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児童虐待事件でスポットライトが当たる、レバノン危機の罪なき犠牲者たち

街を壊滅させた大爆発が近くで発生した後、通りの瓦礫や破壊された建物の傍でサッカーをする子供たち。2020年8月28日、レバノンの首都ベイルートのジュマイゼ地区。(AFP)
街を壊滅させた大爆発が近くで発生した後、通りの瓦礫や破壊された建物の傍でサッカーをする子供たち。2020年8月28日、レバノンの首都ベイルートのジュマイゼ地区。(AFP)
歩道の選挙ポスターの下に座る物乞いとその子供たち。2022年4月27日、レバノンの首都ベイルートのコーラ橋の下。(AFP)
歩道の選挙ポスターの下に座る物乞いとその子供たち。2022年4月27日、レバノンの首都ベイルートのコーラ橋の下。(AFP)
政府が緊急経済救済計画を採用したにもかかわらず開かれた、新たな指導者を要求する集会で、感情を表に出すレバノンの母親とその子供たち。2019年10月23日、ベイルート。(AFP)
政府が緊急経済救済計画を採用したにもかかわらず開かれた、新たな指導者を要求する集会で、感情を表に出すレバノンの母親とその子供たち。2019年10月23日、ベイルート。(AFP)
母の日にレバノンの政治的麻痺や深刻な経済危機に抗議する同国の女性たち。2021年3月20日、ベイルート。(AFPファイル写真)
母の日にレバノンの政治的麻痺や深刻な経済危機に抗議する同国の女性たち。2021年3月20日、ベイルート。(AFPファイル写真)
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05 Aug 2023 11:08:32 GMT9
05 Aug 2023 11:08:32 GMT9

ドバイ:レバノン社会は、同国最北部のアッカール県で祖父母と暮らしていた6歳の少女リーン・タリブちゃんが亡くなった先月の事件のことを知り愕然とした。検視官の報告によると、リーンちゃんは度重なる性的暴力で負った傷がもとで死亡したというのだ。

暴行に関与したとして少女の母方の祖父と母が逮捕された。一方、この事件に対しアラブ世界全体で怒りの声が上がっており、犯人らを死刑にせよとの意見がソーシャルメディアに投稿されている。

リーン・タリブちゃん。(写真:ツイッター)

レバノンは国際法により児童保護を提供する義務を負っている。1990年に、児童を心理的・身体的・性的虐待やあらゆる形態の搾取から保護するためのCRC(児童の権利に関する条約)に署名しているからだ。しかし、その実施に関してはレバノン政府の対応は残念なほど不十分である。

レバノンの人権監視団体「インサン協会」の会長であるチャールズ・ナスラッラー氏はアラブニュースに対し次のように語る。「我々が見るところでは児童保護の件数は増えており、虐待はより深刻になっている。これは間違いなく経済状況に、そして多くのケースで説明責任や保護が欠如していることに関連している」

レバノンでは経済危機が始まって以降、世界的パンデミックによる経済的圧力で危機が悪化し、レバノン・ポンドの価値の98%が失われ、国民の約80%は貧困線以下の生活に陥っている。

レバノンの集合的トラウマが深まったのはちょうど3年前のことだった。数千トンの硝酸アンモニウムが不適切に保管されていたベイルート港の倉庫から火が出て、史上最大級の非核爆発が起こったのだ。

2020年8月4日に発生したこの爆発は、首都ベイルートの1つの地区全体を破壊し、218人の死者と約7000人の負傷者を出し、150億ドルの物的損害をもたらし、推定30万人の住居を奪った。

ベイルートの1つの地区全体を破壊し、218人の死者と約7000人の負傷者を出し、推定30万人の住居を奪った2020年8月4日の大爆発は、長引く経済危機で深刻な打撃を受けたレバノンの集合的トラウマを深めた。(AFPファイル写真)

家庭保護専門家のラナ・ギンナウィ氏はレバノンのニュースメディアに対し、児童虐待の件数が増加しているのは、児童保護サービス、民事裁判、抑止力、危機管理リソースの崩壊をはじめとするいくつかの要因によるものであるとの見方を示した。

児童保護を専門とする非政府組織「ヒマヤ」の国際パートナーシップコーディネーターであるパトリシア・クーリー氏は、レバノンの経済的衰退が暴力事件増加の主な原因だと指摘する。

ヒマヤは2023年の最初の5ヶ月間だけで1415件の児童虐待に対応したという。そのうち26%はネグレクト、18%は心理的暴力、29%は身体的暴力、18%は搾取、10%は性的暴力を伴っていた。

男女別だと、今年に入って記録された暴力被害者の46%が女児、54%が男児だった。虐待を受けたとされる児童の大半はシリア国籍(74%)で、レバノン国籍(25%)とその他の国籍(1%)がそれに続いている。ヒマヤが記録したケースの約51%には性的暴力が伴っていた。

クーリー氏によると、レバノン国内では児童からのニーズが高まっており、かつ差し迫っているが、各種団体、親たち、当局、学校がそれに対応することはほぼ不可能になっているという。

経済危機のせいで多くのサービスが停止している中、各家庭は限界に来ており、子供たちが虐待のリスクに晒されている。

国連児童基金(ユニセフ)が2021年に公開した報告書によると、レバノンでは児童の2人に1人が「身体的・心理的・性的暴力のリスクに晒されている」。また、「レバノンでは約180万人の児童が多次元貧困を経験しており、家計を助けるために児童労働や児童結婚などの虐待を受けることを強いられるリスクに晒されている」という。

親が複数の仕事を掛け持ちせざるを得ない状況であるケースが多く、デイケアやベビーシッターサービスの需要が高まっている。しかし、これらのサービスに対する監視や監督が不十分なため、虐待が起こる余地ができてしまっている。

ベイルート近郊の沿岸都市ジュダイダにある保育園「ガルデレーブ」が最近閉鎖された。同保育園の職員が子供たちに対し、口に食べ物を押し込んだり、叩いたり、心理的に虐待したりしている動画が出回ったことを受けた対応だ。

レバノンメディアは7月、子供たちを自分の店や、時には自宅に誘い込んで襲ったとして、ベイルートの商店主が逮捕されたと報じた。

「ウィニヤ・アル・ダウレ(政府はどこだ)」というレバノンのフェイスブックページが最近公開した動画には、母親が自分の子供を激しく叩き、父親が引き取らなければその子と兄弟を殺すと脅している様子が映っている。

NGO「愛と平和の村」が閉鎖された件もあった。創設者のノーマ・サイード容疑者と職員のジェブラン・カリ容疑者が、人身売買、性的虐待、ハラスメントの容疑にかけられたためだ。

路上での物乞いの合間におしゃべりをする2人のストリートチルドレン。レバノンの首都ベイルート。レバノンの路上で生活し働く子供たちの大半はシリア難民だ。彼らの多くは読み書きができず、物乞いで生き延びている。(AFPファイル写真)

このNGOが世話をしていた未成年者らは、薬物・アルコールの摂取や性的行為を強いられたり、サイード容疑者のアパートに呼び出され掃除をさせられたりしたとされている。同容疑者は、世話をしている幼児らの記録や書類を偽造したり、彼らを別の家族に売ったりした罪にも問われている。

捨て子の事例も何件か起こっている。レバノンの最貧都市の一つであるトリポリでは、生後わずか数日の女の子の赤ちゃんが、ゴミ袋に入った状態で野良犬に運ばれていたところを発見された。

最近も、ベイルートのリング橋の下で2人の赤ちゃんが捨てられているのが見つかった。

他に、義務教育や児童労働禁止を定めた法律に違反して、子供を学校に行かせず副収入のために働きに出す事例もある。

路上でチューインガムを売る子供。2015年2月16日、ベイルート。経済状況の悪化により、生活費を稼ぐために路上に立つ子供が増えている。(AFP)

「働きに行く子供たちは二重の危険に直面している。彼らは外界により晒されるうえ、ロースキルでハイリスクな仕事をすることが多いからだ」とナスラッラー氏は話す。

レバノンで児童虐待の件数が増加していることを示す公開データは存在しないが、最近のいくつかの事件が注目を集めたことでこの問題にスポットライトが当たり、子供が傷つくことを防ぐためにもっと注意を払うべきだと要求する声が上がっている。

しかし、注目を浴びて当局が動かざるを得なくなるのは最も目立つケースのみであることが多い。

ナスラッラー氏は次のように語る。「子供が虐待された場合、その事件がメディアに暴露されて多くの報道がなされれば、法体制が迅速かつ適切な措置を取ることになる。報道されなければ、虐待者は大抵は責任を問われない」

「時には宗教法も虐待者の保護に手を貸すことがある」

レバノン当局は、虐待が増加しているとみられることについて、「道徳の崩壊」や「市民意識の欠如」によるものだとしている。

弟か妹をベビーカーに乗せて世話する少女。2020年6月3日、レバノン北部の都市トリポリのバブ・アル・タバネ地区の路地。経済状況の悪化により、生活費を稼ぐために路上に立つ子供が増えている。(AFP)

前出の、子供たちを自分の店や自宅に誘い込んで性的に虐待したとされるベイルートの商店主アラー・チャヒネ容疑者が逮捕された後、国家安全保障局長のトニー・サリバ少将は次のような声明を出した。「近頃レバノンではハラスメントや強姦が増加している。道徳的な緩みや、レバノン人が常に大事にしてきた価値観からの逸脱など、様々な理由によるものだ」

「幼い男女に安全な場所に身を置いてハラスメントから身を守るよう促す真剣な啓蒙活動が学校や大学で行われていない」

「親御さんたちにメッセージを送りたい。触ろうとしてきたりどこかに連れて行こうとしてきたりする人物に立ち向かうよう、息子さんや娘さんにはっきりと警告するようにと」

「親御さんたちはお子さんに、何か事件があれば話すよう伝えるべきだ。ネグレクトは全ての児童や思春期の子供に悪影響を与えるからだ。心の傷や悪影響や苦しみで満たされた人生を避けるためにはそれが必要だ」

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