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どの周辺国とも平和な関係を築いていたトルコの時代は今や遠い過去に

モスクワ郊外のジューコフスキーで行われた航空ショーMAKS 2019でのロシアのウラジミール・プーチン大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領。(ロイター通信)
モスクワ郊外のジューコフスキーで行われた航空ショーMAKS 2019でのロシアのウラジミール・プーチン大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領。(ロイター通信)
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07 Feb 2020 08:02:03 GMT9
07 Feb 2020 08:02:03 GMT9

トルコは、東洋と西洋が交わる地政学的に価値の高い場所として、非常に高い地位を占めている。ここは、何世紀にもわたって、モノや思想の経由国となってきた。オスマン帝国の時代には、それを利用して世界の大国の1つになれたほどだった。イスタンブール、旧コンスタンチノープルほど文明全体にかかわる長い歴史を持ってきた都市はほとんどない。

しかし、トルコのこれほど多くの大国(ヨーロッパ、ロシア、イラン、イラク、シリア、カスピ海地域など)への近さは、独自の危険性や紛争の潜在的可能性を生じさせている。アフメト・ダウトオール元首相は、外務大臣時代にある方針を書いている。トルコは全ての隣国と良い関係を築かなければならないと明記しているのだ。これは、アメリカのイラク侵攻の後、ただし、シリアが内戦に突入する前のものだ。

トルコはNATOの加盟国だが、現在でもくすぶるキプロスをめぐる紛争や、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領がヨーロッパに対して、シリア難民を本国に送り返すと絶えず発言していること、また、ロシアのウラジミール・プーチン大統領と強固な関係を構築してきたことなどが原因で、同盟国とはぎくしゃくした関係が生じてきた。大統領はロシアのS-400防空システムを購入した。これによりトルコはすぐにNATOのF-35戦闘機プログラムから、航空機の受領国として、また、サプライチェーンの900を超える部品の製造国として、追放されることになった。

先月、両大統領が問題のパイプライン、トルコストリームを開通させた。これは、ウクライナを迂回して、ロシアから東南ヨーロッパへとガスを運ぶもので、アメリカのドナルド・トランプ大統領やその政権にとっては腹立たしいものだ。

しかし、2人の政治指導者の間の関係が全てバラ色というわけではない。彼らは多くの問題で真逆の立場にあり、最も顕著なのがシリアとリビアの問題だ。ロシアがバッシャール・アサド大統領とハリファ・ハフタル陸軍元帥を指示する一方、トルコはシリアの反体制派や国連が支援するリビアのファイズ・アル・サラージ政府を支援している。両大統領は、湾岸地域のカタールの問題に関しても、真逆の立場にいながら、友好関係を築いている。

月曜日、5人のトルコ兵と民間人3人が反体制派の支配するイドリブ県でアサド軍によって殺害された時、事態は差し迫った状況に陥った。イドリブはトルコにとって大問題だ。この県には、現在の紛争でシリアのその他の地域から避難を余儀なくされた約300万人がいる。彼らはキャンプや今にも崩壊しそうな住居で暮らしている。その多くがトルコへと北に移動する意思を有しており、同国は既に360万人のシリア難民を受けれ、これ以上の受け入れは拒否している。

エルドアンには中東を苦しめている様々な紛争で巧妙に手を引いているロシアを遠ざける余裕はない。

コーネリア・マイヤー

エルドアンは、事件を受けて、決して言葉を失うことなく、プーチンを激しく攻撃し、「見て見ぬふりをしている」とロシアを非難した。彼はキエフも訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と肩を並べ、「ウクライナに勝利を」と挨拶した。これは確実にプーチンの怒りを買い、彼は気分を害され、裏切られたと思ったに違いない。

それ以降、2人の指導者は電話で会談し、イドリブに関してより緊密に連携することを約束した。それはそうなのだろうが、状況は引き続き差し迫っており、緊迫している。シリア北部からのアメリカ軍の撤退も、状況をより不安定にした。トルコには、中東を苦しめている様々な紛争で巧妙に手を引いているロシアを遠ざける余裕はない。この地域におけるその影響力はますます強くなる一方だ。エルドアンは、ガスプロムがトルコにドイツよりも高いガス料金を請求することを不満に思うかもしれないが、トルコストリームの供給能力はノルド・ストリーム1と2を合わせた3分の1に満たず、割引は量に応じたものだ。

ロシア、イラン、トルコがシリアの安全地帯に関して合意したアスタナ和平プロセスが機能していないのは事実だ。しかし、これをロシアの立場から見ると、これは恐らく一時的な措置に過ぎなかったのかもしれない。プーチンはアサドがこの国全土で力を取り戻すことを望んでいるからだ。

大きい相手と渡り合うには、強力な同盟国が必要だ。エルドアンが難民のためにトルコの国境をヨーロッパへ開くと繰り返し脅していることや、ロシア製の武器購入、トルコストリームの開通などは、人権や報道の自由を侵害していると非難している西洋との間で既に高まっている緊張関係の緩和にはほとんど役に立っていない。トルコの大統領は、2015年にシリアとの国境にあるトルコの領空を侵犯したロシアの戦闘機をトルコが撃墜した時に起きたことも覚えている。トルコ政府にとって重要なロシアとの貿易と観光の両方で、壊滅的な影響が出たのだ。

外交政策の選択には常に代償が伴う。特に中東ほど紛争が多い地域では、絶えず変化する地政学的・経済的現実にも突き動かされる。トルコはその選択と上手く付き合っていかなければならない。トルコの視点から見れば、エルドアンには、この地域の新たに台頭する大国、ロシアへのある種の配慮策を見つける以外に選択肢はなかったのかもしれない。全ての周辺国と等しく上手く付き合いやすかったダウトオールの時代は遠い昔になってしまった。

コーネリア・マイヤーは経営コンサルタント、マクロ経済学者、エネルギーの専門家。ツイッター: @MeyerResources

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