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イスラエルとハマスの紛争は、中東と世界の新たな軍拡競争を引き起こすのか?

以前は米国の軍事力に依存していたが、今後は防衛協力が進み、アラブ諸国は国防や軍備の必要性において一国の超大国に頼ることは少なくなるだろうと専門家は語る。(AFP)
以前は米国の軍事力に依存していたが、今後は防衛協力が進み、アラブ諸国は国防や軍備の必要性において一国の超大国に頼ることは少なくなるだろうと専門家は語る。(AFP)
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05 Nov 2023 10:11:08 GMT9
05 Nov 2023 10:11:08 GMT9
  • 一つの紛争が世界の資源を枯渇させるなか、世界の別の場所で勃発した二つ目の熱い戦争が安全保障上の懸念を増幅させている。
  • ワシントンの同盟国への国防費が急増する一方で、安全保障の保証者としての役割はますます厳しくなっている。

アレックス・ホワイトマン

ロンドン:イスラエルとハマスの衝突を受けて、各国の軍事プランナーたちは自国の兵器庫と調達政策を再評価している。専門家たちは、古い世界秩序は終わりを告げたと警告する。未来の世界安全保障における脅威の形はより不確かになり、軍備の必要性ははるかに不確実なものになるという。

ハマスによる10月7日のイスラエル南部への攻撃を受けて、イスラエル政府は迅速に報復攻撃を開始し、ガザ地区のハマスの拠点に対する全面的な地上攻勢の可能性について発表している。

イスラエル軍の報道官は当初から、ハマスはすぐに撃退され、戦闘は3カ月以内に終結するだろうと示唆していた。しかし、この当初の自信は長くは続かず、紛争の現実が見えてきた。

2023年9月11日、戦術軍事演習に参加するヨルダンの戦車。(ヨルダン王室配布写真/AFP)

日を追うごとに、イスラエル軍が長期戦に突入していることが明らかになっている。この状況は、イスラエルの西側同盟国の権力回廊において、地域のエスカレーションの可能性を意識した不安を生んでいる。

イスラエルとハマスの紛争が平時に起きているわけではないという現実が、この懸念に拍車をかけている。ウクライナ紛争においては1年半以上前から、ロシアとの戦いを支援するためにヨーロッパや米軍の軍需品が流れ込んでいる。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、10月末にストックホルムで開催されたNATO産業フォーラムで、ウクライナ支援に関与している多くの国々の在庫は「非常に枯渇している」と語った。

「ウクライナのニーズを満たすためだけでなく、われわれ自身の抑止力と防衛力を強化するためにも、今こそ生産を増強する必要がある」と述べた。

一つの紛争がすでにNATOの防衛態勢を圧迫しているなかで、世界の別の場所で勃発した二つ目の熱い戦争が安全保障上の懸念を増幅させている。

アラブ諸国の軍隊は、携帯型対戦車誘導ミサイルや国産対戦車ロケットの脅威に備えている。(AFP)

ノッティンガム大学の政治・歴史・国際関係学部のジュリア・ロクニファード助教授によれば、国防に関する調達は、国連結成につながった第二次世界大戦後の秩序との関係の中で、国家が自国をどう認識しているかにますます影響されているという。

「兵器や核拡散、軍拡競争について議論する前に、その背景がどのように変化しているかを認識することが重要だと考えている」とロクニファード氏はアラブニュースに語った。

「これを理解するためには、ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始した2022年2月24日以降の国際システムの再編と洗練から始める必要がある」

中東諸国の最大の関心事は、効率的な軍備調達である。それは米国のサプライヤーからの購入を減らし、欧州や中国、あるいはロシアからの購入を増やすことを意味するかもしれない。(AFP)

「ウクライナ侵攻が国際秩序の機能不全を示したとすれば、ハマスによる攻撃後のイスラエルの報復行動に対する西側の反応は、その秩序自体がもはや信用に足るものではないということを示した」

「それが示したのは、国際システムが個々の価値観において分裂しているということだけでなく、以前はそうであった、あるいは少なくともそうであると見られていたように、互いに関与するルールにおいても、もはやそれは統一されていない、ということだった」

2023年10月28日、イラン中央部イスファハン州での軍事訓練でミサイルが発射される。イラン陸軍メディアオフィスによる資料写真。(AFP)

米国主導の国際秩序が崩壊したと認識される中、世界の安全保障を保証する米国の立ち位置は、ますます厳しいものとなっている。その結果として、以前は米国との同盟に依存しようとしていた国々の国防支出が著しく増加した。

このことは、中東諸国やトルコの国防費の増加からも明らかである。

ストックホルム国際平和研究所の数字によれば、昨年の国内総生産に対する防衛費の世界平均は2.2%だった。同じデータから、中東諸国の国防費の平均はGDPの3.9%を超え、世界平均を大きく上回っていることがわかる。

ロクニファード氏は、「世界の大国は信頼できない、という考え方がその一因だと思う」と語った。「私たちが目の当たりにしているのは、ある陣営がある陣営に味方し、それが目立たないように行われ、また別の陣営が同じことをするという繰り返しだ」

「これは、道徳的な決定ではなく、純粋な利害とパワーバランスに基づく決定であることを観測者は認識するだろう。米国がこのように非常に偏った立場にある間は、彼らを信頼することは難しい」

「イスラム世界だけでなく、世界の他の国々を見てみよう。非イスラム世界の視点だ。彼らはパレスチナにおける闘争を、抑圧に対する民族主義的な大義として見ている」

国防調達の旧モデルが国家対国家の敵対関係を中心に構成されていたのに対し、アル・サバイレ氏によれば、特に中東では、より非対称的な戦争モデルにシフトしているという。

「中東における紛争のスタイルは伝統的なものではなく、すべて代理勢力によるものだ」と彼は語る。「イランでさえそうだ。彼らは公然の紛争には関心がない。彼らは、公然の対立に達することを防ぐ、代理勢力による対立に関心を寄せている」

2023年5月21日、イスラエル軍のレバノン撤退記念日を前に、レバノン南部のアラムタ村でパレードを行うレバノンのヒズボラ戦闘員たち。(AFP)

「こうした非対称戦争を戦うのは容易ではない。ダーイシュは多くの軍隊に、こうした非国家主体との関わり方、例えば人質の解放、狭いエリアでの戦闘などを再考するよう促した。非国家勢力の能力の進化と代理紛争の増加は、伝統的な軍隊にその役割と軍備の再考を迫っているのだ」

ウォール・ストリート・ジャーナルのイスラエル・ハマスの戦争に関する最近の報道は、政治的に分裂した地域にある国々が、今後敵対的な民兵や非国家主体に直面するかもしれない困難な挑戦にスポットを当てた。

「2014年当時、ハマスが頼りにしていたのは、1969年までさかのぼる、誘導システムを持たないソ連時代の投射砲がほとんどだった。今回の戦争でハマスは、ウクライナ式の戦場革命兵器であるドローンから投下する弾薬でイスラエル軍を標的にし、2台の戦車と数台の軍用車両を損傷させた動画を公開している」と同メディアは述べている。

「イスラエル軍はまた、北朝鮮のF7ロケットランチャー、ロシアで開発されたがイランのコピーが多く流通しているKornet(コルネット)携行式対戦車ミサイル、地元で生産されたタンデム弾頭対戦車ロケット、アル・ヤシンを装備した攻撃者にも直面している」

2023年10月26日撮影。10月7日にハマス過激派がイスラエル南部のコミュニティを攻撃した際に、イスラエル軍が攻撃を受けた地域から回収した武器。イスラエル軍によると、ハマスが使用した武器の一部はイラン製と北朝鮮製だという。(AFP)

10月7日に起きたイスラエル攻撃を受け、防衛態勢の確立を急いでいる国の中に、インドがある。

最近のブルームバーグの報道によれば、インドは過去に非国家主体による襲撃事件――特に死者160人以上を出した2008年のムンバイ同時多発テロ――に巻き込まれた経験があり、不意打ちを防ぐため、国境沿いにドローンを使った監視システムを設置しようとしている。

インド軍が侵入を検知し、標的を分類するために国境沿いにAI監視システムの配備を計画しているのと並行して、「高高度疑似衛星(HAPS)」の配備に向けた協議が進められている。

アメール・アル・サバイレ氏

アル・サバイレ氏は、多くの軍隊が脅威を感じることは当然だと述べた。「このような非国家主体は正体不明で現れ、予測されていた能力を超えている。そして通常、彼らの攻撃は不意打ちの形で行われる」

「単に民兵と戦うのではない。よく訓練され、テクノロジーの使い方を熟知した集団と戦うのだ。そして、彼らは伝統的な方法と非伝統的な方法を組み合わせている。例えば、パラシュートでの侵入は、1980年代にレバノン南部でイスラエルに対して行われたことがあり、そのアイデアを再利用したものだ。それに加えてドローンもある。軍隊は今、多くのことを予測しなければならない」

最も大きな変化はなにかという質問に対し、彼は「以前は依存関係があったが、これからは協力関係が生まれるだろう」と答えた。これは、各国が国防と軍備の必要性において、単一の超大国に依存することが少なくなることを意味する。

このことは、武器の調達先が多様化する傾向に示されていると彼は語った。

 

2019年10月28日。マナーマで開催されたバーレーン国際防衛展示会および会議期間中に展示されたUAE製航空機爆弾。非国家主体の能力の進化と代理紛争の増加は、中東の伝統的な軍隊にその役割と軍備の再考を迫っている。(AFP)

「アラブ湾岸諸国を見ると、そうした依存度は元々低い。しかし、政府が武器の調達先を多様化しようとしているのも事実だ」とアル・サバイレ氏は言う。

「つまり、効率的な武器調達が彼らの第一の関心事であり、それは米国のサプライヤーからの購入を減らし、欧州や中国、あるいはロシアからの購入を増やすことを意味している。それは、特定のニーズに必要なものを探し、需要に見合った供給をすることであり、これには国内市場からの調達も含まれる」

アル・サバイレ氏もロクニファード氏も、ハマスとイスラエルの戦闘が世界中に波及しかねないという指摘にはあまり関心を示さないかもしれない。しかし、NATOにとっては、ストルテンベルグ氏自身が防衛産業に生産拡大を働きかけているほど、その懸念は大きい。

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