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イランのための復讐うかがうイエメンのフーシ派

米国がイランのガーセム・ソレイマニ司令官およびイラクの民兵組織指導者アブマハディ・アルムハンディス氏を殺害したことを受け、フーシ派支持者らが米国を糾弾する集会を開いている。イエメン、サヌア。(ロイター)
米国がイランのガーセム・ソレイマニ司令官およびイラクの民兵組織指導者アブマハディ・アルムハンディス氏を殺害したことを受け、フーシ派支持者らが米国を糾弾する集会を開いている。イエメン、サヌア。(ロイター)
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08 Jan 2020 09:01:11 GMT9

コッズ部隊のガーセム・ソレイマニ司令官暗殺により、イラン・イラク・米国では怒りと混乱と不安に歯止めが利かなくなっているが、イエメンとてその影響を免れることはないだろう。イランはソレイマニ氏殺害の復讐を誓い米国の戦略的利益や場合によってはその同盟国への攻撃も言明しているが、フーシ派にも応答を求めることは疑いない。

ソレイマニ氏はイエメンの土を踏んだことはなかったかもしれない。武装組織フーシ派指導者のアブドルマリク・フーシ氏と会ったことすらなかったかもしれない。それでも、フーシ氏は「殉教者」のため報復し、その血は「無駄にはならない」と言明している。6日開かれたフーシ派の集会では、ソレイマニ氏と、同氏とともに死去したイラク人民動員隊指導者のアルムハンディス氏の遺影が大勢の手で運びこまれた。この場では米国の空襲が糾弾され、また米国の介入の終焉が訴えられた。

フーシ派がソレイマニ氏の死に報復するとしている点は気懸かりだ。イランが求める米国への復讐に同派を巻きこみかねないということもあるが、イエメンと周辺諸国はむろんのことイエメン国内での和平協議の見通しまでも反故にされ、不安定な情勢をさらに激化させかねないからだ。

イラン政府とフーシ派の関係についてはこれまでしばしば過小評価され誤解もされてきた。その理由の多くは、イランは、イエメンでは表向きなんら悪行など働いていないなどと否定するその陰で、隠然とフーシ派を支援するほうを選んだからだ。

ソレイマニという名前は、イラクやレバノンでもそうだったようにイエメンでも、誰もが知るといった名ではなかった。が、同氏はイエメン国内のイラン権益を増大させ、フーシ派の権力を維持させるうえで決定的な役割を果たしている。これは、域内の民兵組織とつながって非対称戦の経験を積ませるという、同氏一流の戦略に沿った型破りな訓練手法によるものだ。ソレイマニ氏は、フーシ派の訓練をになうイラン革命防衛隊からもヒズボラからも去ったが、フーシ派幹部にはコッズ部隊のアブドルレザー・シャフラーイー司令官がいまだ健在だ。米司法省から指名手配中の同氏は現在サヌアでフーシ派と作戦活動をおこなっている。

いずれにしろソレイマニ氏の戦術戦略両面での才覚があったればこそ、フーシ派はイエメン国内でその地歩を確立するにいたったのは疑いない。これは、軍事的な技量の育成、政略の提供、イランの最新兵器の供給といった形でおこなわれた。ソレイマニ氏はもっぱら裏に隠れて自国の国益と拡張主義に見合う目標を担保し、結果としてフーシ派は権力維持の方途を得た。同派が細心の注意を払って交渉に当たった国連の支援による和平プロセスもむろんそのうちに入る。

ソレイマニ氏の働きかけに応えて、フーシ派指導部としても大なる感謝と忠誠で同氏を遇した。パレスチナ、イラク、レバノン、シリアの親イラン派超国家武装組織が連帯して作る「抵抗の枢軸」において中心軸の一角を占めることで同氏の構想を叶えたのだ。問題は、しかし、この枢軸は西側諸国とそれに同調する国々すべてを排除対象とみなしている点だ。これは米国とイスラエルを指すだけではない。サウジアラビアやアラブ首長国連邦も、米国と協力関係にあるとしてこれに含めている。

フーシ派はこの厳格なイデオロギーを是とするため、イエメンおよびその周辺における和平や和解に向けた機会をすべて危機にさらしている。フーシ派が頑としてこうした信念を枉げぬ以上は、真の平和をイエメン国内にしろサウジとの間にしろ求める姿は認めがたい。なにしろ、この信念の根っこにあるのは、アラビア半島の既成秩序を破綻させ、その代わりに地政学的な同盟と、専制主義と何ら変わらぬ宗派色の強い教条を据えるという理念だからだ。

ソレイマニ氏はイエメンの土を踏んだことはなかったかもしれない。武装組織フーシ派指導者のアブドルマリク・フーシ氏と会ったことすらなかったかもしれない。それでも、フーシ氏は「殉教者」のため報復し、その血は「無駄にはならない」と言明している。

ファーティマ・アブー・アラスラール

かねてフーシ派がみずからの運動を自主独立だと誇りかにし、イエメンの内政は外国の干渉を受けない、としてきたのは何とも皮肉だ。実のところ彼らの追い求めているのは支援を送るイランに供するものであって、自国民のためのものではない。

こうした状況を鑑みると、たゆまぬ和平プロセスの前に立ちはだかるこうした障害物について国際社会が認識しないことには和平の合意を見いだすのは困難なものとなる。復讐がうんぬんされるような好ましからざる現下の情勢で平和交渉が可能となるためには、国連としては、フーシ派のこうした教条的イデオロギーとがっちり向き合い、イランによる隠然たるフーシ派への行き過ぎた影響力の行使についても認めるべきであろう。片方が秩序の紊乱を平気でおこなう者の影響下にある中でいかにして平和を確保するのか。現実的にこの問題を解消するためには国連がこうした課題をひとつひとつ緩和させることが何より大事だ。

総じて言えば次のようになる。ソレイマニ氏の死を受け、フーシ派が隣国サウジアラビアとの紛争を激化させることのないよう、国連イエメン特使は昨年の倍は汗をかく必要があるだろう。最後にはフーシ派はどちらかを決めねばならない。狭量な世界観と目標しかもちあわせぬ一武装組織にこのままとどまりたいのか。それとも、自分たちの国を統治する能力のある、イエメン人としての自覚をもった国家主体に変じたいのか。フーシ派が支配権を確立し独立を得るうえで、これが最終テストとなるはずだ。

  • ファーティマ・アブー・アラスラール氏は、ワシントンの中東研究所客員研究員。ツイッターアカウントは、@YemeniFatima

 

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