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我々は危機に直面するアラブ世界をどうやって守るのか

マーク・サイクスとフランソワ・ジョルジュ・ピコ。(ウィキメディア・コモンズ)
マーク・サイクスとフランソワ・ジョルジュ・ピコ。(ウィキメディア・コモンズ)
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09 Nov 2023 05:11:46 GMT9

豊かな歴史と多様な文化を持つアラブ世界は、遠い昔から様々な課題と危機に直面してきた。人類文明の最前線だったイスラム黄金時代の輝かしい日々から、現代の複雑な地政学的状況に至るまで、我々の地域は波乱の道を歩んできた。

黄金時代から多くの脅威や陰謀がアラブ世界を取り巻いてきたが、その中でも最大のものはサイクス・ピコ協定である。この協定によりアラブ諸国はまるでケーキの切れ端かのようにフランスと英国の間で分割された。中東の国境は再編され、氏族のメンバー間、さらには個々の家族間までもが分断されることになった。

我々アラブ人は、非互恵的な透明性を以って様々な党派と付き合いつつ、時には「敵の敵は友」という古い格言から生みだされる、我々にとって不利益をもたらす、問題のある同盟関係が結ばれていることに気づかずにいると私は感じている。アラブ国家の未来を守る手段とは何だろうか。我々はこうした複雑なダイナミクスからどんな教訓を引き出し、活かすことができるのだろうか。

我々は、人類文明とその復興期に多大な影響を与えたイスラム黄金時代におけるアラブ世界の歴史的達成に言及する際、誇りを感じずにはいられない。アラブの学者、哲学者、芸術家たちは、人類の知識と文化に計り知れない貢献を果たした。残念ながら我々は、この時代の悟りと進歩を維持すること、そこからの恩恵で以ってこの地域を陰謀や計略から守ることができなかった。

著名な歴史家のバーナード・ルイスはこう書いている。「イスラムの黄金時代に課題がなかったわけではなく、内部の分断や外部からの圧力にアラブ社会の逆境への強さが試されることは度々あった。十字軍やモンゴルの侵略は、アラブ世界が直面してきた危機を厳しい形で思い出させるものとなっている。『敵の敵は友』という概念がしばしば持ち出されたのも、この動乱の時代だった」 

こうした外部からの脅威は、その後数世紀に渡って続く地政学的対立や権力関係の変化の発端となった。実際、今の我々の世界は同盟や敵対の複雑な網の目の中で動いており、西側諸国・イラン・イスラエルの奇妙なダイナミクスをはじめとして、この地域の未来の安定に先んじて問題のある同盟が形成されているという状況にある。

こうした各陣営がお互いを敵だと断じているにもかかわらず、彼らの行動が多くの場合自分たちの公的な立場と矛盾しており、アラブ諸国が両者から苦難を強いられるのと引き換えに、自分たちが敵だと断じた相手を利する結果になっている。このことは、多数のアラブ諸国に拡散している武装組織を通じて見えてくる。彼らはイスラエルへの敵対とイスラムによる抵抗を目標に掲げつつ、その本質は中東を永続的な不安定状況に置き、自分たちの信仰、アイデンティティ、神聖さを守るために動員をかけることにある。

このことは、国際関係の著名な研究者であるジョン・ミアシャイマー氏が西側諸国とイランの間の問題ある同盟に対して懸念を示した際の発言が裏付けている。ミアシャイマー氏は次のように書いている。「西側諸国が様々な地政学的舞台においてイランと協調していることは驚きである。中東での利益確保を目指す一方で、西側諸国は問題に対して見て見ぬ振りをしている」

この20年間で書いてきた記事を通して、私はアラブ世界、特に湾岸アラブ諸国協力理事会(GCC)のリーダーたちに対し、アラブの首都が次々にイランの手中に収められていくことを警戒するよう、常に呼びかけてきた。イランの政府関係者らは、この拡大を誇る態度を隠していない。マフムード・アフマディネジャド政権下で情報大臣を務めたヘイデル・モスレヒ氏は、2015年に「イランは4つのアラブの首都を支配している」と述べている。イランの最高指導者アリー・ハメネイ師も2022年11月の声明で、イランの影響力がアラブの各首都に拡大していることを誇示し、「シリア、イラク、レバノンにおけるイランのビジョンの成功」を祝福している。

イラク、イエメン、シリア、レバノンはイラン政府のムッラたちの手中に収められ、イランの拡大主義的野心が我々の神聖さや中東の他の国々に影響を与えるのではないかということが最大の懸念となっている。

同様に、イスラエル・パレスチナ紛争も依然としてこの地域の主要問題のひとつである。アラブ・イスラエル紛争に関する著名な歴史家であるラシード・カリディ氏は、「現行のイスラエルによる占領と入植拡大は、アラブ世界の平和を脅かし続けている。この紛争に対する公平な解決がなければ、アラブ諸国が苦境から完全に脱することはない」と指摘している。

まるでアラブの連帯、安定、結束が、西側諸国とその同盟国にとって脅威であるかのようだが、その危険性を私たちは認識していない。では、こう問うことは許されるだろうか。「イランと結託してアラブ世界のさらなる進歩と繁栄、黄金時代の復興を阻むのは、米国、西側諸国、イスラエルの利益のためなのだろうか」と。 

まるでアラブの連帯、安定、結束が、西側諸国とその同盟国にとって脅威であるかのようだ。

カラフ・アーマッド・アル・ハブトゥール

アラブ世界を取り巻くあらゆる危機を考慮すれば、未来を守るための方針を示し、連帯と協調を優先させ、教育、イノベーション、研究、子どもたち、この地で生まれ育った人々に力を与えることが必要だ。それがアラブ世界を強化し、歴史的重要性を取り戻すことに繋がるだろう。地域および世界レベルにおいて共同で行動することは、我々が直面している複雑な問題への対処に不可欠だ。

アラブ諸国は、不安定な政治、経済開発、安全保障上の脅威など、共通の課題に団結して取り組まなければならない。アラブ連盟をはじめとするイニシアチブは、その役割が有効になれば、協調と紛争解決のプラットフォームとして機能しうる。地域紛争の解決を優先させることができるだろう。その最前線にあるのがイスラエル・パレスチナ紛争であり、イランの拡大という野心に終止符を打つことである。 

アラブ世界の歴史は、その復元力と長期的な人類文明への貢献の証である。黄金時代から陰謀や課題に直面してきたが、アラブ世界には現代の危機を乗り越える力がある。連帯、明確性、協調を強化することで、アラブ諸国は明るい未来へと向かう道のりを定めることができるだろう。そんな明るい未来において、アラブ諸国は世界の舞台における文化・知識・進歩の導き手としての立場を取り戻すのである。

  • カラフ・アーマッド・アル・ハブトゥール氏はアラブ首長国連邦(UAE)の著名な実業家であり著名人。国際政治問題への視点、慈善活動、平和促進への取り組みで知られる。国外において、UAEの非公式大使として長く活動を続けてきた。
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