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シリア制裁:次に何をすべきか?

シリアへの制裁緩和の議論は民間人への影響を中心に展開している。(ロイター)
シリアへの制裁緩和の議論は民間人への影響を中心に展開している。(ロイター)
26 Nov 2019 08:11:06 GMT9

シリア経済が打ち砕かれ、民間人が厳しい荒廃状況に苦しむ中、なぜシリアに対する制裁に関する議論がほとんどないのだろうか。学者や政治通の狭い輪の外では、誰もこれを議論したり、最も困窮している人々を助けるためにどのように様々な制裁を是正できるかを尋ねたりすることはない。

シリアへの制裁の主要な実施者である2つの勢力、米国とEUにそびえ立つ権力の回廊には少しも懸念の色が見えないだけでなく、彼らは議論をすることさえ望んでいない。これは、イラク、リビア、イランなど、他の多くの過去の制裁体制とは対照的である。米国の制裁ははるかに広範であるが、戦前、2011年以前の主に石油によるEU・シリア間貿易を考えると、EUの制裁はより関連性が高い。

シリアに対する制裁緩和の議論は民間人への影響を中心に展開している。シリアへの制裁は、すでに戦争とそれに伴う破壊に苦しむ人々に打撃を与えている。人口の約半分である約1,100万人が人道支援を必要としている。

米国によるイランへの最近の制裁はシリアのイランからの原油輸入を困難にし、これにより石油とマズート(暖房用油)のための長い行列と配給が生まれ、シリアの民間人にも影響を及ぼしている。医療機器の輸入も難しく、米国の免除ライセンスの入手すら非常に難しい。銀行業は事実上不可能であり、国外のシリア人にとってさえも、お金を振り込むどころか銀行口座を開設することさえ悪夢となっている。多くは非公式な送金システムの利用を余儀なくされているが、これは軍長や過激派グループに利益をもたらすだけであり、資金の流れを監視する試みからは完全に外れるものだ。

しかし、この点ははっきりさせておきたい:制裁の議論は、シリア政権の行動変容に対する期待を緩めるものであってはならない。政権は人道に対する犯罪を行い、悪質な人権侵害を行い、化学兵器を使用し、民間人や民間インフラの爆撃を行った。これを終わらせることは、国際社会のいかなる主要国にとっても優先事項であるべきである。

しかし、制裁は政権を妨害し、そのような犯罪行為を抑止できただろうか?これらの犯罪はすべて、過去8年間の制裁の実行中に起こった。制裁の結果、政権が攻撃的な行動を是正したという証拠はひとつもない。

終わりなき制裁は、すでにあまりに多くを耐えてきた人々にとって終わりなき苦しみに等しい。議論を始める時が来た。

クリス・ドイル

また、制裁は歴史からの強力な教訓も無視するものだ。サダム・フセインのイラク政権は制裁から恩恵を受け、イラク住民を捕虜とすることを可能にした。イスラエルによるガザ封鎖はハマスに権力を維持させている。キューバのカストロ政権は数十年にわたる米国の制裁を生き延びた。制裁が初期の後に政権に影響を与えることはめったにない。政権のシステムと取り巻きのネットワークは適応し、継続的に富を確保するための回避策を見つける。

では、米国とEUの制裁の政策意図は何なのだろうか。彼らは一貫したシリア政策すら持っているのだろうか?2019年には、どちらも制裁の目的がシリア政権を排除することだとは主張していない。「アサドを追放せよ」というフレーズは数年前に消滅している。シリアの反体制派のほとんどのグループでさえ、今では大部分がこのことを認識している。米国のシリア政策に何らかの意義があるとしても、対イランの最大の圧力政策の一部に過ぎず、シリア人に対する懸念はゼロである。

制裁は政権や政権の行動の変容にはつながらない。さらに、シリア政権の多くは制裁にかなり満足している。軍長と政権の取り巻きたちは制裁から大きな利益を得ており、その緩和は実際この権力基盤に脅威を与える可能性がある。制裁はまた、経済が持ち直さない理由について、政権に簡単な言い訳を提供するものでもある。

米国政府はシリアに関してキューバと同様の軌道に乗っており、数十年間にわたる政権に向かって進んでいる。制裁は低コストで可能で、政治的にも容認される。政治指導者たちは、シリアが何十年も孤立し禁輸状態に置かれるのを喜んで見ている。緩和どころか、制裁は厳しくなるだろう。「シーザー・シリア市民保護条例」が米国下院に入った。可決されれば、これらの制裁によりシリア経済の残骸や残された中産階級は壊滅するだろう。

制裁緩和はどうして起こるのだろうか?それは壮大な取引の一部だろうか?ありそうにはないが、明日にもバッシャール・アサドと会談を行うことを発表する能力すら十分に持つドナルド・トランプ米大統領の予測不可能な性質を考えれば、ありえないとは言い切れない。

もう一つの選択肢は、特定の条件に対する特定の制裁の段階的な緩和であろう。その場合の目的は、民間人の負担を軽減することのみとなる。これは、難民の安全な帰還、完全な化学兵器検査、民間人を標的とした爆撃の終結等の特定の措置に政権が合意することが条件となる。

EUはまた、復興資金が利用可能になるための基準を明確にしてもいい。分別を持つEU首脳陣は有意義な政治改革を待っているため巨額の資金を供出していないが、これが具体的にどのように定義されるのかは明らかになっていない。

シリア政権は自らにとって利益となるものを見たいと思うだろう。外交的孤立を終わらせることもその一つだ。取引を受け入れさせるため政権に圧力をかけることは、経済が再び開くのを見ようと必死で、政権が制裁緩和の弊害になることを受容しない政権支持者たちが行わなければならない。

可能性として高いのは米国の制裁は変わらないことで、EUの制裁が変わる可能性はかすかにありうるかもしれない。しかし、今シリアの民間人を助けたいと思っている人にとっては、当面政権がなくならないことを考えれば、厳しい質問が必要となる。終わりなき制裁は、すでにあまりに多くを耐えてきた人々にとって終わりなき苦しみに等しい。議論を始める時が来た。

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