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イラクを阻む過去という足かせ

イラクは政府と国民の間に新しい政治的・社会的契約を必要としている。(ファイル/AFP)
イラクは政府と国民の間に新しい政治的・社会的契約を必要としている。(ファイル/AFP)
12 Nov 2019 12:11:06 GMT9

7月に、イラクはサダム・フセインの武力による政権奪取から40周年を迎えた。バース党高官の名前が呼ばれ、シリアが組織した陰謀に参加したと糾弾され、議会から連れ出される中、サダムが平然と葉巻をふかす様子を映し出す画質の粗い映像が存在する。クーデーター当日に新大統領により22人が粛清され、後にさらに数十人が処刑された。その後24年間、サダムはイラクの確固たる指導者であり、戦争、制裁、孤立、占領に自国を陥れた。悲しいことに、この遺産は今でも残っている。

すべての非をこのティクリット生まれの不名誉な息子であるサダムに帰すことができるわけではないが、反政府デモが毎日続き、死者の数が300人以上に達する中で、歴史とイラクがこのような状況に陥ることになった過程を見過ごしてしまうのは思慮に欠ける。

イラク人、特にクルド人地域以外に住む人々には、サダムが政権を握って以来、穏やかで正常な生活を営む時間はほとんどなかった。この40年の間に、中東だけでなく世界中で、これほど苦しみ、耐えてきた人々が他にいるだろうか?サダム政権の暴虐だけでも、特に大量虐殺にさらされたイラクのクルド人とイスラム教シーア派にとっては、十分にひどいものだった。しかし、さらに20世紀で最も長引いた戦争の一つも加わるのだ。8年におよぶイラン・イラク戦争は同国を滅ぼし、破産寸前まで追いやった。イラン・イラク戦争が終了してから2年後、イラクはクウェートに侵攻し、国家に対する史上最も過酷な制裁が発動された。そして、最終的に米国主導の連合軍がイラク軍をクウェートから撤退させた。

イラクに対する制裁は、大部分がイラク国民に対する制裁だった。政権は生き残り、繁栄する様子さえ見せたが、国連の制裁はイラク社会全体を引き裂き、一つ一つの家族が打撃を受けた。それ以前もそれ以降も、これほどまでに大惨事を起こし、根本から社会を変えたものはないと言っていいだろう。

2003年の戦争でついに政権と制裁は終結を迎えたが、英米による暫定統治は、新保守主義派が約束したように、イラクを新たな黄金時代へと導くことはなかった。イラク人は代わりに、自国を簒奪する新しい手段を目の当たりにすることになった。暫定統治はイラク国民を守れず、石油が豊富な国家の最も大切な資源と遺産を略奪し、無駄にした。

2019年に直面している政治的課題は、代表として全権を担ったポール・ブレマー大使の下での、混乱に満ちた米国の無様な統治に根ざしている。茶番のような憲法プロセス、信用できない亡命グループへの信頼、そして宗派のアイデンティティに依拠した政治システムの導入・形式化は、今もイラクを悩ませている。最も悪名高いのは、イラクの政治制度の大規模な脱バアス党化を命じた2003年5月の命令第1号と、イラク全軍を解体させた命令第2号だ。この2つの決定は、米国のイラク占領を貫いた無能と盲目の私欲を体現するものだ。

イラク国家の権力はいまだにしっかりと再建されてはいない。依然として宗派別の武装グループは強い国家の確立を阻んでいる。ブレマーたちは、イラクをアイデンティティの異なるグループの集合としてのみ見て、その考えに則して統治することを選び、新しい政治秩序の中心に宗派のアイデンティティを入れ込んだ。

スンニ派は排除されたと感じ、結果として一部によるアルカイダやデッシュのようなグループの支持を生んだ。多くの場合イランの支援を受けているシーア派の政党が権勢を振るい、2006年から2014年までの宗派性の高いヌーリー・アル・マリキ政権でどん底に達した。

現在のデモ参加者たちは、レバノンの反政府デモと同様に、省庁やその他の機関のトップから下部に至るまでアイデンティティに従って任命が行われるような宗派政治の遺産を取り除く決意を固めている。

イラクが今なお苦しむ腐敗の種が植え付けられたのもブレマー統治下だ。単なるずるい個人の集まりではなく、風土病なのだ。イラクは世界の国の腐敗度を示すランキングで168位に位置している。潤沢な石油資源に恵まれているにもかかわらず、イラクはイランからエネルギーを輸入している。約670万人が人道支援を必要としているのだ。イラク人を結びつけるものが一つあるとすれば、それは制度への完全な不信だ。

ケーキは、貪欲な権力者の間で分けられ、国の事業をめぐる契約は、戦利品のように彼らの間で山分けにされている。

イラク人が毎日デモを行っているのも当然のことだ。

前に進むためには、イラクは過去の足かせを捨てなくてはならない。しかし、死を招く暴力に訴えている現在の政府がそうする可能性は非常に低い。政府と国民との間の新しい政治的、社会的契約を結び、苦々しい宗派主義と外国の干渉から自由なイラクのアイデンティティを作り上げることが必要だ。カルバラのイラン総領事館への攻撃は、イランが行使する非道な影響力と、その舞台監督であるイラン革命防衛隊の「コッズ部隊」の司令官を務めるカセム・ソレイマニ将軍のたくらみについて知るべきことをすべて教えてくれる。彼はブレマーよりもはるかに狡猾かもしれないが、同じように私利私欲にまみれているし、退場させられたくないという決意は固い。

外から来たジャッカルがイラクの屍を食べようとするのを止めた時に、この誇り高い国家に勝算が生まれる。誰もが分け前とチャンスを持てる、イラク人の民主的な合意に基づく新しい政治秩序を実現しなくてはならない。宗派よりも実績を奨励し、分断するのではなく団結するのだ。イラクのもう一つの偉大な失われた資産である人材を再び引き付け、何十年もの優秀な人材の流出を逆転させなければならない。同時に、イラク社会が切実に必要としているのは、より大きな利益のために国民を和解させるための本質的で長期的な癒しのプロセスだ。

クリス・ドイルは、ロンドンに拠点を置く「アラブ・英国相互理解のための評議会」の代表です。ツイッター: @Doylech

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