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何十億という人々がコロナウィルスの経済的被害者となろうとしている

 マスクをした航空会社の職員が、タイのバンチャン地方のラヨーン県にあるU-タパオ空港に立つ。(ロイター)
マスクをした航空会社の職員が、タイのバンチャン地方のラヨーン県にあるU-タパオ空港に立つ。(ロイター)
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05 Mar 2020 02:03:35 GMT9
05 Mar 2020 02:03:35 GMT9

多国籍組織が経済報告書を作成する際、通常は都会の中心地、生産に明け暮れる工場、笑顔の子供達といった何の変哲も無い感情を刺激しない写真が表紙を飾る。パリに本拠地を置く経済協力開発機構(OECD)による最近の報告は、それとは違っていた。世界の最も先進的経済に注目するこの多国籍開発組織は、一見ぱっとしない、しかしショッキングな1枚の写真を掲載した。不気味に人気の無い空港ターミナルの写真だ。

空港といえば、搭乗者で溢れかえる慌ただしいターミナル、明るい照明、人や物の動き、と いったイメージがある。実際、世界全体で毎年約46億人、一日1,250万人もの搭乗者が空の旅をする。だからこそその写真からのメッセージは明白だった。多くの一流の科学者たちが「回避できない世界的なコロナウィルスの大流行」と呼ぶこの事態の急速な拡大によって、世界は極めて深刻な難局に向かっていると言える。人気の無い空港のターミナルという現象は氷山の一角にすぎない。

OECDはすでに2020年の世界成長予測を2.9%から2.4%へ下方修正した。しかしOECDは、万が一この伝染病が他の多くの国々へ拡散するようなら、その成長率さえ影響を受けるとしている。そのような段階になれば、世界は1.5%というわずかな成長率にとどまることになるとOECDは言う。

世界経済の低迷の多くが中国の低迷に起因する。OECDによれば、実に中国は世界中の物品需要の40%、国際観光業のほぼ10%、世界貿易の11%、世界的な国内総生産の17%を占めているという。

コロナウィルスは、MENA諸国がすでに2020年の低い経済成長に喘いでいるという時に発生した。

Afshin Molavi

ではこのウィルスは中東及び北アフリカ(MENA)にはいかなる影響を及ぼすのか?同地域内の数カ国には、ただちに激しい影響が及び、その長引く後遺症についてはコロナウィルスが収束するか否かに大きく左右されることになろう。

イランはウィルスの最前線にあり、MENA 地域で最も大きな打撃を受けている国だ。政府の統計によると、2,300 人以上のコロナウィルス感染者が確認され、そのうちの70名以上が死亡している。しかし、独立的立場の専門家たちは、実際の感染者数はその数字よりもずっと多いはずだという。トロント大学の疫学者チームによると、イランには実際には約1万8千人の感染者がいて、その数は増加しつつあり、BBC ペルジャンは病院のログを基にして、死亡者は200人以上にのぼると推定している。

一人一人の死が悲劇である一方で、よりマクロ的な見方をすれば、イラン経済は現在そのような一撃に対処できるような状態ではない。米国による制裁で孤立化が高まり、慢性的な管理不行き届きと汚職の渦中にあるからだ。国際通貨基金によると、イラン経済は2019年に9%縮小し、世界で最悪の経済状態にある国の一つとなっている。2019年にイランより状態の悪かった国はリビアとベネズエラだ。

世界保健機関のチームが今週イラン入りし、イランの高官たちは大々的な消毒活動と医療チームによる家庭訪問を開始した。しかし、たとえイランがこのウィルスの拡散を食い止めることができたとしても、イラン経済は世界的なコロナウィルスによる悪影響でさらなる打撃を受けることは間違いないだろう。

イランの現状はMENA 地域で最も深刻なものだが、決してイランだけの話ではない。中国経済の混乱が続き、ウィルスによって東アジアの経済が打撃を受ければ、原油価格はさらに落ち込む可能性がある。ほとんどの ペルシャ湾岸協力会議のメンバー国が、中国とアジア圏からの石油と天然ガスの需要に大きく依存しているからだ。

中国、韓国、日本の三国ともコロナウィルスによる経済低迷に多かれ少なかれ直面している。これらの経済が引き続き痛手を受け続ければ、石油と天然ガスの需要は減少する。ロシアとOPEC がそのタッグチームによる生産削減を見直して市場を一時的に盛り上げたとしても、その基盤となっている需要は、アジアの世界的なサプライチェーンが平常通りに戻るまで低いままとなるだろう。大部分のMENAの石油が西ではなく東へ行くのだ。

西側諸国について言えば、北アフリカの数カ国はヨーロッパとの貿易、サプライチェーン、観光業に敏感に左右される。中国が低迷すればヨーロッパも同様だ。ヨーロッパが低迷すれば北アフリカ諸国が大きな打撃を受ける。彼らの輸出と観光業の多くがヨーロッパ市場に大きく依存しているからだ。

ドバイやイスタンブールなどの主要国際空港のハブや、国際線への中継となる国内航空会社は、原油価格の低下による恩恵は被れど、利用者数の伸び悩みによって痛手を受ける。

さらにコロナウィルスは、MENA 諸国がすでに2020年の低い経済成長に喘いでいるという時に発生した。若者の失業率はいまだに30%前後にとどまっており、エジプト、アルジェリア、イラク、スーダンなど同地域内の人口の多い国々では、不満をためた国民からの継続的なプレッシャーに直面することになろう。

ウィルス観察者らはMENA 地域及び世界中で確認された感染者や死亡者の人数を記録するのに忙しいようだが、このウィルスの被害者が他にもいることを覚えておくことが重要だ。我々の地域の何千万人という人々が、そして世界全体では何十億人もの人々が、これから起こる経済低迷によって大きな打撃を受けることになる。

Afshin Molavi はジョンズ・ホプキンズ大学外交政策研究所高等国際研究大学院の上級研究員で、ニュー・シルクロード・モニターの編集員かつ創設者。ツイッター:@afshinmolavi

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