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ネタニヤフ首相がイスラム世界との正常化で譲歩する見込みはない

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05 Aug 2023 04:08:27 GMT9

中国が仲介したサウジアラビア・イラン間の合意は、米国にとって重要な警鐘となった。3月の合意の意義は、湾岸地域で敵対する2国間の正常化にとどまらず、同地域における中国の役割が増大していることを意味する。この地域で新たに中国が安全を保証する役割を担うことを、米国が望むはずはない。  

中東諸国が中国への石油輸出のため人民元を受け入れるようになれば、米国にとってさらなる打撃となる。これまでのところペトロユアン(石油人民元)が石油ドルに取って代わるという明確な兆候はなかったが、この問題は議論されており、そのこと自体が石油市場に対する米国の覇権と、世界的な基準通貨としての米ドルの優位性に対する脅威である。したがって、これは中東における米国の影響力に打撃を与えるだけでなく、中国との競争という点で米政府の後退でもある。米国の言説は以前、この地域からの撤退を示唆していたが、今や突然、米国は急いでサウジアラビアとの関係を強化しようと戻ってきた。  

見えてくるのは、イスラム世界とイスラエルの正常化協定についての米国側の過剰な楽観である。特にサウジアラビアは、イスラエルとの正常化交渉の中心に常にパレスチナを据えている。2002年にはアラブ和平イニシアティブを開始したが、イスラエルはこれを拒否している。サウジアラビアはイスラム世界の中心でもあり、それゆえイスラム世界で中心的な重要性を帯びるパレスチナの大義を支持している。  

先週、ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿したトーマス・フリードマン氏は、バイデン大統領がイスラエルに譲歩を強要し、 ベンヤミン・ネタニヤフ氏は狂気じみた極右同盟を手放し、より穏健な同盟者と交代させるだろうと推測していた。しかし、これはおそらく希望的観測に突き動かされており、イスラエルに対する米国の影響力を過大評価している。  

まず、ネタニヤフ氏は米国や他のどの外国勢力よりも自分の選挙区に関心を持っている。首相は、自身の有権者基盤を動揺させてまで米国を喜ばせようとはしないだろう。同氏に首相の座を与えたのは自分の支持者であり、米国ではない。別の問題は、バイデン政権に近いと思われるフリードマン氏が明らかにしたように、ネタニヤフ氏が方針を変えると米政府が期待していることである。そのためには、同氏の同盟者がイスラム世界との正常化の重要性を確信しなければならず、それを有権者に伝えなければならない。これは現実離れしている。 

イスラエルの入植者、過激派、独断的な人々にとって、神が与えたと主張する土地を手に入れることは、イスラム諸国との正常化よりもはるかに重要である。イデオロギーに駆り立てられた入植者は、これらの国々を自由に旅行するよりもヘブロンにはるかに強い興味を抱いているだろう。

フリードマン氏はまた、ネタニヤフ氏が同盟者の考えを変えることができるとも仮定している。これは見た目ほど簡単ではない。ネタニヤフ氏が同盟者と決別すれば、同氏は過半数を失い、国は新たな選挙に向かうことになる。また、同氏が必ずしも穏健派の支持を得られるとは限らない。ネタニヤフ氏がイタマル・ベングビール氏やベザレル・スモトリッチ氏らと同盟を結んだのは、過半数を獲得して首相に戻るために必死だったからに過ぎない。今、権力を失うことのマイナス面は、刑務所に入ることかもしれない。ネタニヤフ氏はこのリスクを負うだろうか。  

イスラエルの首相は、自身の有権者基盤を動揺させてまで米国を喜ばせようとはしないだろう

ダニア・コレイラト・ハティブ博士  

ネタニヤフ氏の連立政権が、前回の選挙で比較的僅差で勝利したことを忘れてはならない。同氏のブロックは236万票を獲得したが、反ネタニヤフ陣営はわずか3万票差の233万票を獲得した。野党陣営の中には、ネタニヤフ氏の勝利は野党側の失策によるものではないかという声もある。野党が無秩序で、一貫したメッセージを持っていなかったためだ。野党の敗北はまた、元首相のヤイール・ラピード氏が自らの支持者に対し具体的な成果を出さなかったという事実に起因している。ラピード氏はパレスチナ人との和平を大いに宣伝したが、それに向けた真剣な一歩を踏み出すことはなかった。  

国が今再び投票を実施すれば、特に多くのイスラエル人を動揺させた司法改革の結果として、反ネタニヤフ陣営が勝利するかもしれない。ネタニヤフ氏がベングビール氏やスモトリッチ氏と決別し、ラピード氏とベニー・ガンツ氏をその後任とすることが、次の選挙を防ぐ唯一の選択肢となるだろう。2人がネタニヤフ氏に加わるかどうかは、疑わしいところだ。先に述べたように、新たな選挙が行われれば2人とも自力で勝てる可能性がある。  

また、特にアラブ世界で、米国がイスラエルにどれだけ圧力をかけることができるかについて過大評価されている。イスラエルは毎年、米国から38億ドルの援助を受けている。しかし、イスラエルはこの援助なしでも十分やっていける。米国がイスラエルに提供するもう1つの支援は、国連安全保障理事会での拒否権である。イスラエル政府を非難する決議が提案されるたびに、米国はイスラエルの支持に回る。しかし、イスラエルの違法入植を非難する決議で、オバマ政権が拒否権を行使しなかったときには何も起こらなかった。  

最も重要なのは、安全保障の観点から、ネタニヤフ氏はパレスチナとの和平を結ぶ必要がないということだ

ダニア・コレイラト・ハティブ博士  

イスラエルにとっての別の利点は、イスラム諸国との正常化から得られる経済的利益だろう。しかし、イスラエルはすでに豊かな国であり、一人当たりの国内総生産は5万5,540ドルで、中東ではカタールに次いで高い。正常化はおそらくこの繁栄に拍車をかけるだろう。それは喜ばしい利点ではあるが、国の経済成長に不可欠なものではない。イスラエルの経済は活気に満ちており、世界中のほとんどの国と貿易関係がある。繰り返しになるが、同国のGDPに上乗せされる数十億ドルにはヨルダン川西岸地区を手放す価値があると、イデオロギー的な入植者を納得させることができるだろうか。実際には難しい。  

最も重要なのは、安全保障の観点から、ネタニヤフ氏はパレスチナとの和平を結ぶ必要がないということだ。同氏は強圧手段を使って封じ込めることができる。和平推進派の反ネタニヤフ陣営は、適切な入植がなければ第3のインティファーダが起こる可能性があると警告しているが、イスラエルの軍事機構は、少なくとも今のところ、パレスチナ人を制圧できている。したがって、ネタニヤフ氏が何らかの譲歩することはありそうもない。少なくともアメリカの計画を実現させることができる有意義な譲歩を行なう可能性は低い。  

結局のところ、ネタニヤフ氏は、政治家として生き残るため選挙サイクルごとに考えている。現時点での最優先事項は首相職を維持し、刑務所に入らないようにすることである。  

ダニア・コレイラト・ハティブ博士はロビー活動を中心とした米国・アラブ関係の専門家であり、トラックⅡ外交に特化したレバノンのNGO「協力・平和構築研究センター」の代表である。  

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