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エルドアン大統領は、米国を捨てる前によく考えるべきだ

この新しい同盟の最も重要な部分は、ロシアとトルコの復活を遂げた枢軸である。これはウラジーミル・プーチン大統領とアンカラにいる相手レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領との個人的な関係によって強固になった。(AFP)
この新しい同盟の最も重要な部分は、ロシアとトルコの復活を遂げた枢軸である。これはウラジーミル・プーチン大統領とアンカラにいる相手レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領との個人的な関係によって強固になった。(AFP)
14 Nov 2019 11:11:38 GMT9

何世紀もの間、ヨーロッパ、それからアメリカの政策は、トルコとロシアを引き離し、さらには互いに敵対させることだった。この目的のために17世紀までさかのぼって戦争が行われてきたのだが、その後、クリミア戦争および第一次世界大戦後のオスマン帝国の遺物の激しい奪い合いが続いた。しかし、トルコとロシアがこれまで以上に接近しているのをヨーロッパと米国が傍から見ているように、これはすべて変化しようとしているのだろうか。

ウラジーミル・プーチン大統領は、ソチにある田舎の別荘でゆったりと構え、満足しながら現在の情景を観察しているのは間違いない。過去4年間でロシアの南西部前線における状況はプーチン大統領にとって非常に前途有望となったので、彼自身さえも、状況はこれ以上良くなることはほとんどないと認めるかもしれない。

この新しい同盟の最も重要な部分は、ロシアとトルコの復活を遂げた枢軸である。これはプーチン大統領とアンカラにいる相手レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領との個人的な関係によって強固になった。エルドアン大統領もまた、トルコの首都の端にある新しい1000室の宮殿の中で静かに微笑んでいるかもしれない。

ちょうど4年前に比べ、状況は大きく異なってきているようだ。当時、2人の指導者が異なる陣営を支持していたシリアですでに緊張が高まっており、トルコのF-16戦闘機がトルコとシリアの国境辺りでロシア機スホイ24を撃墜した。プーチン大統領の激しい反応は友情の前触れとはまったく思えず、むしろ宣戦布告に近いものだった。S-400というロシアの最も恐ろしい対空ミサイルシステムがシリアのロシアのフメイミム空軍基地に配備され、プーチン大統領は、素早くトルコの輸入を制限した。

それでも戦争は起きず、プーチン大統領は巧みに行動した。エルドアン大統領はそうすべきだと分かっており、関係を修正したが、実は2人のリーダーにはある共通の議題があることにも気づいた。アスタナ・プロセスは、これが実を結ぶものとなった。ロシア、トルコ、イランは、米国とEUの権力を排除する仕組みを考案し、現場で軍事力を持つ国々として彼らの利益のみに基づきシリアを分割することを可能にした。

10月のトルコのシリア北部への侵攻は、国境近くでの共同軍事パトロールを含むロシアとの別の合意を結ぶことで終わった。トルコは、シリアのクルド人武装グループの権限を制限することでロシアの合意を得た。一方ロシアは、シリア政府の「支配」を、かつてシリア民主軍によって支配されていた国の3分の1に戻すよう調整した。米国はほぼ何もない状態で取り残された。クルド人グループは裏切られたと感じたが、米国の支援なしにはロシアとトルコの強力な同盟に対抗できなかった。

EUとの関係が緊張してきた結果、エルドアン大統領はプーチン大統領にさらに近づく可能性がある。EUは、EU加盟国キプロスの沖合でトルコが掘削を行ったことに対し、トルコに対する制裁措置を導入したが、エルドアン大統領は、それに対し恐ろしい脅しで応えた。約1200人のイスラム国の囚人を釈放するか、EUに送還すると主張したのだ。ドイツ国籍の戦闘員7人を飛行機で国に帰還させ、アイルランド人、フランス人、デンマーク人の国民数人を国外追放するという試みがすでに行われている。これが明らかに示しているのは、非常に危険なことのきっかけとなり得ることだ。

「門は開かれ、送還を始めた(イスラム国の)戦闘員たちは引き続き送られる。そして、自分で自分の問題に対処できるだろう」と大統領は語った。元イスラム国の戦闘員がトルコにより強制送還され、トルコとギリシャの国境の緩衝地帯で足止め状態となった事例がこの茶番劇をよくまとめている。両国とも彼を受け入れることを拒否したのだ。

偽善は下品で卑しい。トルコは何年にもわたって国境を越えてシリアに渡る過激派の戦闘員に目をつぶってきた。彼らはイスラム国やアルカイダに近いグループに加わった。イスラム国が2015年にトルコに敵意を示したときにやっと、政策が変更され、国境が封印されたのだ。脅威がトルコ国内に存在しない限り、エルドアン大統領はイスラム過激主義をもてあそぶことに満足していた。

エルドアン大統領のヨーロッパに対する不満の高まりと、トランプ政権との断続的な関係は、ロシアに利益をもたらすだけだ。

クリス・ドイル

イスラム国のリーダーであるアブー・バクル・アル=バグダーディーがトルコ国境からわずか5 kmの場所で殺害されたことを疑問視し、トルコを非難するものもいる。また、イドリブ内にトルコのスパイがこれほどにいるのに、当局が彼の居所を知らなかったことに関しても疑っている。証拠は状況に左右されるが、次から次へとうわさが絶えない。

エルドアン大統領は、イスラム国の戦闘員に関し、再び常とう手段を使うつもりかもしれないが、彼には強みがある。EUは自国民を引き取り、イスラム国の戦闘員だけでなくシリア難民を受け入れるという負担を分担するべきというものだ。しかし、これらの過激派または難民を政治的利益のために武器化することは、政治家としてあるまじき行為である。

プーチン大統領のビジョンはゆっくりと実現に向かっている。エルドアン大統領のヨーロッパに対する不満の高まりと、トランプ政権との断続的な関係は、ロシアに利益をもたらすだけだ。プーチン大統領がこれらの紛争当事者間の休戦を仲介するために数ヶ月後に介入さえするかもしれない。しかしプーチン大統領が目の当たりにしているのは、トルコのパートナーであるエルドアン大統領がロシアの統治方法を意図的にまね、プーチン大統領自身と同じく独裁的になっている様子だ。

これは歴史的な成果だ。ロシアは、何世紀にもわたって、その戦略的位置と地中海の温かい水へアクセスするために、トルコに対し影響力を持つことを切望してきた。プーチン大統領はこの課題を長年にわたって推進してきた。2004年、1972年以来初めてトルコを訪問したロシア大統領となり、彼の探求はほぼ完了した。

トルコをNATO(北大西洋条約機構)から切り離し、ロシアとの軍事同盟に入れることは、プーチン大統領の最高の栄誉となるだろう。トルコはNATO加盟国中2番目に大きな軍隊を持っている。すでに、ロシアのS-400の購入に同意したトルコは、このシステムを「取り除かない」場合、厳しい非難と米国の制裁を受けることになるだろう。トルコはF-35戦闘機プログラムから除外されている。ドナルド・トランプ大統領は、脅威と制裁により十分にトルコを抑えることができると信じているようだが、これはまったく確信できない。

中東の大国は慎重でなければならない。トランプ政権は当てにならないが、将来は必ずしもそうではない。プーチン大統領とエルドアン大統領の両者は、自己強化と自己利益といった狭いレンズを通してこの地域を見ている。プーチン大統領は、シリアのアサド政権を容赦なく捨て、ロシアが後援するオプションを選ぶことができる。エルドアン大統領は、クルド人の権利と野望に対する反感を支持しないあらゆる政党を攻撃しかねない。さらに、ロシアもトルコのどちらも、米国と中国には可能である、十分な財政的支援や投資を行うことができない。トルコが2つの超大国間でけん制外交を行うのをやめ、選択しなければならない日が来るとしたら、米国を捨てる前にもう一度考えるべきだ。

  • クリス・ドイル はロンドンのCouncil for Arab-British Understandingの局長である。Twitter: @Doylech
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