明する。「第一段階では、このAIシステムは2つの協力組織でのみ使用されています。MOH傘下の『乳がん発見のための全国プログラム』と、『セハ・バーチャル病院』です」

「私たちはこのシステムを全国規模で使用できるものにすることを目指しています。そのためには、地域のパートナーと協力して、スケールアップとさらなる発展のための機能強化を行うことが必要です。現在、システムはスクリーニング段階で機能しています。国内の400万人の女性（40歳以上）を対象にスクリーニングを行うという全国的な取り組みを支援するために、さらなる機能を追加すべく作業しているところです」

サウジアラビアの「乳がん発見のための全国プログラム」などの集団ベースの乳がんスクリーニングプログラムを通して得られたマンモグラム画像は、放射線科医の負担を大きく軽減する。

医療提供者は通常、がん症例について複数人で話し合い、情報を評価して個々の患者のための診断、最適な治療、ケア計画を決定する。このプロセスには数週間かかることもある。

「80：20の割合です。80％の症例は除外され、最終的に残りの20％に医師は集中します」とSDAIAは言う。

AIモデルシステムが導入されればスクリーニング時間は劇的に短縮される。また、開発者によりさらなる機能強化や発展が提供されれば、システムに機能が追加されてさらなる技術革新が起こる可能性もある。

「専門家と協力してアルゴリズムを訓練しています。例えば、病理学的に実証されているがんを、人間の行動や慣行を真似ることで検知するように訓練するのです。スクリーニングデータ、診断データ、研究データなどを使ってシステムを訓練しています。場合によってはAIの精度は放射線科医の精度を上回るはずです」

スクリーニングの有効性に関する一般的な懸念は組織密度だ。組織密度が高い女性は乳がんと誤診されるリスクが高くなるため、放射線科医がマンモグラムからがんを診断するのが難しくなるのだ。

医学誌「European Radiology」に2020年に掲載された論文は、診断画像が利用可能な過去のスクリーニングマンモグラムをレビューしたうえで、スクリーニングで検出されたがんの22％が見逃されていると結論している。

「乳腺密度が高いと、放射線科医にとってスクリーニング検査が少し難しくなります。特に50歳以下の女性の場合はそうです。再検査のために再び来てもらうこともあります」とアル・アルシー医師は言う。「現在のスクリーニングが10年前と違う点は、進歩した技術がデジタルマンモグラムを解釈できるようになったことです」

「また、激しい副作用が少ない個別の治療計画が開発されたことも進歩です。例えば、乳がん細胞の増殖を阻害する標的治療や、乳がん患者の審美的満足度と腫瘍学的安全性を両立させる保存的乳房切除術のような手術における新しい治療アプローチなどです。現代医学のおかげで他にも多くの進歩があります」

先端技術は検知以外の部分でも乳がんケアを劇的に向上させつつある。標的治療が拡大したことで患者にとっての治療の選択肢が増えた。また、免疫療法からワクチンにまでおよぶ新たな研究領域や再発防止が探究されている。

「私たちのビジョンは明確です。命を救いたいのです」とアル・アルシー医師は言う。「早期に確定診断を受けられれば、患者は自宅にいながら最善の治療を見つけることができます。愛する人たち、そして非常に協力的なエコシステムに囲まれながらです」

「診断が早ければ、がんに打ち勝つ確率も高くなります。現代の技術の進歩によって、成功率はさらに高くなるでしょう」