ニューヨーク：コロナウイルス感染の懸念により、店や娯楽施設への人足は途絶え、イベントは中止となり、取引や旅行は削減され、すでに低迷中の金融市場はさらに下降し、金曜日にそれはもはや世界経済危機の様相を呈し始めた。

多くの企業が従業員に自宅待機を命じ、役所は地域を閉鎖して学校を休みにした。感染拡大を阻止しようとのさまざまな取り組みが、職や給与や収益を脅かしている。

「これは病気よりも経済的な意味で回復が難しいといえる事態です」とピーターソン国際経済研究所のシニア研究員であるヤコブ・キルケゴール氏は述べた。「都市を隔離すれば……経済活動が破壊され、それを回復させることはできません」

感染が発生した国は60カ国近くに上り、メキシコ、ベラルーシ、リトアニア、ニュージーランド、ナイジェリア、アゼルバイジャン、アイスランド、オランダなどが第一感染者を報告している。世界で8万3000人以上が罹患し、死者は2800人を超えた。

12月に流行が発生した中国では、新たな感染の勢いは収まっており、土曜日午前の報告によれば過去24時間の新たな感染者数は427名、死者は47名とされた。それらの大部分は流行発生地である武漢市のものだ。

中国本土の新たな感染者数は、過去4日で500名以下と収束してきており、それらのほぼすべてが武漢市またはその周辺の湖北省のものであった。

退院数が新たな入院数を大幅に上回る現在、武漢市内16カ所の臨時治療センターには5000以上の空きベッドがあると、国家衛生健康委員会主任の馬暁偉氏は金曜日に武漢市での記者会見で述べた。

2番目に感染が猛威を振るう韓国では土曜日午前に、新たに594人の感染者数が発表された。1月末に最初の感染が確認されて以降、1日の伸びとしては最大である。イタリア、そして34名の死亡者と388名の発症者の出たイランで発生した患者クラスターは、他国の人々への感染をもたらしている。フランスやドイツでも数が増加し、何十名もの感染が発生している。

世界保健機関の事務局長は金曜日に、ウイルスが世界に拡大するリスクは「非常に高い」と発表し、「感染者数と感染国数は増え続けている」とした。

アントニオ・グレーテス国連事務総長は各国政府に、「感染を封じ込めためにできる限りのことをするように」と促した。

「我々は封じ込めが可能であることは知っていますが、その機会は狭まってきています」と国連事務総長はニューヨークの記者会見で述べた。

経済的波紋はすでに世界中に及んでいる。

世界の株式市場は金曜日に再び急落した。ウォール街ではダウ・ジョーンズ指数がさらなる打撃を受けて360ポイント近く下落して引けた。ダウは直近最高値から14％以上落ち込み、世界的経済危機であった2008年以来、最悪の週となった。

影響は、日頃多くの人々が仕事や遊びや売買活動をしている場所が静まり返っている状況を見ても明らかだ。

「ほとんど誰もやって来ません」と、人が疎らになったソウルの広蔵市場でドーナツや海苔巻きを売るキム・ユンオクさんは言った。「感染拡大がすぐにでも収まることを願うしかありません」

アジアでは、東京ディズニーランドとユニバーサルスタジオ・ジャパンが休園を発表し、Kポップグループ「防弾少年団」の一連のコンサートなど、何万人もの人々が訪れるはずであったイベントが中止になった。国営の韓国輸出入銀行は、行員にウイルス陽性反応が出たためにソウルの本社を閉鎖し、他の社員800名に自宅勤務を命じた。日本の当局者たちは、すべての学校を4月初旬まで休校にすべく準備した。

アジア以外では最多の888名の発症が報告されたイタリアでは、ホテル予約が落ち込み、ジュセッペ・コンテ首相が景気後退の予測を発表した。ベネチアで土産物店を30年営むフラビオ・ガスタルディさんのような商店経営者は、この打撃のなかで生き延びることができるかどうか不安を感じている。

「直ぐに店を閉めることになるでしょう」と彼は言った。

スイス政府は1000人以上のイベントを禁止し、ドイツのケルン大聖堂では感染拡大への懸念から聖水盤が空にされた。

金曜日に発行された『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』の記事によれば、中国全土500以上の病院の患者1099名を基にして出したCOVID-19とされる感染症による死亡率は、1.4%であると中国の衛生健康関連当局者は述べている。

無症状または症状の軽い事例がさらに多くあるものと想定すれば、死亡率は「1%を大きく下回る可能性がある」と米国保健関連当局者は同医学誌の論説文で述べている。そうであるとすればこのウイルスは、遺伝子的に似通ったSARS（重症急性呼吸器症候群）やMERS（中東呼吸器症候群）のような病気というよりも、強力な季節性インフルエンザのようなものであるといえるかも知れない。

しかしながらその感染し易さを考えれば、世界じゅうに拡大して多くの人々を死に至らしめる可能性はある。

「これはコレラやペストではありません」とベネチア市経済開発審議員のシモーネ・ベントゥリーニ氏は述べた。イタリアのベネチア市では昨年の歴史的な洪水によりすでに観光業が打撃を被っているところへ、ウイルス感染のニュースがさらに追い打ちをかけている。「それよりも我々が心配するのはむしろ経済的な損失です」

ヨーロッパ経済はすでに景気後退の瀬戸際にある。ドイツの景況感指数は先週急激に落ち込み、投資や拡張計画を先送りする企業も出てくることを示唆している。ドイツの製造業者にとって中国は巨大な輸出市場だ。

米国では大手オンライン小売業者のアマゾンが金曜日に、80万人の従業員全員に、必要性の低い国内および国外の出張を延期するよう指示した。

連邦準備制度理事会のジェローム・パウエル議長は、米国経済は引き続き堅調であり、為政者たちは必要とあらば「我々のツールを使って」経済を支えるだろうと述べた。

ドナルド・トランプ大統領の経済最高顧問を務めるラリー・クドロー氏は、金融市場の急落は長期的な影響が不確かな感染拡大への過剰反応だろうと記者会見で述べた。

「サプライチェーンに大きな混乱の兆候は見られません。何も起きていないと言おうとしているわけではありません。影響はあるでしょうが、率直に言って、現時点では大きな影響ではありません」とクドロー氏は述べた。

バンコクなどではすでに打撃を被っており、プラチナファッションモールの商店主たちが「賃貸料を下げろ！」と叫んだり「観光客は来るな、店が迷惑する」と書かれたボードを掲げたりするなどしてフラッシュモブを起こした。

コンサルティング会社のキャピタルエコノミクスによれば、タイを訪れる観光客は前年比で50%減少しているという。

衣料品店を経営するカンヤ・ヨンララクさんは、売上がたったの1000バーツ（32ドル）に落ち込む日もあり、賃貸料のローンを支払うのに苦労していると述べた。彼女の店は過去に洪水や政治危機を乗り切ってきたが、今回の状況はそれ以上に厳しいという。

「コロナウイルスはこれまでみんなが直面したなかでも最悪の事態です」と仲間の店舗経営者たちについても語った。

今年の世界の経済成長率は2.4%に落ち込むと経済学者たちは予測しているが、これは2009年の大不況以来の低迷であり、これより前に3%近くとした予測から下がった。米国については2019年の2.3%から、今年の予測はわずか1.7%の成長へと落ち込んでいる。

しかし、もしCOVID-19が世界的パンデミックとなればその影響はさらに悪化し、米国や世界の経済は不況に突入する可能性があると経済学者たちは予想する。

「もし米国でより多くの感染が出始めた場合、もし米国民が国内旅行を控え始めた場合、もし米国民が仕事や店に行かずに家にこもり始めた場合、その打撃は著しく深刻化すると思います」とPNCファイナンシャルの経済専門家であるガス・ファウチャー氏は述べた。

WHOが警戒レベルを引き上げた後、同機関の緊急プログラム責任者であるマイケル・ライアン氏は、この状況を「世界中すべての政府の現実性調査」と呼んだ。

「目を覚まして、備えてください」と彼は言った。「ウイルスはそこまで来ているかも知れません」

AP通信