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中東での抗議運動の連鎖、2020年も続く見通し

2019年12月30日、イラク南部の都市バスラで、車椅子でデモに参加する、国旗を身にまとったイラク人の男。(AFP)
2019年12月30日、イラク南部の都市バスラで、車椅子でデモに参加する、国旗を身にまとったイラク人の男。(AFP)
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01 Jan 2020 01:01:55 GMT9

中東と北アフリカの諸国ではこの1年、いくつかの大きな抗議運動が起き、政府高官の辞任に至ったものもあった。このことは、これらの抗議運動が「アラブの春2.0」なのかどうかについて、考察を生じさせてきた。2019年の抗議運動は、多くの意味で2011年の革命後の新しいデモの波である一方で、来年のこの地域を形作る上において役割を果たすことになる重要な違いもまたある。

最近のこの地域での重大な抗議運動の増大は、この1年に世界的に抗議運動の数が増大してきたように、世界的な傾向の一部である。香港からチリに至るまで、人々は徐々に街頭で声を上げつつあり、政府が人々のニーズを満たせていないことや、通常の政治システム内で変化を追求する機会が欠如していること対する幻滅感の増大を目立たせている。

イランからモロッコに至るまで、2019年はほとんどの国が重大な抗議運動に見舞われ、そのいくつかは規模と影響において歴史的なものであった。

スーダンの抗議運動は2018年12月、経済的な緊縮策に反応して始まり、すぐに同国の大統領を30年にわたって務めたオマル・アル=バシールの解任を求める運動に拡大した。スーダン軍は4月にバシールを権力の座から引きずり下ろしたが、抗議運動の参加者らは他国の経験からの教訓に学び、帰宅することを拒んだ。彼らは民主政治への移行を要求し続けた。6月、軍はそれに対して断固たる処置をとり、100人以上が亡くなった。それでも抗議運動は続き、8月には軍と抗議運動の参加者らとの間に、3年間の移行期間を設ける合意に達した。

アルジェリアでは、アブデルアジズ・ブーテフリカによる大統領5選計画に反対して、2月に抗議運動が始まった。ブーテフリカは4月に辞任したが、この抗議運動はアルジェリアの体制の根本的な変化には繋がらなかった。

9月にはエジプトが、政府が無価値なプロジェクトに金を使っているという認識や補助金が削減されるということに反応して、重大な抗議運動に見舞われた。エジプト政府は、2014年にアブドゥルファッターフ・アッ=シーシーが政権に就いて以来最大の逮捕者の波をもって応じた。この抗議運動は10月初頭には終了したが、経済的・政治的不満は対処されないままに留まっており、将来的にはさらなる抗議運動がありえそうだ。

いくつかのその他の国々――モロッコ、チュニジア、ヨルダン、イエメンなど――は、2019年に重大な抗議運動に見舞われたが、その近隣諸国のいくつかと同様の規模ではなかった。ガザ地区では、3月14日運動においてパレスチナ人がハマスに反対するデモを行い、これはハマスによる弾圧で終了した。2018年3月に始まった、ガザ地区のイスラエルとの国境沿いでの「帰還の大行進」運動もまた、継続している。

北アフリカが2019年初頭に歴史的な抗議運動に見舞われた一方で、同年の最終四半期には中東で最も影響力のある運動が起こった。

イラクでのデモは10月初頭に始まり、もともとは汚職や失業、貧困や基本的サービスの欠如に対する抗議運動であった。イランが抗議運動の参加者に対する弾圧に参加したとき、彼らの焦点はイラクへのイランの介入への反対にも拡大した。抗議運動の参加者らは今、2003年の米国主導の侵攻後に創設されたイラクの政治システムの終焉を要求している。弾圧は苛烈なもので、400人以上が亡くなったと報道されている。アーディル・アブドゥル=マフディー首相は11月に辞任したが、デモは続いている。

レバノンでは、政府がWhatsAppに課税を試みた後の10月半ば、国内の複数地域で抗議運動が始まった。他の諸国と同様、この税は小さな火花にあたるもので、汚職・失業・経済危機・政府サービスの不足に関するいっそう重大な潜在的な不満に火をつけた。これらは即座に、レバノンの宗派別の政治システムへの反対を含むものに拡大した。サード・ハリーリー首相は10月に退陣したが、抗議運動は続き、デモの参加者は「それらのすべてはそれらのすべてを意味する」と連呼し、政治エリートの一掃を要求した。

11月の半ば、イラン人たちは、1979年の革命以来この国で起きた最大の抗議運動のひとつを敢行した。拙く実施されたガス価格の値上げが引き金となった抗議運動は、経済危機や汚職、十分なサービスを提供できない政府の無能、社会的・政治的自由の欠如に対する深い怒りを強調した。米国によるイランへの制裁が経済的な苦しみの主な原因だが、怒りのほとんどは、政府がその影響に効果的に対処できないことに向けられていた。政府による弾圧は規模において歴史的なもので、ほとんど完全なインターネット遮断が数日間続き、200人以上が亡くなり、大量逮捕が実施された。この苛烈な対処は抗議運動を今のところ終わらせているが、根本的な原因は変化しそうにない。

それぞれの国に、抗議運動に結果した固有の問題があったが、著しい共通性がある。

ケリー・ボイド・アンダーソン

それぞれの国に、抗議運動に結果した固有の問題があったが、著しい共通性がある。すべての国において、経済的な不満が主な原因であった。若い人々は、仕事を見つけ、基本的な必要を満たすべく苦闘している。汚職への怒りや政府への信頼の欠如もまた大きな要因であった。不平等や、支配階級との密接な繋がりのある人たちだけが雇用やビジネスの機会を得られる見込みがあるという感覚が、この組み合わせに加わった。いくつかの場合においては、長期的な支配者や長期にわたる体制は、停滞しており、普通の人々から離れているように思われていた。

抗議運動の参加者の不満には、政治的な懸念もまた含まれていた。いくつかの場合、彼らはその国の政治システムの根本的な変革を要求していた。これは特に、その体制が長年の宗派間の分断を反映しているレバノンとイラクにおいて顕著である。イラクでは抗議運動の大半がシーア派の共同体によるシーア派の指導者への反対から来ており、このことはイラクにおいてすら、宗派のアイデンティティには限られた力しかないのだということを示している。レバノンでは、この抗議運動は明白に宗派のアイデンティティを超越しようと試みてきた。

最近の抗議運動の波はまた、イランが周辺地域に影響を与えることへの反対意見を強調してきた。イラクのデモ参加者たちは、イラクへのイランの関与への反対を強く表明した。レバノンの抗議運動参加者は、彼らが反対する統治アクターにヒズボラを含んでいた。そしてイランの抗議運動参加者らは、「死ぬ価値があるのは、イランのためだけだ」と言って、政府の中東他地域への関与に反対の声を上げた。

ほとんどの抗議運動は、組織されず指導者がいないままに留まっている。スーダンを例外として、その組織の欠如はこれまでに、彼らが長期的な政治的変化を駆動する能力を削いできた。彼らはしばしば、現在の体制の何を取り換えたいのかについて、曖昧だ。

2011年のアラブの春と、多くの類似点がある。経済的な不満と基本的な権利の要求が、核心的な原動力なのだ。この地域の人口は依然として非常に若く、そして若い人々は根本的な政治的・経済的変革を要求している。依然としてソーシャルメディアは抗議運動の組織において役割を果たしているが、政府もまたソーシャルメディアの利用法を学んできた。暴力的な政府の反応に直面したときでも、ほとんどの抗議運動は――すべてではないものの――平和的なものであった。

しかし、抗議運動の参加者たちは、過去からいくつかの教訓を学んできた。ひとつは、ひとりの政治的指導者の解任は、彼らの臨む変革には繋がらないということだ。スーダン、アルジェリア、レバノン、イラクでは、抗議運動の参加者たちは、より深い変革を実施するよう政府に圧力をかけ続けてきた。その他の教訓としては、宗派間の分断の超越に価値を置くこと、国際的な支援ではなく彼ら自身の能力に依ることの重要性などがある。

中東、北アフリカ、そして世界中では、抗議運動の参加者と政府は適応しつつある。さまざまな国々の抗議運動は、お互いから教訓を学び、戦術と戦略を試みている。多くの政府は、古い抑圧的な戦略を新しい技術と資源の増大でアップデートしている。

これらの要因は――抗議運動の参加者が抗議運動の組織に上達し、政府が反対派の力を削ぐことに上達するにつれ――中東ならびに北アフリカの大半を苛立ちの連鎖の状況に固定しそうだ。多くの政府、特にイラクやレバノンのような半民主国家の政府は、抗議運動の参加者の要求を満たすこと、異議を完全に抑圧することの両方に失敗するだろう。現在進行中の不満は、人々を街頭に駆り立て続けるだろう。

しかし、2020年のほとんどの抗議運動は、彼らが反対する体制を完全に転覆させたり、より効果的な政治的・経済的制度の創造に向けた大きな進歩をなしたりといったことには、失敗するだろう。これは、ソーシャルメディアに依存していて、彼らがストリートの力を本当の変革に変えるのを助けうる内部の組織・リーダーシップ・政策的目標・戦略を築くのに失敗している抗議運動には、特に当てはまることである。

急進化するリスクもある。政府が人々の基本的な経済的・個人的安全の必要性を満たせず、人々により高い段階の人間的なニーズや関心を追求する余裕を与えられないとき、人々はその政府の外側で物事を変える方法を探すだろう。抗議運動は、人々がそれをやる主要かつ平和的な方法である。もしも圧政がその発散の場を閉ざすならば、あるいは抗議運動が絶えず失敗するならば、幾人かはより暴力的な手段に頼るかもしれない。

来年は、進行中の抗議運動の連鎖が見られそうだ。それには、政府そして反体制派による暴力が増大する可能性を含む。この連鎖から抜け出す道がある。抗議運動の参加者は、組織を作り、実践可能な要求をつくり、将来に向けた明白なビジョンを明確に述べることだ。そして政府は、即座かつ決定的な行動をとり、汚職への対処や政治システムの改革を含む、これらの要求に対処することだ。

ケリー・ボイド・アンダーソンは、著述家であり、国際安全保障問題や中東の政治的・ビジネス的リスクのプロフェッショナル・アナリストとして14年以上の経験のある、政治リスクコンサルタントである。Twitter: @KBAresearch

 

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