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社会を蝕むジハードの代弁者の仮面を剥ぐ

2019 年 3 月 3 日、シリア東部デリゾール県にあるダーイシュの最終拠点バグズにおける砲撃で煙と炎が渦巻く。( AFP )
2019 年 3 月 3 日、シリア東部デリゾール県にあるダーイシュの最終拠点バグズにおける砲撃で煙と炎が渦巻く。( AFP )
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16 Dec 2019 05:12:36 GMT9
16 Dec 2019 05:12:36 GMT9

ジハード戦士の隊列が黒い旗を掲げてモスルを行進しカリフ制国家の樹立を宣言した頃、私はこの団体に利用されている歪んだ宗教的正当性をより深く理解するための研究チームを立ち上げていた。これにはジハード主義者のプロパガンダを監視し読解することが必要であった。私はダーイシュの半定期刊行英語機関紙である『ダービク』を朝刊よりもより細かく通読していた。

この激動の時代を通じてそのプロパガンダには特有の文体的要素があることが明らかになっていった。その一つは多くの場合不明瞭で法解釈的であったこのテロ集団のイスラム教神学体系の理解を刊行物において部分的に長編で特集することを重要視していたことである。このようなことがジハード主義に対しては神学教義的な側面から取り組まなければならないという私の確信にある程度寄与している。

文化的な側面は別の理由からも興味深いものであった。「五つ星ジハード」のミーム(ダーイシュへの参加に興味はあるがヘアジェルを手に入れることができるかを心配する西側諸国のイスラム教徒に向けたプロパガンダ)などその一部は軽薄かつ分かりやすいものだったが、さらなる注目に値するものも別に存在した。その一つが詩の利用である。

これは主に音に乗ってアカペラで歌われるジハード主義的ナシードの媒体を介して供給された。しかし詩は歌われるためにのみ作られたものではなく、詩選集として出版もされていた。最も人気のあったダーイシュの詩人はアフラム・アル=ナスル(「勝利の夢」)という名の女性である。

シリアの聖職者ムスタファ・アル=ブガの孫娘であるアル=ナスルは 2014 年に 16 歳でダーイシュ支配地域にやって来て、すぐにオーストリア出身の司令官と結婚した。 2015 年の夏までに彼女は最初の詩集『真実の炎』を刊行し、「イスラム国を代表する詩人」として認められていた。

組織的観点から見ると、プロパガンダがアル=ナスルの主要な役目であった。イスラム教の主張を展開するための詩の利用はイスラムの預言者自身の同朋たちにまで遡る。ダーイシュの核となる主張は、自らはイスラム教の過去との乖離ではなく真の初期イスラムの復興であるという点だ。

シリアの聖職者ムスタファ・アル=ブガの孫娘であるアル=ナスルは 2014 年に 16 歳でダーイシュ支配地域にやって来て、すぐにオーストリア出身の司令官と結婚した。 2015 年の夏までに彼女は最初の詩集『真実の炎』を刊行し、「イスラム国を代表する詩人」として認められていた。

ピーター・ウェルビー

ジハード文化研究の権威であるトーマス・ヘグハンマーは、ジハード主義者たちは過激主義的な主張とは無関係な活動に多くの時間を費やしているようだ、と述べたことがある。

しかし彼らの文化的な活動はジハード主義的な活動と密接に関係しているというのが現実だ。反体制文化団体とは、その存在の目的や理由にかかわらず自身の文化を確立しなければならないものである。イデオロギーのみでは気難しくて望郷の念を持っており文化的にも多様な人々をまとめることはできない。拠りどころとなる文化的な共有観念を確立する必要があるのだ。

人員補充の道筋は逆の方向を取ることも可能だ。非暴力的イスラム主義者が暴力的ジハード主義者と文化的指標を共有することができるということは、目的を達成するために暴力という手段を選ぶ者たちには一方から他方への転換が容易であることを意味する。

アル=ナスルの詩は以下のすべてへの作用に成功した。カリフ制国家における生活を賛美しプロパガンダの手段となる。ダーイシュの活動を初期イスラムの成功と犠牲に結びつける。教典に寄与することによってイスラム主義およびジハード主義サブカルチャーの長期的安定に貢献する。

これらすべては長期的観点においてジハード主義を打ち破る方法を理解する上で重要なことだ。ダーイシュは領土的には敗北したかもしれないが、その協力者たちはいまだに存在しており、その暴力的能力を誇示している。 ダーイシュが世界的な名声を得た最初のジハード主義組織ではなかったのと同様に、それは最後の組織でもない。

あまりに長きに渡り西洋はジハード主義に対して警察的および軍事的対処に集中しすぎてきた。それらは必要なことではあるが、ジハード主義を抑え隠すことしかできない。打ち破るためには思想に力を与える要素に対しての取り組みが必要である。

西洋はイスラム主義およびジハード主義に対する神学教義的な対処の必要性に過去 20 年かけてゆっくりと目覚めつつある。

時間がかかることではあるが、アル=ナスルのようなプロパガンダ宣伝者をヘイト伝道者であると暴くことが我々の世界を蝕み未来を脅かすジハード主義思想の毒を理解するのに重要なことである。

ピーター・ウェルビーはアラブ世界を専門とする宗教問題およびグローバル時事の顧問である。以前彼は宗教的過激主義に関するシンクタンク「宗教地政学センター」の管理編集者としてアラビア湾地域で公共問題を取り上げていた。ロンドンで活動しており、過去にはエジプトやイエメンに住んでいた。

Twitter: @pdcwelby

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