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「福とら」:福島の漁業関係者、フグに期待をかける

バケツの中の3匹のトラフグ。2023年1月19日、福島県相馬市の松川浦漁港。(AFP)
バケツの中の3匹のトラフグ。2023年1月19日、福島県相馬市の松川浦漁港。(AFP)
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15 Feb 2023 11:02:04 GMT9
15 Feb 2023 11:02:04 GMT9

相馬:福島で取れるフグは珍味だが、正しく調理しないと命に関わる。しかし、2011年の原発事故で壊滅的な打撃を受けた地域の漁業関係者にとっては命綱でもある。

東北地方を襲った大津波によって福島第一原発でメルトダウンが発生してからの12年間、「良いニュースはあまりなかった」。漁師の石橋正裕さん(43)はAFPに対しそう語る。

彼が所属する漁業協同組合は厳しい漁獲制限に直面した。消費者は放射能を心配してこの地域の生産物を避けた。

福島第一原発を運営する東京電力が放射性物質を除去する処理をした排水を海に放出する準備を進める中、漁業関係者はさらなる風評被害を懸念している。

だから、トラフグ(フグの中でも高級魚だ)が網に掛かり始めた時、彼らはそこにチャンスを見た。

日本の高級料理店ではフグは刺し身で出されることが多い。料理人は、致死毒を含む内臓を避けながら安全にフグを捌く技術を有することを証明する免許を持っていなければならない。

現在、福島第一原発の50キロ(30マイル)北にある松川浦港では毎朝、船に乗った漁師たちが黒い斑点のある丸々と太ったトラフグで一杯になったバケツを引き上げ、心待ちにする家族のもとに届けている。

「福とら」(「幸福の虎」という意味)として売り出されているこの魚は名前負けしていないと石橋さんは感じている。

彼は語る。「私たちは新しい魅力的な魚を取っており、消費者の関心を引き付けています。福島の魚は安全でおいしいということを消費者に示すことができるのです」

5年前、福島沖ではトラフグはあまり取れなかった。しかし地元当局によると、近年は水温が平年よりも高くなっていることでトラフグが生息しやすい環境になっている可能性があるという。

ただ、漁獲量の増加は主に、山口県のフグ漁師から学んだはえ縄漁の技術を使用した結果だ。そのおかげで、この地域では2019年に3トン近いトラフグが取れた。

漁獲量は2022年にはその10倍に急増した。大規模な放射能検査が実施された後、当局による漁獲制限が解除されたためだ。

しかし、地域の漁業関係者にとっての新たな懸念材料もある。福島第一原発を運営する東電が、放射性物質を除去する処理をした排水の海洋放出を今年から開始する準備を進めているのだ。

2011年3月11日の海底地震で発生した津波によってチョルノービリ(チェルノブイリ)以来最悪の原発事故が起こった福島第一原発のタンクには、現在100万トン以上の処理水が貯蔵されている。

この処理水は、汚染された地下水・海水・雨水・冷却水から様々な放射性物質をフィルターで除去したものだ。

処理水の貯蔵スペースが足りなくなってきており、国際原子力機関(IAEA)によって放出計画が承認された。

処理水にはまだ放射性のトリチウムが含まれているが、希釈したうえで1キロの長さのパイプを通して数十年かけて放出するためその濃度は安全なレベルになると政府、東電、IAEAは言っている。

IAEAのタスクフォースが「IAEAの安全基準に従って、想定通りに終了したと間違いなく確信できるまで」放出を監視すると、同タスクフォース議長のグスタボ・カルーソ氏は1月に述べた。

原発を運営する東電も、安全性を実証するために処理水の中で魚を飼育する実験を開始した。

それでも、隣国の韓国や中国は環境に影響を与える可能性への懸念を表明している。石橋さんは、消費者が再び怖がるのではないかと心配している。

彼は語る。「私たちの生産物の評判がより一層傷つけられかねないと心配しています」

「それなのに、政府は処理水放出を許可する決定を下しました。全く受け入れられません。無力感を感じます」

福島の漁師と県外の漁師が互いの海域にまで出ることを認める非公式の取り決めは、震災以降停止している。

それが原因となり、また現役の漁師が減っていることもあり、松川浦の年間漁獲量は依然として2011年以前の水準のわずか20%に留まっている。

福島の海産物を対象とする放射能検査の基準は2021年に緩和されたものの、地域の漁業関係者は今でも自主的に生産物の検査を行って、国の基準より厳しい基準値を遵守している。

この検査体制は新たに漁獲量が増えたトラフグにも適用されている。それが福島に観光客を呼び戻す助けになることをホテル経営者らは期待している。管野芳正さん(48)もその一人だ。

熟練の海鮮料理人でもある管野さんは、フグをめぐる盛り上がりは「とても嬉しい」と話す。

彼はAFPに対し語る。「以前は冬にはズワイガニを出していました。この地域の名物でしたから。しかし震災以降、漁師はズワイガニを以前ほどには取ることができなくなりました」。福島の外の海域で漁ができなくなったからだという。

彼は、トラフグの有毒な部分を慎重に取り除いてから、カリカリに揚げたフライや薄く切った半透明の刺身などの定番の料理を手際よく作ってくれた。

管野さんは、トラフグは「おいしいし、手頃な値段で出すことができる」と話す。 

しかし彼は、これから始まる処理水放出の影響を心配している。

「処理水が放出されたらこの地域の漁業が復活できるかどうか、とても心配です」

AFP

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