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前レバノン中央銀行総裁が国に与えた損失は77億ドル:報告書

ロイターのインタビューに応じるレバノン中央銀行のリアド・サラメ総裁(当時)。2010年2月15日、レバノンのベイルート。(ファイル/ロイター)
ロイターのインタビューに応じるレバノン中央銀行のリアド・サラメ総裁(当時)。2010年2月15日、レバノンのベイルート。(ファイル/ロイター)
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12 Aug 2023 05:08:05 GMT9
12 Aug 2023 05:08:05 GMT9
  • サラメ前総裁は決定や議論を「独占した」
  • 前総裁は米国からの制裁や欧州からの逮捕状を受けている

ナジャ・フーサリ

ベイルート:コンサルティング会社アルバレツ・アンド・マーサルによるレバノン中央銀行の予備的法廷監査は、リアド・サラメ前総裁在任時の同中央銀行について厳しい評価を下した。

ユースフ・ハリール暫定財務相は11日、レバノン銀行についての報告書の写しをナジーブ・ミカティ暫定首相、ナビーフ・ビッリー議会議長、その他の議員に提出した。

この報告書は332ページ、14節で構成され、複雑な会計や銀行・管理業務の詳細が記載されている。

この報告書について明らかになったのは、米財務省が10日にサラメ氏、息子のナディ・サラメ氏、弟のラジャ・サラメ氏、助手のマリアンヌ・ホエイク氏、友人のアンナ・コザコワ氏への制裁を発表した後のことだ。

アルバレツ・アンド・マーサルが2021年に監査契約を獲得した時、サラメ氏はまだ総裁在任中だった。同氏は先月退任している。

報告書は、前総裁が行った金融操作は「極めてコストが高く、2015年から2020年の総費用は115兆レバノンポンド(77億ドル)だった」としている。

報告書によると、貸借対照表には損失が記載されていなかった。その代わりに損失は 「その他資産」および「清算・決済勘定」というカテゴリーに記録されていた。

主要な預金者や借入者に対する利息の支払いに関する説明はなかった。

報告書は、レバノン銀行は国債発行と貨幣増刷に頼ったが、結果として政府支出を増大させインフレ問題を招き、それが為替レートを安定させる同銀行の能力に影響を及ぼしたとしている。

報告書の予備的調査結果によると、ラジャ・サラメ氏が所有し、汚職の疑いで欧州司法当局の捜査対象となっているフォリー・アソシエイツ社の口座への送金総額は3億3300万ドルで、そのうち1億1100万ドルは違法送金だった。

市民運動は、2019年以降のレバノンの経済崩壊は歴代政権による失敗と、サラメ総裁が追求した金融操作のせいだと非難している。

報告書によると、レバノン銀行による融資総額は15兆レバノンポンドにのぼり、2015年から2020年の間に23の個人、団体、組織がそれぞれ10万ドルを超える金融支援を不正に受けたという。

レバノン銀行が採用した非正統的な基準と会計操作の結果、同銀行の赤字は2020年には77兆レバノン・ポンドにまで増加した。

2015年末には72億ドルの外貨黒字だったが、2020年末には507億ドルの赤字になっていたという。

レバノン銀行の財務状況の急速な悪化は貸借対照表や財務諸表に反映されていなかった。非正統的な会計基準の使用により資産価値や利益の誇張が可能だったためだ。

報告書にはレバノン銀行の中央審議会の議事録も記載されており、サラメ氏がどのように金融政策を策定し、累積損失を隠蔽する会計基準を設定し、どの銀行が融資や金融操作の恩恵を受けるかを決定したかが示されている。

中央審議会のメンバーは、これらの決定に異議を唱えたり、関連する詳細を監督したりはしなかった。

報告書は、中央銀行が用いた非正統的な政策として次のものを挙げている。 「収益性を高めるための金利コストの繰延べ。満期を迎えたCDの繰延コストの一部を相殺するためのシニョリッジ残高の創出、および収益性を高めるための未払い債券に対するペインクーポンの付与。価値の減損を認識しないことによるレバノン国庫短期証券の帳簿価額の過大計上。 金貸借対照表の未実現評価益(評価損)の計上による資産・資本の過少計上(過大計上)。財務省のレバノン銀行に対する米ドル当座貸越負債と国庫レバノンポンド預金との相殺による資産・負債の過少計上。レバレッジ契約に基づく貸付金と預金との相殺による資産・負債の過少計上」

報告書には、外国預金の誘致と国内資産への転換についても記載されている。外貨資産のかなりの部分が実際には現地の資産であり、もしこれらの金額が返還されればレバノン国家、国民、経済に多大な圧力がかかることになるという。

サラメ前総裁は毎年度末、経理部に金融取引費用を相殺するよう指示していた。その結果、公表された財務データはレバノン銀行の真の財務状況を正確に反映していなかった。

報告書は次のように述べている。「レバノン銀行のポジションと損失は、資産と負債を相殺し、『その他資産』や『清算・決済勘定』といった説明のない一般勘定に記録することで示されている」

また、「貸借対照表には損失は一切記載されていない」としたうえで、2015年から2020年までの損益計算書、主要な預金者に支払われた利息や主要な借入者に付与された利息、それらの利息の報告方法などの情報が公開されていないことを指摘している。

また、預金区分などの詳細のほか、金融操作のコストや関連する決定も公表されていないという。

その代わりに、レバノン銀行はレバノンポンドの供給量を増やすためにマネタイゼーションに頼ったため、国の総支出を増加させた。

報告書は、一般に中央銀行がそのような活動を行うことも時にはあるが、それが増えるとインフレ問題が生じ、中央銀行が為替レートを安定させる能力に影響が及ぶとしている。

また、レバノン銀行は金融操作を用いることで米ドルを銀行システム内に留めたが、為替レートの安定化局面が終わるとともにマネタイゼーションから利益を得るアプローチは非正統的で不安定なものになったと指摘している。

報告書は、レバノンポンドの価値が上昇したことで、特に外貨で利益を得ている部門の経済成長につながったとしている。

マネタイゼーションの使用は完全に慎重なものではなく、一般には公表されていなかったという。

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