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湾岸政治の基礎:初心者でもわかるカタールとの関係断絶

17 Jul 2019 05:07:07 GMT9
[caption id="attachment_320" align="alignnone" width="485"] 前カタール首長シェイク・ハマド・ビン・ハリファ・アルタニ(左)と前カタール首相および外務大臣ハマド・ビン・ジャシム・アルタニ(右)。(AFP)[/caption]

2019年7月17日

サウジアラビア、バーレーン、アラブ首長国連邦、エジプトからなる「反テロカルテット(ATQ)」がカタールとの国交を断絶し、貿易、旅行、外交の関係を絶ってから二年がたったが、関係断絶が直ちに終わる見通しはない。

しかし、断絶関係があまりに長い間続き、「新たな常態」になってしまった。ATQにとってきわめて重要なのは、こうした状況がどのように生じたか真実について、繰り返しくぎを刺し、カタールが資金を提供するロビイストと御用評論家の広範な(そしてお金のかかる)努力にもかかわらず、この問題においてカタールは犠牲者ではなく、悪役なのだということをはっきりさせることだ。

もちろん、誰もがこの事実を知っているわけではないし、一部の人はこれを受け入れないかもしれない。その理由は既得権益かもしれないし、もしかすると、地域の事情に精通していない若い外交官や情報担当官にありがちだが、ただ単に無知なのかもしれない。

これには、中東のあらゆる場所で(もちろんカタールを除く)民主主義を実現するために、イスラム過激派グループを支援するというカタール政府の「計画」を受け入れた、ホワイトハウスの元職員であるベン・ローズやその他のオバマ政権時代の役人が含まれる。そうした過激派の中にはテロリストに分類されているグループもあった。

 

国連・米国が指名手配するカタールを拠点とするテロリスト

ハリファ・ムハンマド・トゥルキ・アル・スバイ:南アジアのアルカイダの訓練キャンプに新兵を移すなど、アルカイダの上層部のために、またその代表として、財政的支援を提供してきた出資者及び調整役。

イブラヒム・イサ・ハジ・ムハンマド・アル・バクル:アルカイダへの財政支援と金融サービスを提供する調整役。

サド・ビン・サド・ムハンマド・シャリアン・アル・カビ:ヌスラ戦線に金融サービスを提供する調整役。資金を調達し、ヌスラ戦線に資金を送金し、グループへの資金活動の調整を行う。

アブド・アル・ラティフ・アブダラ・サリフ・アル・カワリ:アルカイダに金融サービスを提供する調整役。アルカイダのために送金を行い、資金を調達し、資金活動の調整を行う。

アブド・アル・ラフマン・ビン・ウマイヤー・アル・ヌアイミ:イラクのアルカイダ、アル・シャバブ、アルカイダの出資者および調整役。

2018年3月にドナルド・トランプ大統領によって解任されたレックス・ティラーソン米国務長官などには、このテロを支援する政権に共感する他の理由があったかもしれない。エクソンの上級役員として、ティラーソンは1990年代にカタールが莫大な富を蓄積するのを手助けし、ドーハに液化ガスの技術をもたらし、工場を建設し、2010年までに世界のガス市場におけるカタールのシェアを30%に押し上げた(そして、その過程で多くの人々を非常に裕福にした)。

それに、カタールが特定の魅力を享受する理由も理解できる。近隣諸国の大半に比べて小さな国なので、いじめを受けているふりをしやすいし、非人道的な扱いに苦しんでいるという虚偽の主張することができる。しかし、これはたった四カ国による断絶であり、一般のカタール人への影響を少なくするための特別な措置が講じられている。カタールは、ATQ以外であれば、自由に貿易を行い、対話をすることができる。さらに、サウジアラビアは、カタール当局者が王国で開催されるすべての湾岸協力会議(GCC)とアラブ諸国の首脳会議に招待され、カタールの巡礼者たちが「ウムラ」と「ハッジ」を行えるように特別な取り決めを定めた。

カタールがガザであるなど誰も考えていないし、断絶を批判する人に必要なのは、カタール政権の相反するメッセージを比較することだけだ。苦しんでいると言っているかと思えば、次の日には、より力を増し、より打たれ強くなったと言っている!いまだにキャビアとシャンパンが流れ込み、パリス・ヒルトンのような人物がホストを務める豪華なパーティーが開催され、毎年夏にカタール人の所有するスーパーカーがヨーロッパの国々の首都の通りを汚染していることに気付いた時に、ティラーソンのような初期の支持者でさえ態度を変えた。

 

一般人の目には、カタールによる欧米のビジネスベンチャー、進歩的なシンクタンクや、さらにはサッカークラブへの資金提供と後援は印象的なものに見える。何百万ドルもの金額が会社の銀行口座に振り込まれたり、チームが毎年、楽にフランスのサッカーリーグで優勝できたりする時、ヌスラ戦線や他のテロ組織を支援する国から資金がもたらされているということは忘れがちになる。国連と米国が指名手配しているテロリストは、ドーハで公然と制限を受けることなく暮らしているが、断絶を批判する人々がこれを知っているかどうか疑問に思わずにはいられない。さらに、サウジアラビアが正しいことをせずに、1994年にオサマ・ビン・ラディンの市民権を剥奪し、彼と彼の信奉者を指名手配リストに載せていなかったら、米国務省や情報アナリストはどのように反応しただろうかと疑問に思わざるを得ない。こうした問題の持つ二面性は常に不可解である。

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裏切りのテープ

2014年、2つの音声録音が、サウジアラビアが不安定になり、分裂することをカタール王室が望んでいることの証拠となった。音声録音に登場するアラブ連盟の会議が2008年にダマスカスで開催されていることから、同年以降のものであると考えられている。
録音では、当時のカタール首長で現首長タミム・ビン・ハマドの父であるハマド・ビン・ハリファ・アル・タニと、当時の首相兼外務大臣のハマド・ビン・ジャシム・アル・タニがサウジアラビアを非難し、カタール王家がリビアのムアマル・カダフィと話し合いをしているのが聞こえる。

ある録音では、ハマド・ビン・ジャシムが、12年後にはサウジアラビアはもはや存在せず、小さな国に分裂しているだろうと述べている。「この地域は火山に直面するだろう。サウジアラビアは革命に直面するだろう」と彼は言った。
ハマド・ビン・ハリファは、カタールがサウジアラビア王国に多大な問題を生じさせたことを認め、サウジアラビア政府が同じままでいることはなく、確かに終わりを迎えるだろうと述べた。さらに、アメリカ人がイラクで成功をおさめ、第二段階はサウジアラビアになるだろうと付け加えた。そして、エジプトとヨルダンの二国はサウジアラビアと協調しているので、尊厳に欠ける国だと発言した。
テープは、1992年以来ジュネーブに居住していた元カタール財務・石油大臣、シャイク・アブドゥル・アジズ・ビン・ハリファ・ビン・ハマド・アルタニの報道担当者の名前を冠したツイッターページを通じて公表された。

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しかし、もちろん、二面性はこれまでずっとカタールの公式の外交政策だった。これを理解し、「初心者のための中東政治講座」の必修として、私はアルジャジーラのアラビア語放送と英語放送とを比較することを強くお勧めする。前者では、カタールの精神的指導者で、憎悪の説教者であるユスフ・カラダウィが自爆攻撃を祝福し、ユダヤ人を罵っているのを目にするだろう。後者では、2022年のサッカーワールドカップでビールの30%割引が実施されるのを祝っているのが見られるだろう。

では、なぜそれでもカタールを犠牲者と見なす人がいるのだろう?今になって考えれば、サウジアラビアとATQの他の国々がカタールと断交したのは絶対的に正しいことであったが、方法に関してはもっといいやり方があったと私は信じている。2017年6月に何年も爆発寸前の状態にあった紛争が突如、深刻化し、カタールに対して13の要求リストが提示されたことは、世界を驚かせ、カタールが無実のふりをする手助けをした。ATQが異なる方法で自分たちの主張を提示し、その主張を構築するのにより多くの時間をかけたならば、はるかに多くの支持を得ることができただろう。

結局のところ、カタールに長年にわたるテロ支援(ATQだけでなくトランプ大統領自身も主張している)を止めるように要求することに不合理なことは何もない。これは強力な告発であり、アルジャジーラの閉鎖のような些細な要求と同梱するのは誤りだった(私はこれが間違っていたと以前に書いているが、ATQは問題がアラビア語放送のコンテンツがテロを美化していることであることを明らかにするべきだった)。

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手書きの告白

 

2017年7月11日、CNNは、秘密協定と呼ばれるものをカタールが2013年と2014年に湾岸諸国と結んでいたことを明らかにした。協定はエジプトとイエメン以外の国々の反政府勢力や敵対勢力にカタールが支援することを禁じていた。

この協定に従うというのが、2017年7月にアラブの反テロカルテットがカタールとの関係を修復するために定めた6つの条件に含まれていた。

CNNによると、最初の合意は、2013年11月23日付けで、手書きで作成されたものであり、サウジアラビア国王、カタール首長、クウェート首長が署名していた。

タミム・ビン・ハマド・アルタニは2013年6月にカタール首長の座に就いた。

首脳たちは、「逸脱した」グループへの財政・政治的支援も含めて、他の湾岸諸国の内政干渉を避けることを約束した。

リヤド協定と呼ばれる最初の合意は、特に近隣諸国を脅かす可能性のあるムスリム同胞団とイエメンの反政府グループを支援しないことに言及していた。同国の外相が署名した付属文書は、協定の実施について議論し、ムスリム同胞団とイエメンとサウジアラビアの外部グループへの支援を阻む措置が含まれていた。

この措置は、文書に署名したすべての国を適用対象とした。

2つ目の合意に関して、CNNは2014年11月16日付けで、上欄に「トップシークレット」と書かれており、バーレーン国王、アブダビ皇太子、アラブ首長国連邦首相の3人の署名が追加されていたと報道した。具体的には、署名国がエジプトの安定化を支援することが約束されていた。

CNNの報道後、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、バーレーン、エジプトは共同で、文書は「カタールが約束を果たさず、約束に完全に違反していることを明確に裏付けるものだ」と発表した。

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さらに重要なのは、関係断絶が始まった後に、サウジアラビアの情報筋(外務省や王立裁判所の高官に違いないと思う)が、シェイク・タミムが署名した2014年の合意内容をCNNにリークしたのは間違いだったということだ。本質的に、これはカタール首長によって作成され、保証人であるクウェート首長と証人であるGCC諸国の仲間の前で署名された、罪悪感の宣言であり、改革の誓約だった。この文書は、ATQが断行を実施する前の貴重な援護になっただろう。早く公表されれば、ATQはカタールが合意を実施する期限を設けるだけで済んだはずだ。合理的な遵守者はこれに異議を唱えることはできなかっただろう。

しかし、後悔先に立たず。多くの人は、ではこの2年間で一体何を達成できたのか、そして、この断交はGCCの団結を弱めたのではないかと訊くだろう。私はそうした問いを話半分に受け取る。元カタール首相のハマド・ビン・ジャシムがリビアの狂人ムアマル・カダフィと共謀してサウジアラビアを分裂させ王家を転覆しようとする音声録音が、本物であると証明され、オンラインで広く入手できる状態で、私たちはどうすれば団結できるというのだろう。

2017年の断交の恩恵が一つしかないとすれば、それは真実を隠していた仮面を剥ぎ取り、本当の問題を強制的に明らかにしたことだ。この後に待ち受けているのは、真の湾岸諸国の団結か、私たちが今までのように団結していたふりをして時間と労力を無駄にするのを止めるかの二択だ。

  • ファイサル・アッバスはアラブニュース編集長。ツイッター: @FaisalJAbbas

https://www.arabnews.com/node/1527281

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