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政治的リスク分析から見るイラン最悪の年

イランの最高指導者アリ・ハメネイ師。(ロイター)
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師。(ロイター)
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21 Dec 2019 12:12:38 GMT9
21 Dec 2019 12:12:38 GMT9

私はつねづね、わが社の顧客のみならず職員にも倦まず説いている。政治的リスク分析という仕事において最良の売り込み方というのは、つねに正しくあることだと。私の生業では虚飾のたぐいはつきものとはいえ、たいていの企業がいまだに、政治的リスク分析を請け負わせる会社に対し、それも少なからぬ対価を払って、その分析の正邪を憂慮しているのは多としたい。それはたとえば、中国、ドナルド・トランプ、ブレグジット、ヨーロッパ、貿易戦争、マクロ経済、地政学といった問題への分析だ。要は、新たな世界を正しく把握したいという欲求があるがゆえに、政治的リスク分析を旨とする会社はまずもってやっていけるのである。目下の情勢、今後の情勢をともに解き明かしてあげれば、顧客としても先の見通しがぐんとよくなるわけだから。

企業に当てはまることなら、政治指導者や国家にはなおのこと当てはまる。世界の望ましい姿ではなくありのままの姿を視野に入れ、おのれの生き抜く世に順応する者は栄える傾向にある一方で、望みのかなうおとぎの国に住まう者は、その夢を覚まさせる力について一切理解することなく、衰退する。

この一年、私が時間を割いて考えてきた世界の主要国のうち、政治的リスク分析で採点すればイランがぶっちぎりの最低点であるのは言うを俟たない(まあ言わでものことではあるが)。こうした絶望的な分析と、イランがますます危機的な戦略地政学的な立場に置かれていることが軌を一にしていることはさして驚くべきことではない。

この一年で、少なくとも4つの大きな政治リスク上の間違いをイラン政府は犯している。第一に、イラン上層部は、トランプ政権によるイラン核交渉からの離脱を受け米国がイランに新たな制裁を加えても、経済にさしたる影響はないと高をくくっていた。

つまりイランは米国の経済力をずいぶんと見くびっていた。制裁前、イランは日量200万バレルの石油を輸出し、これが同国経済の大黒柱だった。目下は日量20万バレルにすぎず、90%もの落ち込みとなっている。その効果はてきめんだ。イラン経済は瓦解している。国際通貨基金(IMF)は今年のイラン経済は9.5%という強烈な急落に向かうと予測し、他方でインフレ率は40%という苛酷な数値まで跳ね上がっている。イラン国民の優に半数は現在、最低の生活水準で暮らしているものとみられている。

第二に、イラン上層部は、最良のシナリオでは欧州はトランプ政権に制裁の貫徹を思いとどまらせるとみていた。最悪のシナリオであっても、欧州はみずからの経済の先行きをかんがみ、イランとの独自貿易を伸展させるものとみていた。最高指導者ハメネイ師の政権は、トランプ革命の何たるかがまるでわかっていないことを映すように、――トランプ氏はそのジャクソン流イデオロギーから、同盟国が束になって圧力をかけても何の影響を受けることもない――、米欧関係が変化する動きに目をくれることもなかった。

イラン政府の宗教指導者らはまた、西側で自由市場がどのように動くのかまるで理解していないことを露呈した。米国の制裁回避に向け欧州の指導者たちからたとえどれほどの声明なりが発せられようと、民間企業はそんな当てにならぬ指図など受けるいわれもないのである。

イランとの取引により米国市場への経路を危険にさらすか、あるいはそんな自分の首を絞めかねないことなどさっぱりやめにしておくか、どちらを選ぶかと言われた場合、欧州の主要企業はひとつ残らず自社の将来を守るためイランと手を切る道を選んだのは何ら驚きに当たらないというべきだ。西側の自由市場がどのように動くのかがわずかなりともわかっているなら、こんなことは知れた話だった。イランの指導者らにそういう人がいなかったのは悔やんでも悔やみきれない。

イラン上層部は、どれだけ政府の指導が劣悪であろうとも、どれだけ多くの政治的リスクをともなうミスを指導者が犯そうとも、国民はずっと黙したままだと高をくくっていた。

ジョン・C・ハルズマン博士

第三に、経済的困窮がかくも大きいにもかかわらず、イラン政府は帝国が版図をむやみに拡大するがごとき隘路に踏み入る愚を犯した。その対外政策は野心に満ちるが、経済的手段が限られていては国力に見合うものではない。2013年以降、米当局の見立てでは、イランはイラク・レバノン・イエメンに160億ドルもの巨額を費やし、シリアのアサド政権支援にさらに100億ドルを使ったとされる。さらに、緊密に同盟関係を結ぶヒズボラには年間7億ドルの支援をしているものとみられる。これほどの多額の出費を今後も続けることは、イラン経済の急落ぶりをみればまず無理である。

イランが対外政策にこうした巨額な投資をおこない帝国然とすることにはマイナスの影響も出はじめている。目下、イランの支援を受けた政権が国政をになっているイラクやレバノンでは、劇的かつ広範な政府への憎悪がはびこり、広大な層が蜂起している。政治腐敗や悪政への怒り、政府が生き残りのためにイランに頼りきりであるさまへの屈辱感といったことが原因だ。

デモや社会的な騒擾の先触れとなったこうした喧騒はしだいに、イランによる悪影響とみなされるものへさらに広く反対する行動に姿を変えている。イランが帝国よろしくその版図を拡張しようとしても、財布も保たないし、戦略上もますます逆効果を生むばかりだ。

最後に、こうした巨大な政治的リスクの誤算がすべて、イラン自身に跳ね返ってきている。イラン上層部は、どれだけ政府の指導が劣悪であろうとも、どれだけ多くの政治的リスクをともなうミスを指導者が犯そうとも、国民はずっと黙したままだと高をくくっていた。イラン国内で最近デモ活動が続くことが、それがまるで当を得ぬことの証左だ。かくも何度となく、かくも誤りつづける上層部に対して、さすがにイラン国民も無限の忍耐心は持ち合わせていないのだ。

政治的リスク分析が正だったか誤だったか、答えは必ず出る。それは否応なしだ。誰がために鐘は鳴るか? 愚かなるイラン指導部のために鐘は鳴りはじめている。

  • ジョン・C・ハルズマン博士は、世界有数の政治的リスクコンサルティング企業のジョン・C・ハルズマン・エンタープライズ代表兼業務執行役員。また、ロンドンのCity AM新聞の上級コラムニストも務める。連絡先は、www.chartwellspeakers.com.
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