Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

ブレグジット(イギリスのEU離脱) により中東の学生、さらに不確実な状況に

多くのイギリス人にとってEU離脱はますます現実味を帯びた見通しになってきている。(AFP)
多くのイギリス人にとってEU離脱はますます現実味を帯びた見通しになってきている。(AFP)
28 Nov 2019 10:11:45 GMT9

クリスマスの飾りつけが現れるのは年々早くなっているようだが2019年のイギリスではクリスマス商戦だけが激しい闘いの場ではない。1923年以来初めて総選挙が12月に行われるのだ。その主な原因はブレグジットを巡る国民投票以来続く政治の混迷である。こんなに早い時期の選挙実施を求めたのはボリス・ジョンソン首相で、首相は「離脱完了」が自らの目標であり使命であると明言している。

多くのイギリス人にとってEU離脱はますます現実味を帯びた見通しとなってきている。しかし他の者にとっては、その実現可能性を問いただし、恐るべき負の影響を小さくするチャンスがある限りまだ行動の余地はある。イギリスは前に進んでEUから解放されるべきだと考える者にとってもその解放がどんな形を取るかは全然はっきりしていない。彼らも彼らと逆の意見を持つ者も、離脱後も相変わらず大きな不確実性に悩まされながら暮らしていくことになるだろう。

大学ではこれまで、運営側の学生やスタッフへの対応は安定したものであり、可能な限り不安を生じさせないような対応が取られてきたが、ブレグジットはこの特徴をすっかり変えてしまうだろう。未知の要素が多すぎるためこれからの学生たちは容易に重要な基本的判断を下すことができなくなるだろう。

現在イギリスで学んでいるEU諸国出身の学生たちは、今後もイギリスに住み、学び、働き、助成金や奨学金を受け取る権利が保証されるのか常に心配している。大部分のEU諸国出身の学生の不安は主として卒業後の生活に関わることであるが、大学在籍中のことを真剣に心配している学生もいる。今年教育省は、2020年から2021年までに登録を済ませたEU諸国の学生については学費はイギリス人学生と同額 (その他の諸国の学生の学費はずっと高い) にとどめると約束し、従来と同じ学費面での特典が約束されると保証した。

しかしその他の面では様々な要因による不確実性が生じている。ビザ関連の手続き・費用や在学中にかかる費用の保証はどうなるのか、将来が見通せない中で予測不能な事態が起きたり何かが中断されたら一体どうなるのかなど、心配の種は尽きない。

中東出身の学生に関して特に制限が厳しくなるかどうかは今後の政権の中東地域とその様々な要素に対する姿勢に大きく左右されるだろう。

ターラ・ジャージュール

イギリスがEUを離脱し、EU諸国出身の学生たちに対する特別措置が取られなければ、学生たちは将来EU外の国々の学生と同額の学費を払わねばならなくなるかもしれない (修士課程3年について言えば、その差は現時点で18,000ポンド (23,000ドル) から 48,000ポンドほどとなっている)。移動の自由が厳格な形で制限されるようになればEU諸国の学生はイギリスに入国しアルバイトで生計を立てるのにビザや労働許可証を取得しなければならなくなる可能性がある。

EU諸国以外の外国人学生は、イギリスで学ぶことがキャリアアップにつながるのか、それともあとで後悔する選択になるのかよくよく考える必要がある。外国人学生に影響を与える不確定要素は多数かつ多様である。最も基本的なのはビザ関連の規則、費用、将来の職業に関する見通しである。紙幅に限りがあるので本稿では、ほとんど論じられることのないビザに関する問題を取り上げよう。

理屈で考えればビザに関する変更で影響を受けるのはEU諸国出身の学生のみであるが、EU諸国以外の学生はブレグジットの影響を受けないだろうとの予測は非現実的である。過去数年間のビザ関連規則の変更パターンを見てみると、交付数そのものの制限に伴い、交付されるビザの内容に対する制限 (ビザの種類その他に関する制限) も大きくなることは十分に考えられる。別の言い方をすれば、イギリスが入国する外国人の数を抑えたいと考えるなら、ほぼ確実に学生ビザ交付数には上限が設定される、つまり制限が大きくなり、なおかつ交付数も減るということだ。

中東出身の学生に関して特に制限が厳しくなるかどうかは今後の政権の中東地域とその様々な要素に対する姿勢に大きく左右されるだろう。中東地域及び中東諸国に対するイギリスの安全保障政策を考えると、最小限に見積もっても、中東からの学生への影響は決して小さくはないだろう。

外国人学生がもたらす金銭面その他の利益を考えれば、離脱後の学生ビザ交付数の制限はもちろん諸刃の剣だろう。今後の政権はこの問題に関する損得を秤にかけて熟慮しなければならないだろう。野党党首たちは現在それぞれの党の公約を表明しており、国民は各候補者の移民問題への取り組みに期待している。EU離脱に次いで選挙民の関心の高い重要課題は国民保険制度 (及びその他の税制) 、国民保険サービス (ヘルスケア)、教育である。移民に関する質問をすると、誰に尋ねようとほぼその質問は他の主要問題を通じて政治議論に発展していくようだ。

不確実な状況と優先的に取り組むべき待ったなしの諸課題が次期政権を待ち受けていることを考えれば、外国人学生に対する明確な政策がはっきりした形をとって打ち出されるまでにはある程度時間がかかるだろう。当面の間、希望を胸に抱く中東の学生は、他の諸国の学生たちと同様の不確定要素に直面することになるだろう。

あまりにも不確実な政治状況の中ではこの種の問題は優先順位が低く後回しにされるかもしれない。そのことだけを考えてもイギリス政府が好意的でなければ彼らがイギリスで学ぶチャンスは犠牲にされてしまう可能性がある。

ターラ・ジャージュールは「Sense and Sadness: Syriac Chant in Aleppo」(OUP, 2018)の著者。現在はキングス・カレッジ・ロンドンの客員研究員、イェール大学ピアソン・カレッジのアソシエイト・フェローである。

特に人気
オススメ

return to top