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この戦争による損失はガザだけのものではなくなる

2023年11月8日、一時的な避難所で休憩しているガザ地区の労働者たち。ハマスによる10月7日の攻撃前に仕事のためイスラエルに渡っていた彼らは、イスラエルから追放された後、占領下のヨルダン川西岸地区の都市ラマッラーにあるスポーツ複合施設へ避難した。(AFP)
2023年11月8日、一時的な避難所で休憩しているガザ地区の労働者たち。ハマスによる10月7日の攻撃前に仕事のためイスラエルに渡っていた彼らは、イスラエルから追放された後、占領下のヨルダン川西岸地区の都市ラマッラーにあるスポーツ複合施設へ避難した。(AFP)
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09 Nov 2023 05:11:51 GMT9
09 Nov 2023 05:11:51 GMT9

10月7日、ゾッとするような民間人の犠牲と激しい対立が始まった。それについての政治的背景を理解せずには、理解することも、今後の犠牲を防ぐこともできない。その日の出来事は何の脈絡もなく起こったのではない、というアントニオ・グテーレス国連事務総長のコメントは正しい。

死者数が1万人を超えた今、私たちがガザで目にしているのは、イスラエルがあらゆる問題の解決法として使い古された安全保障の論理に頼っている姿である。しかし、このやり方がうまくいったことはなく、今後も成功することはない。なぜかといえば、その手法が、何十年にもわたる占領という政治的背景を無視しているからに他ならない。ハマスを突き動かすのは、占領に対する武力抵抗を宗教的信念に結びつけた思想である。それが、この戦争の終結時(軍事的結果には関係なく)には強化され、より多くの大衆の支持を得ているだろう。ハマスは、抑圧が増大し、二国家解決の約束が反故になるという状況の中で存在感を増した。 

しかし、東エルサレムやガザ地区を含むヨルダン川西岸地区のパレスチナ人は、さまざまに形を変えながらも占領への抵抗を止めたことはない。私たちを抑圧するために、日常的な民間人の殺害や家屋の破壊、土地の強奪など、あらゆる暴力が用いられてきた。それでも、占領に対し断固として立ち向かうパレスチナ人を阻止することはできない。我々の歴史と現代において最も尊敬されているのは、抗議行動や不動の精神、あるいは利用可能な手段によって、占領に抵抗した人々なのだ。

パレスチナ人が結果として被ってきた大きな損失は、次の反乱のための土台作りを支えただけだった。多くのパレスチナ人が、イスラエルによる弾圧の失敗を示す次のようなことわざをソーシャルメディアに投稿している:「They tried to bury us, but they did not know we are seeds(彼らは私たちを葬ろうとしたが、私たちが種であることを知らなかった)」

戦争後のガザでは、パレスチナ自治政府はさらに弱体化し、支持も重要性も低下するだろう。自治政府は、自国民にかかわるこれらの動きの中で、ほとんど何の役割も果たしていない。実際のところ、戦争のある段階では、当事者として最弱のパレスチナ自治政府を非難する運動が展開されると予想できる。

争いの終結後には、二国家解決に取り組む余地はなくなるだろう。今回の戦争が、イスラエルとパレスチナ両国の社会と政治形態を過激化するからだ。いずれにせよ、劇的な変化ではない。イスラエルは今、領土に関する和解の場を離れ、存亡に関わる不可逆的一歩を踏み出したのである。アメリカやヨーロッパの政治家たちが二国間協議の復活に唐突に注力しているのは、不合理であり、遅すぎた。彼らは何年もの間、イスラエルがその構想を台無しにするのを目撃してきたのだ。彼らが代わりに選んだのは、イスラエルの入植地拡大に目を瞑り、パレスチナ国を擁護したパレスチナ人をイスラエルと一緒に軽んじることだった。

この戦争で生じたもうひとつの犠牲は、中東とその他の地域に残っていたヨーロッパの信頼性である。ヨーロッパの主要国は、民主主義、人権、報道や表現の自由といった価値観を擁護すると主張しているにもかかわらず、ガザやヨルダン側西岸地区の民間人に対する無差別で執拗な攻撃を容認し続けた。そのため、彼らの掲げる価値観は張子の虎のように崩れ落ちた。パレスチナの人々は、ヨーロッパやアメリカの政治家がウクライナでの民間人の犠牲に涙を流している様子と、「自衛の権利」として彼らがイスラエルの行為を擁護する姿の画面分割動画をソーシャルメディアを通じて交換している。

イスラエルの「ビッグブラザー」である米国とヨーロッパの大国は、将来的に複数の重要な戦略的問題に直面することになるだろう。イスラエル国内の政治や社会の悪化の背景には何があるのか。その事と、10月7日の攻撃に対するイスラエルの脆弱性には関係があるのか。イスラエルは、欧米にとっての中東における戦略的重要性を維持または回復することができるのか。ビッグブラザーたちは、自国の利益にとって有害で危険に思われる政策からイスラエルへの無制限の支援を切り離すことで、イスラエルを甘やかす手法を続けたいと考えるのか。

この戦争の後、「合意済みの解決策」、「交渉による二国家解決策」、「当事者を交渉の場に戻す」という古い表現や枠組みへ戻ろうとすれば、それは次の暴力的な対立を招くことになるだろう。それらの言葉は、より強い当事者であるイスラエルに結果に対する拒否権を与えることと同義になった。イスラエルは、米国とそのヨーロッパの同盟国の恩恵を受けて建国し、生存し、優位性を保っている。これらの同盟国も、この深刻な状況の悪化に責任を負っている。

時は来た。生きている間に遭遇しうる中でも最悪の国際犯罪を目の当たりにしている今こそ、これらの国々は、国際法を超越する国家としてイスラエルを扱うのをやめ、占領を終わらせるよう説得し、言いくるめ、強制しなければならない。そうでなければ、どうなるのかは明白だ。アパルトヘイトが起こり、いっそう残虐な対立が継続し、世界での彼ら自身の地位は崩壊する。

  • ガッサン・ハティーブ氏はビルゼイト大学で国際研究の講師を務め、パレスチナ自治政府でいくつかの役職を歴任。また、この記事が最初に掲載されたエルサレム・メディア・コミュニケーションセンターを創設し、運営した人物でもある。
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