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イランの地域戦略の変化の背景にあるものとは

地域政策におけるイランの明白な変化は歓迎されるが、戦術を超えたものでなければならない。 (AFP)
地域政策におけるイランの明白な変化は歓迎されるが、戦術を超えたものでなければならない。 (AFP)
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14 Apr 2023 02:04:17 GMT9

アブデル・アジーズ・アルウェイシグ博士

イランが中国の仲裁を受け入れ、サウジアラビアとの平和と和解を模索する姿勢を見せたことに多くの人々が驚いた。中国の外交的功績を否定するわけではないが、イランにはイランなりの事情があった。

2023年初頭、国内では抗議運動が広がり、国外では孤立を深めていたイランの経済見通しは暗いものだった。近隣諸国が急激に成長する一方で、イランは停滞していた。核交渉の再開に失敗し、アメリカの制裁の解除は遠のき、それどころか、ウクライナ戦争に介入した結果として更なる制裁が積み重なることとなった。地域の平和の見通しが立たないということは、外国からの投資が認めないことを意味する。最高政策立案者たちは、政府には国民の不満に対処する手段が尽きていたことを認識していた。

イランは停滞に向かっていた — 高い失業率と約50%の高いインフレ率が合わさり、実質成長率は最低限である。公式の数字によれば、過半数の国民の収入は貧困線を下回っている。リヤル相場は1ドル420,000リヤル以上で取引されており、1月22日には過去最低の1ドル447,000リヤルを記録した。比較対象として、1979年の革命以前には1ドル70リヤルで取引されていた。

1月30日、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師は国民に向けて演説を行い、政策の失敗を批判した。テレビ演説にて彼はイラン経済が「10年遅れている」ことを認め、「停滞を示す多くの否定的な指標」に言及しながら、2011年から2021年の間に経済が停滞したと述べた。そして「これらは公的機関の信頼できる指標であり、単なる空論ではない 」と野党の発言を引用するかたちで付け加えた。また彼は専門職に従事する若者の失業者数の多さを「不名誉」と呼び、彼らの高い出国率につながっていると非難した。

彼は、景気停滞は制裁や原油価格の変動など外的要因によるものとしていたが、一転して政権運営の貧弱さと過剰な規制が原因であることを認めた。驚くべきことに、彼はイランの不況の一因として、核計画に比重を置きすぎたことを挙げた。

若者の失業について、ハメネイ師は、国は彼らに仕事を与えることができないため、大学卒業者の増加はもはや誇りとは呼べず、名誉ではなく不名誉になっていると述べた。

また、ハメネイ師は政府の形式主義と「規制および非規制機関の恣意的な介入」を強く批判し、中長期にわたる持続的な経済成長を求めた。彼は知識集約型の企業や仕事の創出に重点的に取り組むとともに、「目標の達成のため我々は少なくとも7年から8年、あるいは10年集中しなければならない」と述べた。 

イラクやシリア、レバノン、イエメンへの介入はそれらの国々に壊滅的な打撃を与えたが、イランもまた高い代償を払うこととなった。

アブデル・アジーズ・アルウェイシグ博士

このような異例の政府への公の非難は、抗議者による政府への批判をそらすためのものであったと思われる。ハメネイ師がイランの低迷の始まりとして2011年を選んだのは、いわゆる「アラブの春」後のイランの地域政策の変化と重なるという点で興味深い。2011年以降、テヘランの近隣諸国への行きすぎた介入がもたらした、イラン国内が壊滅的な打撃を受けたことに対する、遅すぎた報いを意味するのかもしれない。

イラクやシリア、レバノン、イエメンへの介入はそれらの国々に壊滅的な打撃を与えたが、イランもまた高い代償を払うこととなった。威信を高める代わりに国際的地位を低下させ、アラブ世界との関係を悪化させた。国内の観衆にとってより重要なことは、彼らがイランの人々がまともな生活水準を保つために必要な資源を奪ったことだ。

イランの人々は、近隣諸国のように成長するのではなく、自らの生活水準がだんだんと落ちていくのを目にしてきた。新型コロナウイルスの流行以降、アラビア湾は世界で最も急速に成長している地域であったが、イランはその傾向とは対極にあった。2022年、湾岸協力理事会(GCC)諸国は平均 6.4% と飛躍的な成長を遂げ、国内総生産の合計が初めて2兆ドルを超えた。対照的に、イランはパンデミック前のレベルの成長に戻るのに苦労しており、世界銀行によると、2022年の名目GDPはわずか 4,070億ドルで、GCC諸国の20% に過ぎない。一人当たりの比較はさらに厳しい。イランの人口は8,400万人のため、2022 年の1人あたりのGDPは4,809ドルとなり、GCC諸国の1人あたりの平均所得の15%未満でしかない。

原油価格の上昇に支えられた、新型コロナ流行以降のイランがようやくなしえたわずかな成長は、約50%という、GCC諸国の平均3.7%を大きく超えるインフレ率によってほぼ打ち消された。そして、通貨価値の下落が輸入品をより高価にした。 労働参加率は低下し、大卒者の失業率は上昇している。特に女性の失業率は25%を超えており、昨年 9 月以降、この国を巻き込んだ女性主導の抗議活動の激しさの一因となっていることは間違いない。

イランでの抗議活動は、女性に対する不当な制限など、他の問題に端を発しているが、経済的な不満が一役買っていることは確かである。 ハメネイ師はその不満の原因のいくつかを挙げたが、他にもたくさん存在する。 いわゆるZ世代やズーマーと呼ばれる人々による抗議運動では、政府の経済や社会政策の失敗を頻繁に引き合いに出し、近隣諸国や世界の他の国々と比較してイランが遅れをとっていることが槍玉に挙げられる。

イランの地域政策の明確な変化は歓迎すべきことだが、それは戦術やサウジアラビアとの外交関係の再開を超えたものでなければならない。イランが社会に復帰し、地域統合の相乗効果から利益を得るためには、変化をさらに進める必要がある。この地域と世界の主要な問題の1つは、テヘランが3月10日と4月6日に北京でサウジアラビアと発表した共同声明を確実に履行することであり、これには国家間の行動規則を尊重すること、すなわち国際法と国連憲章を尊重することが含まれる。

イラン人を含む中東の人々は、平和と統合でなくとも、緊張緩和とデスカレーションの恩恵を享受するだろう。この地域の国々が、過去40年間にわたり繰り広げてきた、資源を枯渇させ、国民の間に敵意と憎しみの種を蒔いた、終わりのない虚無主義的な戦争ではなく、平和の構築と繁栄の達成にエネルギーを集中させる時が来たのだ。

  • アブデル·アジーズ·アルウェイシグ博士は湾岸協力理事会(GCC)政治問題·交渉担当事務次長で、アラブニュースのコラムニスト。本記事で表明されている見解は個人的なものであり、必ずしもGCCの見解を代表するものではない。

ツイッター: @abuhamad1

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