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イラクの改革進まず 親イラン派グループの相次ぐ攻撃がネック

バグダッドの街を練り歩く人民動員隊員ら。同隊は、イランに近く、米国の動きに目を光らせる諸グループが牛耳っている。(AFP)
バグダッドの街を練り歩く人民動員隊員ら。同隊は、イランに近く、米国の動きに目を光らせる諸グループが牛耳っている。(AFP)
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10 Sep 2020 08:09:55 GMT9
10 Sep 2020 08:09:55 GMT9
  • 5月着任のムスタファー・アル=カージミー首相 無法な民兵組織を取り締まり、腐敗に立ち向かうと約束

【バグダッド】内戦の傷跡の癒えぬイラクでは、改革を実行し疲弊した経済を再生させることが望みだ。が、隠然と活動する親イランの諸グループが主として責めを負うべき一連の暴力行為により、その動きが軌道に乗ることがない。

ムスタファー・アル=カージミー氏はこの5月に首相に就任した。爾来、年来の戦争や内乱の結果積もり積もった国内の弊害の改革を約束してきている。無法行為を働く民兵組織の取り締まりや不正腐敗との闘い、また待ちかねた構造改革の実行といったことだ。

が、政権がその公約に近づけば近づくほど、米政府にとっての宿敵といえるイラン政府とのつながりが疑われる武装グループらによる攻撃の手はさらにひどくなるばかりだ。イラク政府高官やアナリストらはAFPに対し、そう口をそろえる。

「われわれが彼らの軍事的・経済的利得に手を伸ばすと見るや、こうしたグループはロケット弾を飛ばしたり宣伝攻勢をかけたりといった手を使ってわれわれが集中して事に当たることをはばむのだ」。そう語るのは、ある政府高官だ。

カージミー氏の先月の訪米に先立って、暴力活動はその度合いを強めていた。同氏が面会を求めたドナルド・トランプ大統領は9日、イラク派遣軍のさらなる撤退を発表することが期されていた。が、米軍部隊撤収によりもたらされたのは事態のさらなる不安定化でしかなかった。

8日遅くには米軍部隊の派遣されているイラク軍基地へ向かっていた物資補給用の車列へ爆弾が投下され、イラク治安部隊から1名の死者が出ている。

9月3日には、英米資本の民間軍事会社G4Sのバグダッド本部が攻撃の的となった。ある情報当局者がAFPに語ったところによると、本部ビルにドローンから爆薬が投下されたのだという。

これに対しいずれのグループも声明は出さなかった。が、イランが支援する諸グループは、今年1月にバグダッドでイラン随一の司令官ガーセム・ソレイマーニー氏を米軍と共謀してドローン攻撃により殺害したのが同社だ、と難じていた経緯がある。

その数日前には北部のマウスィル(モスル)で救援物資運搬用の車列の下に置かれた即席の爆発物が炸裂、国連職員1人が負傷している。

これについては「イスラム抵抗」の一員と自認するあるグループが声明を出した。「イスラム抵抗」とは、要するに「親イラン派」の代名詞のようなものだ。同グループは、国連車両は米国のスパイの移送に使われていると非難している。

「イラクのどこにあっても国連車両は爆破されることとなる」。ネット上の声明でこのグループはそう威嚇している。

これまで聞いたこともない目新しい名前のグループがこの数か月で一様に「イスラム抵抗」の御旗を掲げて半ダースほども立ち現れ似たような脅迫をおこなっているが、イラク政府当局によるとそれらグループは目眩ましなのだという。

「最近国内で起きている不穏な動きの背後にいるのは5つのグループ。すなわち、カターイブ・ヒズブッラー(カタイブ・ヒズボラ)[「神の党旅団」の意]、アサーイブ・アフル・アル=ハック[「正義同盟」の意]などだ」と語るのはあるイラク情報当局者だ。

これら強硬集団は、政府支援組織である人民動員隊(ハシュド・アッ=シャービー)の一員だ。そこでは、イランに近く、米国の動きに目を光らせるグループが優勢に立つ。

米当局でも同様の非難声明は出している。イラク国内の米軍施設に対するロケット弾による攻撃の真の実行犯として、カターイブ・ヒズブッラーとアサーイブ・アフル・アル=ハックを名指ししたものだ。

上と同じ諸グループは、カージミー氏に対しても、当時同氏が情報当局トップだったおりにソレイマーニー氏暗殺計画に絡んだとして非難するとともに、同氏の首相就任にも怒りを募らせている。

カージミー氏は武装グループの取り締まりを公約に掲げたが、これらグループではその目的はみずからの手足をもぐことだと理解している、と当局者や専門家らはAFPに語る。

こうしたグループはロケット弾による攻撃を激化させているだけではない。従来の枷にはまらないメディアを使っても圧迫を強めているのだ。

メッセージングアプリのTelegram上の匿名複数チャンネルでは、輸送部隊への攻撃が実行されるはるか前から、攻撃を愚弄するかのような警告を発している。あたかもこれらグループが治外法権を認められているかのごとき感を強めるものだ。

また、イランに対し批判的な論調のイラク国内のテレビ各局も槍玉に挙がっている。

TelegramのチャンネルがディジュラTVにねらいを定めた先週には同局が火を噴いた。脅迫の波状攻撃は、さらにスンニ派のUTV局にも的を絞っている。

こうした運動が始まったのは、米政府が、カターイブ・ヒズブッラーとつながるイラクのテレビ局「アル=イティジャーフ」のドメインを剝奪してからのことだ。

政府はこうしたグループと直接対決する構えはない、と語るのはカージミー氏のスポークスマンを務めるアフマド・ムッラー氏だ。

「対決ではなく、われわれは国境の検問にねらいを定めて彼らの資金源を干上がらせる考えでいる」とムッラー氏はAFPに語る。国境地帯がイランからの実入りのよい密輸用途に使われていることを念頭に置いたものだ。

危険をともなうことは政府当局としても百も承知のことだった。抜け道だらけのイラク国境一帯での思い切った反不正キャンペーンを首相が進めたおりには、最悪の事態も覚悟して臨んだのである。

すでに7月にはAFPにある政府高官が語っている。「彼らは官僚を恐喝するだろうし、その家族もおびやかすだろうし、部族の者らも動員することだろう。暗殺にまでいたる可能性もある」

その数週間後にはその言を追うように、南部の港湾都市バスラで2人の反政府活動家が銃撃され、バグダッド北郊でも部族間の抗争が起きている。

「ひっきりなしにそこら中の火消しに追われている状態だ。もっと大事な戦略を練りたいところだが、それができないのだ」。別のイラク政府高官もそう語る。つまり、イラク国内の改革と、新型コロナウイルスの感染拡大や原油価格の低迷による打撃を受けている経済再生に向け政府が取り組んでも邪魔が多い、ということだ。

さらに別の高官も、最近の国内の騒擾のあおりを受け、アリー・アッラーウィー財務相は結局8月24日の期日までに経済改革計画を議会へ諮ることができなかったと吐露している。

先週カージミー氏は腐敗撲滅委員会を立ち上げた。これは、テロ対策の精鋭部隊に権限を与え、位階が高すぎて通常では手を出せないとみられている高官らも拘束できるようにしたものだ。

この部隊はバスラとバグダッドでの探査活動にも乗り出した。無許可の武器類の押収を目的としたものだが、明るみに出たのはわずかだった。

イラクの安全保障専門家、ファーディル・アブー・ラギーフ氏は、状況は「危険な状態だ」と語る。

「衝突を避けるには、究極的にはカージミー氏としてもこうしたグループの宗教的な指導者らと忌憚のない話し合いの席に着いたほうがよい、ということになるはずだ」

AFP

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