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サウジアラビア繁栄のためのJCCP国際石油・ガス協力機関の継続的事業活動

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04 Sep 2020 05:09:15 GMT9
04 Sep 2020 05:09:15 GMT9

アレキサンダー ウッドマン

JCCP国際石油・ガス協力機関は、産油・産ガス国と日本との人材育成事業、技術協力事業を通じて友好関係を増進することを目的として、1981年に設立されました。

JCCPは、石油ダウンストリーム分野で、日本のビジネス文化モデル、経験とホスピタリティーに基く、優れたかつ魅力のある知識を提供する世界最高のNPOを目指します。JCCP事業活動は、日本と海外における人材育成事業、技術協力事業、連携促進事業から成り立っています。

JCCPは、「其々の社会におけるステークホルダーとの強固な関係の尊重」を大切にしています。JCCPは設立以来、サウジアラビアを含む産油・産ガス国の政府、企業と共同事業を誠心誠意行って来ました。

1992年から、毎年KFUPM (King Fahd University of Petroleum and Minerals, キングファハド石油鉱物資源大学) とサウジアラビア-日本 合同シンポジウムを行って来ました。また、これまで累計1,000人以上のサウジアラビア人研修生をJCCP研修プログラムへの参加として、日本へ受け入れました。私は、JCCPアル・コバール事務所長、岩松栄治氏と、サウジアラビアと日本による共同事業に関して議論する素晴らしい機会を得ました。

アレキサンダー:2021年はJCCP国際石油・ガス協力機関が創立40周年を迎えます。これまでの連続的発展に満ちた40年間をどう総括しますか?

岩松:JCCP国際石油・ガス協力機関は、産油・産ガス国と日本との人材育成事業、技術協力事業を通じて友好関係を増進し、日本の石油・ガスの安定供給の確保に貢献することを目的として、1981年に設立されました。これまで精製・物流・販売などの石油・天然ガスダウンストリーム分野において、経済産業省の援助を受け、人と技術の交流を促進する事業を行って来ました。その事業は、人材育成事業、技術協力事業、連携促進事業から成り立っています。

これまで約40年間に渡り、人材育成事業では25,553 人の研修生を受け入れ(サウジアラビアからは1,187人)、5,692人の専門家を派遣しました(サウジアラビアへは274人)。技術協力事業では、これまで255件のプロジェクトを実施しました(サウジアラビアとは51件)。

 

連携促進事業では、計38回の国際シンポジウム、特定技術テーマ別合同シンポジウム、産油国ネットワーク会議(同窓会)などを行って来ました。これらのシンポジウムには、サウジアラムコ、エネルギー省から専門家、またはステークホルダーの代表者として参加頂きました。特に私は、サウジアラムコと共催で実施して来ました特定技術テーマ別合同シンポジウムについて強調したいと思います。このシンポジウムは、2016年より毎年行ってきており、2020年は、「炭素循環経済」と題し10月実施で準備を進めております。

アレキサンダー:JCCPは、石油ダウンストリーム分野で世界最高のNPOを目指しています。これまでの25,000 人以上の研修生を魅了した日本式マネージメントモデル、人材開発においては、何が特異的なのでしょうか。

岩松:私は、「チームワーク」という一言を用いて、日本式マネージメントと人材開発手法を説明できると思います。歴史的に日本は農耕民族であり古来、家族、隣近所で協力して稲作を行って来ました。田植え、刈り取りなどは、到底一人では実施できない作業です。それがベースとなり日本では、「和を以て尊しと成す。」という文化が生まれました。

これがビジネスの世界でも重要視されるようになり、日本的経営、人材育成の特徴となっています。実際の研修では、チームワーク発揮のためには、Top Down だけではなく、時にはBottom Up も必要であること、また、チームとして力を発揮するために、報告・連絡・相談が必要であることなどを事例を通して紹介します。

報告(Hokoku)・連絡(Renraku)・相談(Sodan)の各日本語の頭文字を繋げて、「Ho-Ren-So」が、日本式問題解決において重要である、と私達は言っていますが、この「Ho-Ren-So」は日本語で「ほうれん草」を意味しており、私達日本人は馴染みの深い言葉として受け止めています。また、「Kaizen」も重要な要素の一つで、業務の改善を通してチームワークの発揮、人材育成に繋げていこうとしています。

アレキサンダー:JCCPは、石油・天然ガスダウンストリーム分野で、精製、物流、販売に関する人と技術の交流を進めています。販売における交流はどのように進めていますか?

岩松:人材開発事業においては、研修対象は、経営管理者・スタッフからエンジニア、研究者、販売従事者に至るまで広範囲に及びます。販売従事者を対象とした研修では、 ガソリンを中心に日本の小売市場と販売業者の実情につき、実際に小売店を訪問し経営者自身から語って頂き、研修生の販売に関する視野を広めて頂きます。石油技術者向けの研修においては、実際の製油所現場訪問が好評なように、販売研修では実際の小売店現場の訪問が好評です。アレキサンダー:「其々の社会におけるステークホルダーとの強固な関係の尊重」について、JCCPは、異なる文化と社会に対して、特にサウジアラビアに対してどのようにカリキュラムを構築して来ましたか?

岩松:私達JCCPは、「異なる文化と社会」を尊重して事業を行っています。例えば、サウジアラビアはイスラム国ですから、モスリムの文化を尊重します。具体的には、日本で行う研修においては、お祈りのための時間・場所を配慮します。また、Welcome Party, Farewell Party では、食べ物・飲み物に気を付けています。日本で行う研修で日本の企業を訪問するケースがありますが、このJCCP研修のために、モスリムのお祈りのための手足洗い場を改造した企業があります。また、女性に対する写真撮影にも配慮しており、メンバーリスト作成のための顔写真撮影、企業訪問時の記念写真などにおいては、研修参加者の意思を尊重しています。

アレキサンダー:JCCP アル・コバール事務所長として、サウジアラビア人人材のポテンシャルをどのように感じていますか。サウジアラビアと日本の国風の違いは何ですか?  

岩松:シンプルで、しかし大変重要な例を示して回答致します。日本人もサウジアラビア人も、もともと、家・親族での結びつきを大事にする、高齢者を尊重する、という考え方が似ていると思います。日本では、祖父・祖母から孫に至るまでの3世代が一家で暮らすことが、一家団欒の典型のように見られて来ました。

サウジアラビアでは、ラマダン時の夜の食事会などを含めて、日頃から家族・親戚で集まる機会が多くまたそれを大変重要視していると聞きます。さらには、モスクでは毎週金曜日の礼拝時、長老が説教をされますが、聴衆はその長老を敬い、説教を熱心に拝聴すると聞きます。

私は、JCCP アル・コバール事務所長として、サウジアラビア、サウジアラムコを、私の家族の一員として捉えて交流をさせて頂き、またその中で、経験豊かな方を尊重しながら、サウジアラビアにて実りある交流を心がけたいと思います。結論として、私は、サウジアラビアと日本の双方の社会において最も重要な価値観は、相手を尊重することだと思います。この価値観により、成功する会社・国の中で社風・国風が醸成されていきます。

アレキサンダー:個人志向の組織とチームワーク志向の組織との違いを議論しましょう。あなたは、JCCP アル・コバール事務所におけるチームワークをどのように実践して来ましたか?

岩松:私は、優れたチームワークで、JCCP アル・コバール事務所を運営したいと考えています。そのために、各人が気軽にいろいろな意見を出し合い相互理解を進めていける雰囲気作りを心がけています。例えば、毎週、第一日目の日曜日には、朝一でWeekly Meetingを実施し、その週の予定、懸案事項の対応などを話し合います。その話し合いに、各人が積極的に参加してもらえるよう、日頃から良好な人間関係を構築することを心がけています。例えば、毎朝の会話を単に「Good morning. 」のみで終わらせないよう、何かの話題を出して楽しく会話をしています。例えば、私はサウジアラビアの文化に大変興味を持っていますが、食べ物・飲み物のこと、ラマダンのこと、お祈りのこと、アラビア語のことなどを話題に出します。

先日は、モスリムがラマダン月が終わってもその翌月に自発的に追加で6日間、日中の断食を行う「Sitta min Shawwal」のことを初めて知りましたが、それらの会話を通じて良好な人間関係の維持を試みています。

アレキサンダー:石油業界へのJCCPの独特な貢献は何でしょうか?

岩松:JCCPが、どのように石油業界に貢献してきたかの多くの例の中から独特な例を一つ紹介致します。JCCP本部には、ミニチュアプラントと繋がったトレーニング用DCSシミュレータを設置しています。DCSとは、”Distributed Control System” の略で、プラントを監視、制御する設備で、実際の製油所に設置されています。例えば、製油所のさまざまな装置の温度、圧力、液面レベルなどを監視、制御します。ミニュチュアプラントは1ユニットにつき4つの水槽を有しており(実装置におけるタンクをイメージしています)、それが3ユニットあって、水槽の液面レベルなどをDCSシステムにて監視、制御できます。JCCPにおける研修では、このDCSシステムを利用してミニチュアプラントを監視、制御し、DCS操作を実体験できます。

特に、液面レベルについて実装置ではタンクを外からは見えませんが、このミニチュアプラントでは、水槽を透明な材料で製造しているため外から見られるようになっています。また、液として水を利用しており安全です。実装置の温度、圧力、液面レベルなどを制御する方法の一つとして良く利用されるPID制御がありますが、このシミュレータを用いて、PID制御における制御パラメータのチューニング方法、及び運転操作画面や制御ロジックの構築・保存方法等について、ハンズオンでの実習が可能です。

このタイプのDCSシミュレータは、他に設置例が少なく大変貴重です。また大画面ディスプレーや近代的なオペレーターディスクで最新の制御室をイメージしています。これらを用いた研修はサウジアラビアを始めとして産油・産ガス国からの研修生から高評価を得ており、大変独特なメニューです。

アレキサンダー:技術協力事業について、いつ、そしてどのように産油・産ガス国企業との「基礎調査事業」、「支援化確認事業」、「共同事業」へと繋がるアイディアが生まれるのでしょうか?

岩松:各産油・産ガス国企業のトップマネージメントとJCCPのCEOの間で書簡交換により協力の枠組みを合意し年度のプログラム計画、レビュー、それに基く次年度のプログラム策定等を行って来ています。それに伴いトップ同士が定期的に会談を行い、当年度の協力プログラムのレビューを行うと共に次年度の協力プログラムの同意を行っています。このようなプロセスの中で、産油・産ガス国からのニーズが明確になり、「基礎調査事業」、「支援化確認事業」、「共同事業」に、繋がっていきます。

アレキサンダー:1992年から、毎年サウジアラビアで、サウジアラビア日本 合同シンポジウムがKFUPMと行われて来ました。産油国における特にKFUPMの明確なコンセプトの重要性は何だと思いますか?

岩松:KFUPMの役割を強調する前に、JCCP-KFUPM 共同事業の具体例を紹介します。1992年から始まったサウジアラビア-日本 合同シンポジウムは、2014年までJCCPとKFUPM が実施して来まして、2015年からはサウジアラムコが参加しています。私は、1995年から1998年に、アル・コバールに駐在し、当時のPEC (Petroleum Energy Center, 石油産業活性化センター、後に一部がJCCPに移管される) とKFUPMとの共同研究(水素化分解触媒の開発)に従事しました。KFUPM は新技術の開発に意欲的であり、私共の最新実験装置の導入を歓迎して下さいました。また、チームワーク良く種々の研究成果、例えば、特許取得、科学雑誌への掲載、サウジアラビア-日本 合同シンポジウムを含む国際会議・セミナーでの発表などを生み出すことができました。その後、2007年から研究者長期派遣事業が行われて来ており、毎年日本から大学教授クラスの専門家がKFUPM に派遣されています。

また、JCCP事業成果の一つとして重要な「HS-FCC (High Severity Fluid Catalytic Cracking, 高過酷度流動接触分解) 技術の開発」は、まさしく、KFUPMでスタートした基礎研究が商業化に結びついたもので、該大学があったからこその成果です。今後とも、KFUPMには研究分野において、サウジアラビアでのリーダー的存在を発揮して頂きたいと思います。

アレキサンダー:「教育と若者」と言えば、サウジアラビアの研修生、または経験を積んだ専門家と培った経験を紹介頂けますか?

岩松:私は2014年7月にJCCP所属になって以降、2019年12月まで東京の池袋本部にて人材開発部に所属し、計装・制御関係コースの研修講師を務めました。サウジアラビアの研修生は、真面目で、中東産油国をリードする側面を持っていました。彼らは、研修プログラムの中で積極的に質問を行い講義を盛り上げると共に、研修生参加者全員の理解が進むような質問もしていました。一方で、ややもすると時間にルーズになりがちな研修生の中において、時間をきちんと守ろうとするJCCPスタッフに協力的なサウジアラビ人も居て大変助かりました。彼は、講義開始時間になって研修生が全員集まっていない状況でも「時間になりましたから、始めましょう。」とJCCPをサポートして頂き、その結果「時間になったら始めるJCCPの講義」が定着し、研修生が時間通りに集まるようになりました。また、私が、「高度プロセス制御コ-ス」のメインコーディネーターを務めた時、最終日の研修レビューにてサウジアラビア人研修生から「日本にて、より多くの企業から「高度プロセス制御」の講義を聞きたい。」との要望があり、それが基で、翌年から企業からの講義枠を増やして研修生から好評でした。

 

アレキサンダー:「ビジョン2030” サウジアラビアと日本の新たな協力」は、第38回国際シンポジウムでの基調講演タイトルでした。サウジアラビアと日本の関係を強化する際の、非常に重要な要素は何だと思いますか?

岩松:まず第一に、相手国の状況をビジネスの様子から文化に至るまで幅広く受け入れ、相手国に興味を抱き、好きになり、良好な信頼関係を築くことが重要と思います。そのためには相手国にどっぷりつかり、常駐してサウジアラムコの実際の動きを近くで見聞きし、また生活面では伝統や慣例としてラマダンからハッジに至るまで、アラビックコーヒーからデーツまでを実体感する人を置くことが重要だと思います。

よって、このような実体感をするために、JCCPアル・コバール事務所に日本人所長が常駐することは大変重要と思います。その日本人所長とサウジアラムコとの地道な人間関係をベースに、JCCPとサウジアラムコ、日本とサウジアラビアの強固な関係が生まれて来るものと思います。

アレキサンダー:サウジ・ビジョン2030 の主な目的の一つは、石油多様化経済です。石油エネルギー以外で、どのような分野に将来へ向けた投資がなされるべきでしょうか?

岩松:私は、「低炭素化、水素活用」が今後重要になると思います。すでにサウジアラムコは、「炭素循環経済」という概念を打ち出しており、本年10月に日本での実施を検討中の、サウジアラムコとJCCPとの共催シンポジウムのテーマとなっています。すでにJCCPでは、サウジアラムコとこの分野での技術協力事業を実施して来ていますが、今年度から規模を拡大して実施中です。

アレキサンダー:「Kaizen」または、「継続的な進歩と完成」という観点から、石油ダウンストリーム分野での世界最高のNPOを目指すJCCPとしては、次なる40年に向けて何がなされるべきでしょうか?

岩松:これまで通り、人材育成事業、技術協力事業、連携促進事業において、サウジアラビアを含む産油・産ガス国のニーズに合致した活動を行っていきます。「Kaizen」 または「継続的な進歩と完成」としては、最近の新型コロナ禍にあっては、ニーズの変化を的確にくみ取り、研修事業、技術協力事業への反映をしたいと思います。例えば、研修、会議の実施においては、今後はWeb を利用した展開もメニューの一つに揃えたいと思います。  

アレキサンダー ウッドマンは、湾岸諸国を拠点に活動する作家。彼の研究対象には国際医療、国際医療政策開発、多国籍・多文化医療政策、倫理学、外交などがある。

alexwoodman.ucla@gmail.com インスタグラム @thelandofadat

Watch the full interview on SaudiReal  https://youtu.be/KxYbj7QgZ4s

 

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