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私たちの地球が直面している脅威は相互に関連し合っている

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19 Mar 2020 04:03:27 GMT9
19 Mar 2020 04:03:27 GMT9

人命が犠牲になっただけでない。オーストラリアでは今年、前例のないほど厳しい野火・山火事シーズンにより、推定で2,500件の家屋が破壊され、数億という動物が死に、経済が破壊され、政府は厳しい状況に追い込まれた。この国の観測史上最高の年間気温と最低の年間湿度を記録してすぐに起こったこの火災により、私たちが直面している世界的な課題の深さや複雑さが浮き彫りになった。同様に、中国で動物から人間に飛沫して始まった新型コロナウイルスの集団発生により、世界中の経済的、社会的生活は今にも混乱に陥りそうな状況にある。

20世紀の大半を通じて、私たちはあらゆる問題に対し、技術で簡単に解決できる方法があると思いたがっていた。ワクチンや抗生物質によって健康を保つことができ、緑の革命によって食物には困らず、経済成長によって学校や病院に支払うことができる、と。だが、今日の野火や伝染病により、人類が直面するリスクはそれほど単純なものではなく、1つの問題のみを解決するよう設定された解決策で簡単に抑えられるようなものではないことが明らかになった。

現在の世界環境を考慮してみよう。現在、100万種が絶滅の危機に瀕しており、気候変動が壊滅的な影響を及ぼすことがますます明白になってきており、人々の集団移動がますます普通のことになってきており、世界中の民主主義が党派の二極化や科学と専門知識に対する懐疑論に支配されている。

全体像を一つの見晴らしの良い場所から見定めるのは難しいかもしれない。だからこそ、今日の課題を考慮した新しいナラティブが惑星系全体の複雑さのなかに必要なのだ。これを目的として、国際研究機関であるFuture Earthは最近、「Our Future On Earth 2020(地球における私たちの未来)」レポートを発行した。洪水や水不足からポピュリズムの増加に至るまで、最近の研究結果と私たちがすでに経験している展開との関係が理解できるようにすることで、今後の展開・展望を捉えたレポートだ。物理科学や社会科学の研究者からの洞察が活用されたこのレポートにより、現在の出来事が起こるようになった原因や要因は何か、より持続可能な方向に進むにはどうすればよいかがよりはっきりと分かるようになっている。

このレポートではまた、52か国222人の科学者にアンケートを取り、人類と地球が直面している30のカテゴリーのリスクについてのアセスメントを行っている。回答者が特定した上位5つのリスクは、異常気象、気候変動の緩和やそれに対する適応の失敗、生物多様性の損失と生態系の崩壊、食糧危機、そして水不足だった。これらの調査結果からは意見の一致がうかがえる。1月の世界経済フォーラムでもリーダーや意思決定者を対象に独自のアンケート調査が行われたが、その回答でも、最も緊急なリスクとして同様のリスクが特定されていた。

Future Earthのアンケートに回答した科学者たちはまた、自分たちが最も懸念しているのはリスクのカテゴリー間の関連性であることも強調した。1つのグローバルな危機が他の危機に次々に影響を及ぼす可能性がある、と予想できる理由は十分にある。たとえば、熱波が水不足や食料不足を加速させるかもしれない。同様に、生物多様性の損失が気候変動を悪化させるかもしれないし、またその逆も考えられる。

今日の課題を考慮した新しいナラティブが惑星系全体の複雑さのなかに必要だ。

エイミー・ルアーズ

さらに、アンケート結果に挙げられた30のリスクすべてを結ぶ微細な相互関連性が、今後の持続可能性への取り組みに大きな影響を与える可能性がある。 政治的ポピュリズムとデジタル情報通信技術(ICT)の普及との関連性を考えてみよう。ポピュリストの政治家が主要な有権者コホートにリーチするのに高度のデジタルマーケティング手法を利用しているのだから、この2つの現象は一緒に成長していることになる。さらに悪いことに、ほとんど規制されていない今日のソーシャルメディアネットワークを通じて自由に流れ出る偽情報やプロパガンダにより、ポピュリストの「我々対彼ら」という短絡的なメッセージは広く行き渡ることができたのだし、根強い利権が国民の大半を説得し、気候変動の危険性を無視するように仕向けることもできていたのである。

だが、デジタルICTは利益や有益な効果を大いにもたらす可能性も抱えている。デジタルICTをうまく活用すれば、気候変動活動家は声高にメッセージを伝えられるし、企業は排出量を削減できるし、住民は地元の生態系を監視し保護することができるようになるかもしれない。今後のことを考え、「ビッグテック」企業を率いる経営者たちは、自社のビジネスモデルを作るときに自社の収益だけに集中するべきではない、ということを認識する必要がある。これらのテック大手の強力なアルゴリズムやプラットフォームを活用させれば、持続可能な開発に貢献することができるのだ。

2020年は重要な年だ。国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を達成するのに、僅か10年しか残されていないからだ。数多くの企業や都市が気候変動への取り組みを行い、行動計画を策定している。今年11月の国連気候変動会議では、世界の指導者たちが温室効果ガス排出抑制に向けたアジェンダを再び推し進めようと試みることだろう。そして10月には、国連「生物の多様性に関する条約(CBD)」で新たな生物多様性の目標が設定されることになっている。

緑豊かなアマゾンのジャングルやツーリストフレンドリーなアフリカのサバンナだけが地球の生物多様性なのではない。植物や動物の種は、特に医学や農業への貢献を通じて、人間自身の生存の鍵となってくれるものだ。増え続ける世界の人口を養うには、ますます異常さを増すばかりの気候条件に対処できるような、これまで異常に生産性の高い、多様な作物システムが必要になる。

しかし、持続性への取り組みを成功させるには、直面する課題が相互に関連していることを認識しなければならない。私たちが対処しなければならないリスクは、他のリスクから離したり、他の政治的・社会的ダイナミクスから離して解決することはできないのだ。健康、経済、環境をめぐる今日の課題を解決するには、学際的かつ多国間で協力し合う、システムベースのアプローチが必要となる。そしてそれには、私たちは自分自身の態度やライフスタイルはもちろんのこと、自分たちの機関や制度についても再考し、変革する必要がある。

私たちの大半にとって、オーストラリアの野火・山火事は遠くで起こった危機かもしれない。だが、これは世界的な危機としてみなされるべきである。そして、新型コロナウイルスの流行と同じくらいのエネルギーと集中力で取り組むべきである。1つの島に孤立している国や政府、社会、企業、個人など存在しない。最終的には、私たち皆が同じ脅威に直面することになるのだ。なぜなら、私たち皆が同じ1つの惑星に繋がっているからである。抱く未来も1つなのだ。

 エイミー・ルアーズは、Future Earthの国際事務局長であり、これまでにSkoll Global Threats Fundの気候担当ディレクター、ホワイトハウス科学技術政策局の気候レジリエンス・情報担当アシスタントディレクター、Googleのシニア・エンバイロメンタル・プログラムマネージャーを務めた経験がある。著作権:Project Syndicate、2020。

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