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ガザ地区において書き換えられつつある戦争規則

人道法が遵守されなかったことが、イスラエルと国際社会の間での主要な争点となっている (AFP)
人道法が遵守されなかったことが、イスラエルと国際社会の間での主要な争点となっている (AFP)
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03 Nov 2023 07:11:56 GMT9

イスラエルは、ガザ地区に対する無差別空爆や、同地区の病院、学校、避難所、難民キャンプ、民間車両の標的化を合法的な自衛行動だと説明してきた。国家も個人と同様に自衛の権利を有しているが、国際法は長きにわたってこの権利の行使に厳重な制限を課している。自衛は、国連憲章と国際慣習法に基づく武力行使の禁止の例外であり、例外であるが故に厳格な解釈が為されるべきだ。

イスラエルの支持者の一部は、イスラエルの過剰な攻撃には同意しないものの同国には自衛の権利があると主張している。これはガザに対する執拗な攻撃に対する暗黙の容認だと曲解されている。この点についての明確化や説明は為されているが、欧米諸国の一部が黙諾しているとの見解の払拭には至っていない。

どれほど凄惨な先制攻撃を受けたとしても、それに対する報復は本質的に正当な自衛とは法的には看做し得ない。たとえ正当な自衛と看做される場合であっても、必要性原則や均衡性原則、民間人と民間建造物の不可侵権といった戦争規則を遵守しつつ実行する必要がある。

ジュネーブ条約の赤十字国際委員会および国際司法裁判所の解釈によると、必要性原則とは、攻撃を終結させるためまたは差し迫った攻撃の回避のために武力行使が必要であり、企図されている武力行使の代替足り得る、攻撃の終結や回避に効果的で実際的な手段が存在しない場合に限って、武力の合法的行使が認められるということである。換言すれば、武力行使は最初の手立てであってはならず、全ての平和的解決手段が尽き果て、実効性のある非軍事的代替手段が存在しない場合の最後の方策でなければならないという事なのだ。武力行使は、差し迫った攻撃の回避か攻撃の終結のために必要な範囲に限定されなければならないのである。

自衛においては、均衡性原則も遵守しなければならない。ガザ地区での紛争においては、この均衡性原則が誤用されている。均衡性原則とは、攻撃を回避したり終結させる必要性に対して、行使する武力が過度であってはならないことを意味する。行使する武力によって相手側が受ける人的、物理的、経済的な被害は、回避したり終結させる相手側からの攻撃から受けると予想される被害に比べて過大であってはならないのだ。均衡性原則の基準は、武力行使の物理的、経済的影響が、敵対側の攻撃がもたらす損害の予測との比較において過剰であってはならないというルールを示している。

自衛権は、攻撃者を「罰する」ための武力行使を容認していない

アブデル・アジーズ・アルウェイシグ博士

自衛権は、攻撃者を「罰する」ための武力行使を容認していない。それ故に、均衡原則とは、攻撃によって既に被った損害と、それへの反応との同等性を意味していると考えてはならない。そのように看做した場合、自衛の概念が報復のための武力行使の正当化に変質してしまうからである。

戦時における民間人の保護については、議論の余地などあり得ない。現代において、この神聖な原則は、 1864 年のジュネーブ条約と 1907 年のハーグ条約で成文化された。第2次世界大戦後、戦時中の民間人に対する筆舌に尽くし難い残虐行為(特にナチスドイツによって蹂躙された欧州地域におけるユダヤ人コミュニティに対する迫害)を考慮し、民間人の保護の強化のために規則の文言の書き直しが行われた。1949 年のジュネーブ 4 条約と 1977 年の追加議定書は、国連加盟193カ国のすべてに加えて国連非加盟のオブザーバー国2カ国(ローマ教皇庁とパレスチナ)とクック諸島の合計196ヶ国によって署名、批准されている。これほどまでに何の異論もなく、満場一致で受け入れられた国際文書は他にほとんど例を見ない。

ジュネーブ第4条約は民間人の保護を目的としている。イスラエルは、この条約を批准しているものの、ガザ地区を含むパレスチナ地域の占領に対しては適用されないと一方的に布告した。イスラエルは、ガザ地区とヨルダン川西岸地区のパレスチナ人の処遇はイスラエルが単独で決定すると主張している。国連は、ジュネーブ条約の占領地域への適用性を再三確認している。イスラエルに最も寄り添った立場で同国の支持を行っている米国や、この問題に取り組んでいる他のほぼ全ての政府と法的機関も同様にジュネーブ条約の占領地域のパレスチナ人への適用性を認めている。

ガザ地区に対する戦争において国際人道法が遵守されなかったことは、イスラエルと国際社会そして確実に近隣諸国との間での主要な争点となっている。

ガザ地区での国際人道法の遵守を拒否しているイスラエルが、自軍の行動の指針としてどのような法的基準を用いているのかは明らかではない。ヨアヴ・ガラント国防相が10月10日にイスラエル軍の兵士たちに「我々はあらゆる制約を解除した」と語った時、数多くの人々が警戒感を持った。

そして、10月29日、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イスラエルへの今回の攻撃を古代史におけるアマレク人の攻撃に擬えた。ネタニヤフ首相は、首相官邸の翻訳によると、「アマレクが皆さんにしたことを思い出してください。私たちは、それを忘れることなく、戦うのです」と旧約聖書に言及して述べたという。

この血生臭い出来事を持ち出したのは不吉なことだった。それは、ネタニヤフ首相が引用した旧約聖書の該当部分の残りには、「あなたたちは、アマレク人たちを滅ぼし、彼らの記憶を地上から消し去らなければなりません。このことを決して忘却してはなりません」と述べられているからである。別の章には、後の攻撃でアマレク人たちが剣によって倒された後、彼らの記憶は「消された」と書き記されている。

イスラエル国防省の語る「制約無しの攻撃方針」や同国首相の引用する大量虐殺的な報復は、ジュネーブ条約の代替として受け入れられ得るようなものでは決してない。

  • アブデル・アジーズ・アルウェイシグ博士は、湾岸協力会議政治問題・交渉担当事務次長。本記事で表明した見解は個人的なものであり、湾岸協力会議の見解を必ずしも代表するものではない。X: @abuhamad1
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