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クジラの化石新発見 サウジアラビアの古代の海洋環境の解明に一歩

クジラの起源の物語は、陸生の祖先からの進化、そこから半水生となるための海洋環境での阻害条件への適応などの段階を含んでいる。 (提供写真)
クジラの起源の物語は、陸生の祖先からの進化、そこから半水生となるための海洋環境での阻害条件への適応などの段階を含んでいる。 (提供写真)
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06 Jul 2021 09:07:47 GMT9
06 Jul 2021 09:07:47 GMT9
  • サウジアラビアのジャウフ州で古代のクジラの化石が発見され注目を集めている

ナダ・ハミード

ジェッダ:サウジアラビアのジャウフ州で3700万年前に絶滅した古代クジラの骨の化石が発見され、同国の地質と古代の海洋環境について多くの情報をもたらしている。

6月29日に公開された発見内容によると、クジラの骨の化石を発見したのは、サウジアラビア内外の地質学者と古生物学者8人からなるグループである。

その科学的な意義を高く評価されている今回の発見には、サウジ地質調査所(Saudi Geological Survey、SGS)のチームが中心的な役割を果たした。クジラの化石は、はるか3700万年前の始新世後期後半として知られるプリアボニアン時代に属する、砂と岩の山々に覆われた地域で発見された。

発見により、サウジアラビア北西部における古代海洋哺乳類の地理的分布の解明が進むものと見られている。

アラブニュースは、今回の発見をもたらした調査の計画者の一人であり、サウジ地質調査所の古生物学・地質学技術顧問を務めている、米国のイヤド・ザルムート氏にインタビューした。ザルムート氏は、この化石は絶滅した原クジラ科に分類される古代クジラの希少種に属していると説明した。

今回発見された骨の化石には、尾の端から胸の上部までの完全な関節式脊柱、関節式前肢と肩甲骨、肋骨、頭蓋骨と下顎の一部が含まれている。

ザルムート氏ははアラブニュースに次のように語っている。「これらの化石は、以前のグループからさらに枝分かれしたクジラの一種であり、後肢はより退化し、前肢は平らになって全体的にヒレに似てきており、首は短くなり、胴体が伸び、尾は尾びれに変化してきています。最も重要な特徴は頭蓋骨に見られ、鼻骨が額に向かって非常に顕著に後退し、肉食性のような頬の歯の複雑さがなくなってきているのが分かります」

「このクジラは、大きさと形状が、1902年にエジプト西部の砂漠で発見されたStromerius nidensisと呼ばれる小さなクジラの部分的骨格に類似しています。そのエジプトの化石は、ファユム州にある始新世後期の岩石から採取されたものでした」

「しかし、今回サウジアラビアで発見された化石はより完全なもので、このグループのクジラについてより多くの情報をもたらしてくれるでしょう」とザルムート氏は付け加えた。

「今回発見されたクジラはこのクジラの科の中で最小のもので、ドルドン・アトロクス(Dorudon atrox)のわずか半分またはおそらく3分の1の大きさです。」

今回化石が発見された哺乳動物は体長約3メートルの小型のクジラである。完全に水生で、胴体が長く、尾の先端には尾びれが進化していたとも思われ、体の動きは蛇に似ていた。

体重は500から600キログラムの間だっただろうと科学者たちは見ている。「重量の推定は新しく発見された標本および同じ地質時代に見つかった世界中の他のクジラの縮小計算に基づいたものです」とザルムート氏は説明している。

新しいクジラの化石は、ヨルダンとの国境に近いサウジアラビア北西部クライヤト州の北数キロにあるアルラシュラシヤの崖で発見された。

ザルムート氏は、発見された地域は雨水の蓄積が多いことが知られていると指摘し、「今回の化石が発見されたのは、炭酸カルシウムを多量に含む瀝青質の白色石灰岩と泥灰土の丘陵地帯でした」と述べた。

同氏によると、サウジアラビアの砂漠には、さらに多くの水生哺乳類の化石が埋もれている可能性があるという。

「始新世以降の海底堆積物が露出している場所ならどこでも、クジラとジュゴンの化石が発見されてもおかしくありません。サウジアラビアでは、始新世中期および後期の岩石群と累層がいくつか露出しています(アルラシュラシヤ累層もその1つです)。これらの堆積物を注意深く調べてみれば、海洋哺乳類の化石が見つかると私は確信しています。私の知る限りでは、始新世に存在していた海洋哺乳類はクジラ(原クジラ目)とジュゴン(ジュゴン目)だけだったはずです。」

進化のタイムライン

クジラの起源の物語は、陸生の祖先からの進化、そこから半水生となるための海洋環境での阻害条件への適応、そして最終的な完全水生化という各段階を含んでいる。

ザルムート氏によると、海洋哺乳類の適応には3つのシナリオがあるとのことだ。「完全な水生生物への大幅な変容と適応の歴史は、気候変動による変化の見事な例と言えます。気候変動は、周囲の生態系と環境に影響を及ぼし、ひいてはこれらの海洋生物たちの食物と繁殖サイクルに影響していったのです。

化石は、サウジアラビア北西部クライヤト州の北数キロにあるアルラシュラシヤの崖で発見された。

「こうした変化が、絶滅、あるいは生息地また摂食行動や食物の供給源の変化、などのさまざまなシナリオを通じて、海中での生存への最初は部分的な適応、そして最終的には完全な水性化へと動物たちを駆り立てたのかもしれません」

ザルムート氏は次のように付け加えた。「海洋哺乳類は3つのシナリオすべてを経験したと思います。始新世初期に存在していた初期の形態のいくつかはすぐに絶滅し、半水生生物となって生き残ったものもありますが、生き残ったクジラのほとんどは完全に水生となりました。死ぬつもりでもない限り彼らはもう陸に戻らないでしょう。」

ザルムート氏によると、今回の化石の発見は、サウジアラビアでほぼ完全な骨格の形で発見された唯一の始新世のクジラだという。

「サウジ地質調査所の古生物学チームは、これらの化石が完全な骨格を示しており、魅力的な科学研究の土台となり、またその骨格のレプリカが、国内のおよび世界中の国際的な博物館に将来的に展示されるようになるだろうと信じています。」

「新たに任命された地質調査所のアブドラ・アルシャムラニCEOおよび過去の所長たちが、サウジアラビアの長い歴史の研究に努力と支援をしてくれたことに心から感謝しています。」とザルムート氏は語った。

サウジ地質調査所は、経験豊富で熟練した古生物学チームが能力を発揮している、サウジアラビアの専門機関である。調査所の古生物学ラボラトリーで使用される機器、ツール、および材料は、従来の古生物学手法とより高度な技術を組み合わせたものである。

古生物学チームは、経験豊富な地元および国際的な古生物学分野のアドバイザー、および古脊椎動物学会や古生物学会などの科学団体の助けを借りて、過去15年間に古生物学におけるいくつかの画期的な発見に貢献してきた。

 

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