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トランプの一方的な計画を切り抜ける包括的な交渉が必要

ドナルド・トランプ米大統領はワシントンで、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と招待された聴衆に和平案を発表した。(Getty Images)
ドナルド・トランプ米大統領はワシントンで、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と招待された聴衆に和平案を発表した。(Getty Images)
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06 Feb 2020 01:02:50 GMT9
06 Feb 2020 01:02:50 GMT9

古い英国ジョークがある。多くの地方で同じような成句があると思うが、困惑して道に迷った旅人が、必死の思いで、ある場所に行くにはどうしたらいいか地元の人に尋ねるジョークだ。一瞬考えて、その地元の人はこう言う、「そうだな、俺があんたなら、この場所からその目的地には行かないな」。

ドナルド・トランプ米大統領が先週ワシントンで「世紀のディール」を、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と招待された聴衆に発表した場面を見た際に、私はこのジョークが頭の中をよぎるのを止めることはできなかった。もし交渉の最新の話し合いが開始されるのならば、この一方的な交渉に見えるものをもっての和解は難しいだろう。世界政治における最も困難で長期にわたる難問に対する解答として、方程式の片側だけに実質的にすべてを与えるような解決策を提示しているのである。

トランプ政権は「ブローカー」として、中東の和平プロセスにおける前任者らの重責を引き継いだ。英国政府における低い期待は、二期目を大いに待ち焦がれる人たちとは異なり、トランプが一期目の好機として彼がディールを提示した当初は上がった。過去のレガシーは難しいもので、両サイドが逃した機会はいくつもある。惨めで骨の折れる論争で、紛争を終わらせようとした者はすべてエネルギーを奪われ、現地では一方からの容赦ない行動に反撃されもう一方のために手詰まり状態となることもあり、爆弾、ロケット砲、銃弾による暴力と死が遠のくことはなかった。トランプの使者たちは、任務の重要な要素を伝えろという大きなプレッシャーにも関わらず、自分たちの仕事を行っており、1月28日まで抵抗していた。彼ら自身であったなら、このタイミングを選んだろうか?

 丁重で実に仕事熱心なジェイソン・グリーンブラットと、彼が中東和平のためのトランプの特使であったときに、何度か会議をしたことがある。英国の大臣として、私は2017年以来、辛抱強く次の3つのアドバイスを提供した。パレスチニア人に恥をかかせるな、特にイスラエルの立場を理解して、防衛問題に関してイスラエルと協働している人たちに恥をかかせないこと。経済が他のすべての問題より重要だと思うな。そして、最終的な提案がいくつかの面でイスラエル寄りならば、残りの者たちが話し合うのに十分な余地を残すこと、即否決されることがないように

私は発表の1週間前にイスラエル、ウェストバンクとガザ地区を訪れていた。ネタニヤフとベニー・ガンツがワシントンに行くとの知らせが届いたとき、どの立場からの反応も同様だった。つまり、これはイスラエルにとって、不確かな選挙プロセスの最中にある首相にとって、ちょっとした利益になるだけだろう。発表のタイミングと内容から明らかだ。

しかし、古いジョークのオチの裏にある現実のように、我々はまさにここから始めなくてはならない。発表は取り消せないし、忘れ去られることもない。和平プロセスの歴史の一部となるのだ。我々はそれぞれが存在する場所にいて、そして今何をするのか?

提案は解決策ではないものの、その詳細、というよりもその厚かましさやタイミングがそれ自体に勢いをつけており、そしてその勢いは失われるべきではない。そしてもし提案が疑いなくイスラエル寄りなら、提案への反発により、ある程度は、バランスが矯正されるだろう。ファタハとハマス間の会談の刺激となるだろう。彼らがお互いに差異を調整できないことと、イスラエルが存在するという現実に基づいて統一されたリーダーシップを提供できないことは、彼らだけにしか乗り越えられない障害であることを、彼らは認識せねばならない。いくつかのアラブ諸国がワシントンでの発表に参加し、次のような激しい主張をした。何年もの間、この地域ではこの未解決の問題に加えてそのほかのリスクも生じており、すべてをこの問題のために永遠に保留状態にしておけるわけではないと。しかし、アラブ連盟はすぐに会合を開き力強く団結した声明を発表した。提案への回答として、ディールを拒絶することで、国際的な要因の中にはどうしても無視できないものがあるとすべての人たちに気付かせた。EUはトランプの計画を承認せず、英国は即時の併合をけん制した。これは想定されていたものだったが、ベニー・ガンツとジャレッド・クシュナーもまた、このディールの危険性を理解した、とりわけヨルダンのような重要なパートナーにとっての危険性を。

突発的行動と重大局面の不安の後、小休止すれば次のステップに関する省察がおそらくできるかもしれない。

もし提案が疑いなくイスラエル寄りならば、反発により、ある程度は、バランスが矯正される。

アリスター・バート

我々はこのチャンスを逃すべきでない。これが前進する方法でないなら、他にどんな方法があるのか?対案は何だ?国際法がもはや影響を与えない場所で、現地に定着した事実に基づいた、一方的な解決策は、不快な前例だ。紛争に同様の理論を当てはめようとする一方により巧みに書かれた解決策―多国間協調主義の緩やかな死に対するさらなる攻撃だ。勝利への現実的な交渉であるギブアンドテイクのために、パレスチナの真剣な参加を含めたより包括的なプロセス、和平の真の保証となる全参加者による承認を確実にすることが早急に必要だ。UAEのAnwar Gargash外務大臣による「現実的スタンス」と「肯定的戦略」がアラブ諸国に求められるとの認識は、多くの人に賛同されるのではないかと思う。パレスチナ人の大義への支持と信頼をなくすべきでないとする彼のバランスの取れた警告を心に留めつつ、その一方で彼の警告はそれ自体では影響力と権力のバランスを変えるのには不十分だということに注意を払うべきだ。

中立的な「ブローカー」は先週とうとう消え去ったが、米国はまだ重要だ。近隣国や他の大国など他国による素早い行動は、中心人物たちと連携して行わねばならない。彼らの承認だけが、和平の土台となるはずだ。無駄にできる時間はない。

  • アリスター・バートは元英国国会議員で、外務連邦省の閣僚職を2回務めた―2010~2013年政務次官、2017~2019年中東担当大臣。Twitter: @AlistairBurtUK

免責事項:著者によりこのセクションで表された見解は著者本人のものであり、必ずしもアラブニュースの見解を反映するものではありません。

 

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