第78回国連総会が開催中である。例年通りニューヨークを訪れている世界の指導者たちは、今年の国連は何を背負っているかを理解している。それは第二次世界大戦後のあらゆる国際機関を支えてきた世界秩序、そして世界が前例のない課題に直面する中での多国間主義と協力関係のこれからである。
国連総会議長を務めるトリニダード・トバゴ常駐代表デニス・フランシス氏が選んだ「信頼の再構築とグローバルな連帯の活性化」というテーマがすべてを物語っている。世界の国々、とりわけグローバルサウスと、グローバルノースとも呼ばれる先進国の間の信頼の欠如は、断絶をさらに広げつつある。
世界的な連帯は縮小し、分裂、競争、そして分断が広がっている。連帯を活性化するには、国連が掲げる平和の約束に再び火を灯す力を持つ人々が、本腰を入れて取り組んでいかなければならない。
今回の国連総会についての分析はどれも、我々の世界の現状、そして国連と世界的な協力関係の今後を悲観するものばかりだ。正しい見方である。国連本部に集う各国の現状は、1~2年前と比べても様変わりしている。国連発足以来、これほど世界が分裂したことはなかった。国連そのものが世界と関わり続けるために非常なプレッシャーを受けている。なぜなら国連の枠組みの外で、時に国連憲章に違反して行われた行動や、あるいは途方もない課題に対して行動しなかったことの結果として、国連の力を保つべき人々がその力を損ねているからだ。そうした課題とは、紛争や貧困と不平等の増加にはじまり、気候危機と自然災害の悪化、恐ろしいパンデミックの結果、そして民主主義と人権の後退に至るまで多岐にわたる。
世界の国々、とりわけグローバルサウスとグローバルノースの間の信頼の欠如は、断絶をさらに広げつつある
アマル・ムダラリ博士
国連はこうした複数の危機の重みと、安全保障理事会を悩ませる停滞に苦しめられている。安全保障理事会は昨年多くの紛争に直面し、平和と安全を維持する責任を果たせなかった。
世界の指導者や専門家が国連を非難するのは非常にたやすい。しかし非難を向けるべきは国連ではなく加盟国、とりわけ新たに頭角を現してきた国々を含めた大国である。国連は、加盟国とその行動が強ければ強くなり、それらが弱まれば弱まっていく。昨年は、国連の間違った取り扱い方の例であり、国連をないがしろにして行動することでその影響力を薄めてしまえばどうなるかの例でもあった。希薄化した多国間主義、権力争い、そして国連に関する取り組みおよび喫緊の世界的課題解決への取り組み不足が見られた昨年の様子は、今後待ち構えるさらなる困難の先触れである。
事務総長のアントニオ・グテーレス氏が平和に対する攻撃を非難したとき、この現実を念頭に置いていたのは間違いない。「戦争の毒が一滴また一滴と、私たちの世界を侵している」と、先週彼は言った。国連総会に集った世界の指導者たちに彼はこう訴えた。「今この時は、姿勢を見せる、あるいは立場を決める時ではありません。無関心や優柔不断の時でもありません。本当に実用的な解決策のため手に手を取る時です」。
国連は、世界の指導者とその代表団のため、非常に充実した議題を用意した。同時に、彼らがこの世界を回復と癒しの道に進める決断をした場合に備え、解決に向けた明確な道筋も用意している。
国連総会の中心は持続可能な開発目標(SDGs)サミットである。目標の実装が現在はかばかしくないことから、これが議題の中心に据えられている。すでに加盟国間で交渉が行われた政治宣言がサミットから発表される。この宣言には、これまでの宣言ではありえないような「大胆な」言葉が初めて含められた。宣言では、SDGsの達成が「危機に瀕している」ことが認められ、「SDGへの資金提供ギャップの推定値が広がっていること」への深い懸念を表明すると同時に「あらゆる財源から途上国に向けて予測可能で持続可能かつ十分な開発資金を提供する緊急性の認識」が行われている。
宣言では「債務状況の悪化に対処するため、すべての債権者による多国間行動と調整を強化する」よう呼びかけられている。同時に「ビジネスモデルと資金調達能力を含めた国際金融アーキテクチャの改革」を支持しており、そうした改革は「目的によりよく適うよう、公平かつ公正に途上国の資金調達ニーズに対応できるものでなくてはならず、その目的は国際経済に関する意思決定、規範設定、およびグローバル経済のガバナンスにおける途上国の発言力と参加を拡大および強化することにある」とされている。大国を含めた世界の指導者は、こうした新しい言葉が盛り込まれた国連宣言を支持している。これはグローバルサウスの声がより明確に、より大きくかつ大胆になりつつあるグローバル政治の新たな潮流を示すものである。
アイルランドの同僚とともにこの政治宣言の交渉を主導した国連のカタール大使であるシェイカ・アリヤ・アフマド・サイフ・アル=タニ氏はアラブニュースに対して、この宣言は「国家の団結の瞬間を象徴し、差し迫るグローバル規模の課題に対処するための連帯責任を強調しています」と語った。彼女はさらに、この宣言は「交渉の具体的な基盤を表明するもので、その交渉は将来的な協定に関する今後の国連総会セッションで行われます。協定の交渉と採択は2024年の国連未来サミットで行われる予定です」と述べた。
国連のプレスリリースによれば、気候野心サミットでは、世界の指導者たちが気候危機に対処するための取り組みを「実践する」機会も設けられるという。気候野心サミットでは「三つの加速トラック:野心、信頼性、実装」に焦点を当てる。
昨年は、国連の間違った取り扱い方の例であり、国連をないがしろにして行動することでその影響力を薄めてしまえばどうなるかの例でもあった
アマル・ムダラリ博士
パンデミックへの備えもまた、世界の指導者、国連総会議長、および世界保健機関との会合の主題となる。彼らは、将来のパンデミックに対処し、世界の人々の健康を守る上での今後の道筋を定めるための宣言を採択する。
また、ユニバーサルヘルスケアに関する会合、開発のための資金調達に関するハイレベルな対話、および結核との戦いに関する会合も開かれる。最後に開かれるのは、来年9月の国連未来サミットに向けた準備を開始するための大臣クラスの会合だ。
これほど議題が詰め込まれているため、第78回国連総会ほど忙しい総会は今後しばらくないことだろう。にもかかわらず、国連安保理常任理事国の指導者の中で、出席予定があるのはアメリカのジョー・バイデン大統領だけだ。他の常任理事国指導者が不在であるからといって、それ以外の世界の国々がニューヨークに集まっていることの重要性が貶められるわけではない。常任理事国4カ国の不参加は、どの国が参加しているかに関わらず継続される国連の重要な仕事に対するメッセージなのであろう。代表団が部屋に集まっているのだから、今週国連が行う仕事の重要性は何によっても損なわれることはない。
国連という組織、そして国連の土台にある構造によって、これまで78年に渡って新たな世界大戦の発生が防がれ、すべての国(現在193カ国、設立時には勇敢な50の国々が加盟)がうまく協調してきたという事実は、国連という不完全な組織に対する信任投票である。私は以前、ニューヨークのファーストアベニューにある国連本部の建物の中にいる自分たちをノアの箱舟だと考えていた。私たちは今も共に席に着き、交渉をし、より良い世界に向けた仕事を行っている。一方、外の世界の雑音や不信、憎しみ、そして分裂がさらなる水門を開き、そこから流れ出る洪水が方舟を押し流そうとしている。
国連に対するなんらかの批評に直面するたび、私はアメリカ大統領のドワイト・アイゼンハワー氏を思い出す。彼は1953年の総会でこう述べた。「歴史上、これほど多くの人々に対するこれほど大きな希望が、ひとつの組織の下に集まったことはありません」。彼の言葉は、これに続く発言も相まって、今もなお真実の言葉として響いている。「欠陥や失敗をあげつらうこともできますが、それでもなお国連は、戦いをせず話し合いをするという、組織一丸となって追求される人類最善の希望を代表するものです」。私たちは、そして特に世界の指導者たちはみな、今週イースト川の上にある壮大な希望の貯水池で、国連を存続させ、よりよくしていくために取り組むのだということを覚えておくべきである。