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アパルトヘイト国家になりつつあるイスラエル

エルサレムの首相官邸で行われた閣僚会議で発言しているイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相。(ロイター)
エルサレムの首相官邸で行われた閣僚会議で発言しているイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相。(ロイター)
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03 Jul 2023 09:07:27 GMT9

イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフ氏は先月、驚くべきことを明かした。報道によると、ネタニヤフ氏は非公式の会議で議員に対し、パレスチナ人による独立国家設立の大望をイスラエルは「打ち砕く必要がある」と述べた。また、パレスチナ自治政府への対応を引き続き行っていく必要性についても強調した。さらにネタニヤフ氏はパレスチナ自治政府の崩壊を許すつもりはなく、パレスチナ人を「経済的に」支援する意思を表明した。

イスラエルの目標はパレスチナ人による国家の否定にあることは長年明白であったが、首相が明明白白に宣言したことは初めてだ。もちろん、アリエル・シャロン氏は常に、ヨルダンはパレスチナ人のためにあると述べてきたが、パレスチナ人による独立国家設立の大望を打ち砕くと首相が発言したことはこれまでになかった。

ネタニヤフ氏による声明はイスラエルとの国交正常化の無益さを表している。アブラハム合意における約束の一つに、イスラエルによる大部分のヨルダン川西岸地区への主権拡大という、論争を呼んだ計画を停止することが含まれていたが、ネタニヤフ氏はすぐに支援団体に対して、入植地拡大の取り組みをやめるつもりはないと述べた。事実として、ネタニヤフ氏は現在、入植地に新たに5,700戸の住居を建設する計画を前進させている。

エミレーツ政策センター(Emirates Policy Center)のセンター長であるイブティサム・アル・ケトビ氏は先月、イスラエルの行動は厄介な状況を生み出しており、さらには、イスラエルとの国交正常化をするつもりのアラブ国家は他にはいないだろう、と述べた。

しかし、これはほとんど関係がないように思える。というのは、ネタニヤフ氏の主な目標は、連合の団結を保つことにあり、エフード・オルメルト前首相が最終的に行き着いた収監という行く末を避けることにあるからだ。

イスラエルは、自らの目標を隠すことすらせず、口先だけの同意すらしないほどに傲慢になってしまった。また、イスラエル国の維持において主な後ろ盾となっている、米国のユダヤ人の考えを考慮していないように思える。イスラエルにはイデオロギー的計画があり、その達成をかたく決意している。事実として、イタマル・ベングビール国家安全保障大臣は先週、イスラエルは「数千人のテロリスト」を殺す必要があると述べており、その一方で、エブヤタル前哨地を入植地として即刻承認するよう政府に求めている。政治談話がこれほどまで露わとなったことは今までにないが、現政権が気にしている様子はない。

しかし、ネタニヤフ氏の前提は機能していない。これは以前に、モーシェ・ダヤン国防相によって試されている。1967年以降、イスラエルがヨルダン川西岸地区を占領した際、方針では経済的繁栄を認めており、パレスチナ人が自らの政治的権利について忘れてくれることを期待していた。しかし、20年後に第1次インティファーダが勃発した。トーマス・フリードマンによる1989年の有名な著書『ベイルートからエルサレムへ』では、パレスチナ人とその占領国の関係を、まるで20年間同居していたカップルのようだと描写している。最終的には、両者は結婚を申し込む代わりに別れを望んだ。

第1次インティファーダは、ひとつの重要な情報を伝えてくれている。パレスチナ人は政治的権利と経済的特典を交換するつもりはないのだ。パレスチナ人には先進的な民族意識があり、自らの国家を望んでいる。極端論者が、パレスチナ人国家を持つ権利を否定し、パレスチナ人のことをより広い意味でアラブ人と呼ぼうとすればするほど、独立国家を求める思いはより強固なものになるのだ。

イスラエルは、自らの目標を隠すことすらせず、口先だけの同意すらしないほどに傲慢になってしまった。

ダニア・コレイラト・ハティブ博士

しかし、パレスチナ人国家はイスラエルにとっても得策である。以前には、イスラエルは、行き着く先のない長く無駄な和平交渉に持ち込むことで、パレスチナ人国家の問題を避けることができた。それは見ものであった。交渉の狙いは、イスラエルにはパレスチナ人に国家を与える意思があると世界を納得させることにあったが、それと同時にイスラエルは入植地拡大を続けたため、パレスチナ人国家設立の可能性を妨げる障害となった。イスラエルの狙いは現状を長引かせることにあった。

イスラエルがパレスチナ人に国家を与えたくはないと認めている現状で、何が解決策になるだろうか。パレスチナ人の政治的立場はどうなるのだろうか。イスラエルがおそらく民主主義国だと仮定すると、きっとこの問いに答えてくれるはずだ。パレスチナ人はいかなる権利もなく生きるただの群集になってしまうのだろうか。議論好きのいわゆる思想家であるエディ・コーエン氏は、ソーシャルメディア上でアラブ人について絶えず発言しており、パレスチナ人は生きることができ、個人の権利を持てるものの、政治的権利は持てないと主張している。しかし、これは近代国家においては成り立たないのだ。イスラエルではこの完全に非民主的な考えが主流となりつつあり、世界中のユダヤ人にとってイスラエルは困惑の種になりつつある。

しかし、ネタニヤフ氏とその同志が認識していないことは、イスラエルがパレスチナ国家の発想を根絶すると、パレスチナ人は他国家の市民になる必要があるということで、おそらくその国は、住んでいる土地を占領しているイスラエルになるのだ。イスラエルはこれを望むのか。ユダヤ市民よりもはるかに多くのアラブ市民がいたとしても、イスラエルは、近い将来アラブ連盟に加盟することを望むのか。おそらくイスラエルはこれを望まないだろう。ユダヤ人は独自の国家を欲するというのがイスラエルの大前提だ。しかし、実行されてきたあらゆる政策はこの目標と矛盾している。

イスラエル国を設立した当時のダヴィド・ベン=グリオン氏には、ユダヤ人特有の、民主的で、パレスチナ全土を含むイスラエルというのは、存在し得ないことがわかっていた。そして、入植者は国の性質を形作る選択をする必要があることがわかっていた。ベン=グリオン氏には、暴力的な立ち退きや民族浄化にもかかわらず、ユダヤ人にはパレスチナ全土を自らのものとすることはできないことがわかっていた。

イデオロギーによって盲目となったネタニヤフ政府の非民主的な人々は、今や、パレスチナ全土における非民主的なユダヤ人国家設立を望んでいる。イスラエルは自らのイデオロギーが満たされさえすれば、人種隔離体制をとっても構わないのである。だがしかし、アパルトヘイト国家は持続可能ではない。アパルトヘイト国家の次の段階は、全ての人に平等な権利がある国家だ。その時ユダヤ人はイスラエルで少数派となり、そのため、ユダヤ人独自の国家を持つという概念を殺すことになるのだ。

  • ダニア・コレイラト・ハティブ博士はロビー活動を中心としたアメリカ-アラブ関係の専門家。ハティブ博士は、レバノンでトラックⅡ外交に重点的に取り組んでいるNGO「協力と平和構築のための研究センター」(Research Center for Cooperation and Peace Building)でセンター長を務めている。
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