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世界はウイルス機器の中、難民を支援する道義的責任を負っている

レバノン南部でコロナウイルスの感染拡大の予防策として、男の子の顔にマスクをつけるシリア難民。(ロイター通信)
レバノン南部でコロナウイルスの感染拡大の予防策として、男の子の顔にマスクをつけるシリア難民。(ロイター通信)
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16 Apr 2020 08:04:18 GMT9

先進国がコロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大と死亡者数の抑制に対処しようともがいている中、ウイルスが世界の最も脆弱な人々、難民や国内避難民にどのように影響を与えるのかという不安が高まっている。

多くの難民は人口密度が高い都市部やキャンプに住んでいる。いずれも、高い人口密度や、健康状態が悪く、十分なサービスが不足している人々を受け入れているということを考慮すると、COVID-19の感染拡大に対しては脆弱だ。人道支援活動家らは、タンザニアのンドゥタやギリシャのモリア、シリア国内外の同国民向けの複数のキャンプや、バングラデシュのコックスバザールなど、世界中のキャンプから警鐘を鳴らしている。アメリカとメキシコの国境や、ベネズエラから逃げて来た人々を受け入れている南米の地域など、亡命申請者や移民などを多く抱えるその他の場所の状況についても、不安がある。

難民や亡命申請者が集中するほぼ全ての場所で、人々は既に複数の健康上の問題を抱えている。彼らは時に疲れ果て、ストレスを感じ、シェルター不足で雨風に晒され、栄養状態が悪くなっている。多くは健康上の不安で医療にアクセスすることはできない。COVID-19がこのようなグループを襲えば、多くの人々が感染症と闘う準備ができていない中、病気は極めて簡単に拡散する可能性がある。

さらに、キャンプの環境により、ウイルスの拡散を抑制する基本的な手法を実践することができないことがよくある。難民は石鹸や、あるいは十分な水にさえも利用できない場合が多く、水や食料の受け取りや、手を洗うのを待つのに大勢の集団ができることもしばしばだ。手袋や医療用マスク、手の消毒液などのアイテムの利用は問題にすらならない場合も多い。多くのキャンプは人道支援頼みで、国境封鎖やその他の封じ込め策により、供給が混乱したり、人道支援活動家がキャンプに入れなくなったりする懸念がある。

難民が生活する多くの地域で、人の密集が大きな問題となっている。これは、ドイツの正式な難民住宅から都市部の非公式な住宅、正式な難民キャンプに至るまで、多くの場所で言えることであるが、密集は複数の特定のキャンプで特に深刻だ。例えば、国際救済委員会委員長のデイヴィッド・ミリバンドは、コックスバザールやギリシャの島々のキャンプでは、人口密度がニューヨーク市や武漢の何倍も高くなっていると言及している。人口密集により、社会的距離戦略は実践不可能となり、COVID-19に感染した人を隔離することは極めて困難になっている。このような場所の医療従事者や医療施設の多くは、コロナウイルス危機の前の時点でそのキャパを既に超えているため、密集により医療へのアクセスも難しくなっている。

パンデミックは、亡命申請や難民の第三国定住プロセスも妨げ、遅れを生じさせている。亡命は、母国の危機から逃れた人々のより安全な国での滞在を可能にする一方、難民の第三国定住は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が管理するプロセスで、別の国に定住できているのは、最も脆弱な難民の僅か数パーセントだ。このパンデミックは社会的距離戦略や、人々の在宅勤務、その他の要素により、これらのプロセスを難しくしており、一部の国々が亡命申請や難民の移送を一時停止している一方、現在でも申請を処理し、サービスを提供しようとするものの、ウイルスの拡散を止めるために設定された制約の結果、遅延や問題に直面している他の国もある。3月、UNHCRは一時的に難民の定住先への送り出しを停止し、航空便の減少や国境の封鎖、一部の国が難民の受け入れを一時停止していることなど、複数の障壁を映し出すこととなった。

国際救助委員会、UNHCR、国境なき医師団、難民と共に働くその他の機関は各国政府に対し、難民を保護する道義的責任と、難民コミュニティの間で感染拡大を封じ込めないと世界の回復に向けた努力を後退させることになるという、実際に起こり得る現実の両方を認識するよう呼び掛けている。さらなる資金と装備が必要であり、各国政府は難民の人々に対して現在行われている人道支援を保証すべきだ。国際救助委員会は難民の間で広がるCOVID-19に関するデマとの闘いに取り組んでおり、手洗い場の設置と、医療トリアージと隔離のキャパシティの確保を支援するよう求めている。UNHCRは手洗い用品と設備を提供し、ウイルスの予防について教え、隔離ユニットなどの設置を支援している。3月、UNHCRは今後9ヶ月間で2億5500万ドルをウイルス予防と管理事業に盛り込むよう求めた。難民自身も、キャンプの一部の難民が他の難民のためにマスクを縫うなど、できることを手伝っている。

難民コミュニティの間で感染拡大を封じ込めないと世界の回復に向けた努力を後退させることになる。

ケリー・ボイド・アンダーソン

パンデミックは難民の脆弱性や密集や医療ケアや食料、衛生設備、装備の不足に対処する世界的な行動の必要性に光を当てた。パンデミックは、現在医師や看護師として第二の祖国でCOVID-19の患者のケアをしている難民たちの世界中の様々な物語など、難民が新たな祖国でもたらせる新たな価値についても光を当てた。他にもマスクを製造している難民や、社会生活に不可欠な仕事を行う難民、様々な方法でそれぞれの社会に貢献している難民もいる。

危機においては、最も脆弱な人々を助けるという、政府や国民の道徳的要請が存在する。難民キャンプやその他の場所を主要なウイルス拡散源にしないようにするという、現実的な理由もある。難民の流入を促す紛争や危機は、ウイルスを完全に国境の手前で封じ込められないのと同様に、いかにそれらの問題が国境の中で封じ込められないのかということを示している。各国政府は今もこれからも、COVID-19の拡散を抑制するために、連携する必要がある。今は難民の保護を後退させる場合ではなく、むしろ難民の環境を改善し、亡命・第三国定住のプロセスを今後いかに合理化し、新しいものにしていくのかを考える時だ。

ケリー・ボイド・アンダーソンは、国際安全保障問題と中東の政治・ビジネスリスクを専門とするプロのアナリストとして16年以上の経験を有するライター兼政治リスクコンサルタント。彼女のこれまでの職歴には、オックスフォード・アナリティカの諮問副部長やアームズ・コントロール・トゥデイの編集長などがある。ツイッター:@KBAresearch

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