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イラクで現権威主義体制の転換は可能か?

反政府デモが続くイラクのバグダッドで機動隊と衝突後に走るデモ参加者。2019年11月7日(ロイター)
反政府デモが続くイラクのバグダッドで機動隊と衝突後に走るデモ参加者。2019年11月7日(ロイター)

アブドゥルラーマン・アル=ラシード

近年、次々と起こる革命によって中東地域が揺れ動いていることは事実だが、革命が起きた国で新たな政治体制に転換した国はない。

政権は崩壊し、指導者たちは退陣するが、エジプト、チュニジア、スーダンではいまだに権威主義体制が続いている。リビアとイエメンでは国家機関は完全に崩壊したが、両国共に現在も分裂状態が続き、代替の政治体制は確立されていない。

この数週間、イラクに広がる抗議デモを世界は驚きの目で見つめてきた。これほど多くの都市で多くの国民が参加する断固とした抗議行動が続くとは予想外だったからだ。電話回線とインターネットの遮断という現実、そしてメディアによる抗議活動に反対するキャンペーンの展開とさまざまな計画殺人にもかかわらず、抗議は続いている。

イラクで続く抗議運動にもかかわらず、政治体制の転換が起こる可能性は低い。デモ隊は、政府総辞職と一部の政治判断の変更を強制する力を持っている。

とはいえ、デモ隊がイラクの政治体制を転覆できなかったとしても、すでに宗教指導者の「後光」と国家機関の威信を傷つけ、イランの影響を示す「象徴」に屈辱を与えた。さらに、混乱の広がりはデモ参加者の要求をまとめ、地域の団結につながっている。現在、デモ隊は広場を占拠し、道路を封鎖している。そして、治安部隊はデモ隊が政府庁舎に到達するのを阻止しようと橋を封鎖している。そのため、抗議運動の参加者は代わりに石油精製所と国内唯一の港であるウンム・カスル港に集結している。

デモ隊は国家重要施設への侵入を望んでいるが、それは不可能だろう。イラン政権の支援を受けた現イラク政権は十分な武器を保有し、どんな犠牲を払ってでも政権を存続する構えだ。イラン政権はこの民衆蜂起が始まって以来、指導力と民兵組織という形で存在感を示し、弾圧と殺害に関与し、イラク治安部隊の指揮さえ行っている。

デモ隊がイラン総領事館を襲撃し、建物を燃やそうとした理由がそこにある。デモ隊への発砲に関与したのはイラン上層部だと考えているからだ。

デモ隊は石油施設やウンム・カスル港を標的にしてきたが、国家統治体制を根本から転覆させようと考えているとは思わない。そのような考えは危険であり、ほとんど不可能だからだ。しかし、イラク政府がデモ隊の要求を無視し続け、デモ隊への攻撃がエスカレートした場合、デモ隊の要求は現政治体制の転覆を含むものに変化する可能性がある。しかし、現時点では、そのような要求は出ていない。

デモ参加者の目には、イラク政府は無力であり、イラク政府から給料を受け取りながらイランから指示を受ける自国の治安機関や武装民兵を管理できていないように映る。

アーデル・アブドゥル=マフディー首相が語ったように、抗議に対して政府の総辞職を約束するのは最も簡単なことだ。政府にはそれ以外に抗議者を満足させる術がないからだ。しかし、政府の転覆は単純だが、新たな政府にも同様に問題がある。議会により多くの権限を与えることもできるが、議会レベルにも民兵組織と腐敗が存在するため、議会は現政府よりもひどい。

では、イラクの健全性審査委員会(Commission of Integrity:COI)や最高腐敗防止評議会(Supreme Anti-Corruption Council)などの規制機関に権限を委ねるのはどうか?この2つも、疑いと不信の目が向けられている国家機関が生み出した機関だ。

実際、健全性審査委員会は、ラシード銀行の元本店長を130億イラクディナール(1000万ドル)の紛失に関与したと非難したが、元本店長はいまだにその紛失金について説明していない。一方、最高腐敗防止評議会は、腐敗に関与した政府職員1000人の解雇を発表したのだが、それと同時期に今回の抗議活動は始まった。このような措置でさえ、抗議の声を抑制・沈黙させるほどの説得力はなかった。

アブドゥルラーマン・アル=ラシードはベテランコラムニスト。アラビア語国際ニュース衛星放送のアル=アラビーヤの元ゼネラルマネージャー、およびアッシャルクル・アウサト紙の元編集長。Twitter: @aalrashed

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